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義村と桔梗の仲は非常に睦まじく、両家の父だけでなくその家臣達も温かくその様子を見守った。
やがて桔梗は立て続けに二人の子どもを出産する。
一男一女の子ども達は、それぞれ幸村、お菊と名付けられてそれはそれは大切に育てられた。
そして後継となる幸村の誕生をきっかけに、義村は中川家当主の座を継いだ。
「そなたを妻にできたことが、俺の人生で何より幸運な出来事だ」
義村は閨で桔梗を抱きしめながらそう呟く。
桔梗はその広い胸に寄りかかって安心したように目を瞑る。
「この幸せが、永遠に続きますように」
「当たり前だ。そなたは変わらぬ愛を持つ桔梗の花であろう? 」
そんな幸せな二人の生活であったが、お菊を出産してから三ヶ月になる春の終わりのこと。
義村は戦のために長く城を空けることとなった。
桔梗と結婚してからというもの平穏な世が続いていたため、これが結婚後初めての戦である。
桔梗は義村の無事を祈り、布に刺繍をしたためてそれを義村の腕に巻き付けた。
「必ず、ご無事でお戻りくださいませ」
「ああ。必ずそなた達の元へ戻って参る故、信じて城を守っていてくれ」
二人は口付けを交わして、別れを惜しんだ。
桔梗は義村の言いつけ通り、残された家臣達を統率するとともに、二人の子ども達の養育に力を注いだ。
結婚してから五年の月日が経ち二十二歳になった桔梗は、会国にとってかけがえのない存在となっていた。
分け隔てなく家臣達や民達に接する彼女の態度は当主の妻の鑑である。
一方義村は戦で奇跡的な闘いぶりを見せ、戦は中川家の仕える宮代家の勝利となった。
その勝利を祝う宴の席でのこと。
義村は主である宮代家当主、宮代塚元に呼び出された。
「……ご用件とはなんでしょうか」
義村が主の側に膝まづきその顔を伺うと、塚元はこう告げた。
「この度の働き、大したものであった。礼を申すぞ」
「これはありがたいお言葉でございます」
そこでだ、と塚元はこう告げた。
「褒美として、金に加えてわしの末の娘をそなたの側室にしてはどうかと思ったのだが。いかがかな? 」
「……は? 」
「末娘のお雛は今年で十八歳になる。二人の間に子どもが生まれれば、我が宮代家と中川家の繋がりもより一層深まるだろう」
義村はあまりのことに頭が真っ白になる。
「し、しかしながら……私には桔梗という妻がおりまする……」
「そんなことは知っておる。そなたと奥方の仲睦まじさは有名であるからな。だからこそ、側室で良いと申しているだろう」
直に正式な使いを遣わすと言いながら、塚元は去っていった。
残された義村は唖然とその場に立ち尽くす。
武家社会において、主君の命は絶対である。
断ることはその家の断絶を意味するも同じ。
義村に断るという選択肢は存在しないのだ。
「桔梗は……なんというだろうか……」
桔梗以外の女性など、欲しいと思ったことはない。
きっとこれから先も、桔梗だけが義村の唯一なのだ。
中川家の跡継ぎにはすでに桔梗が産んでくれた幸村がいる。
今更側室など娶る必要はないというのに。
義村は項垂れながら頭を抱えたのであった。
やがて桔梗は立て続けに二人の子どもを出産する。
一男一女の子ども達は、それぞれ幸村、お菊と名付けられてそれはそれは大切に育てられた。
そして後継となる幸村の誕生をきっかけに、義村は中川家当主の座を継いだ。
「そなたを妻にできたことが、俺の人生で何より幸運な出来事だ」
義村は閨で桔梗を抱きしめながらそう呟く。
桔梗はその広い胸に寄りかかって安心したように目を瞑る。
「この幸せが、永遠に続きますように」
「当たり前だ。そなたは変わらぬ愛を持つ桔梗の花であろう? 」
そんな幸せな二人の生活であったが、お菊を出産してから三ヶ月になる春の終わりのこと。
義村は戦のために長く城を空けることとなった。
桔梗と結婚してからというもの平穏な世が続いていたため、これが結婚後初めての戦である。
桔梗は義村の無事を祈り、布に刺繍をしたためてそれを義村の腕に巻き付けた。
「必ず、ご無事でお戻りくださいませ」
「ああ。必ずそなた達の元へ戻って参る故、信じて城を守っていてくれ」
二人は口付けを交わして、別れを惜しんだ。
桔梗は義村の言いつけ通り、残された家臣達を統率するとともに、二人の子ども達の養育に力を注いだ。
結婚してから五年の月日が経ち二十二歳になった桔梗は、会国にとってかけがえのない存在となっていた。
分け隔てなく家臣達や民達に接する彼女の態度は当主の妻の鑑である。
一方義村は戦で奇跡的な闘いぶりを見せ、戦は中川家の仕える宮代家の勝利となった。
その勝利を祝う宴の席でのこと。
義村は主である宮代家当主、宮代塚元に呼び出された。
「……ご用件とはなんでしょうか」
義村が主の側に膝まづきその顔を伺うと、塚元はこう告げた。
「この度の働き、大したものであった。礼を申すぞ」
「これはありがたいお言葉でございます」
そこでだ、と塚元はこう告げた。
「褒美として、金に加えてわしの末の娘をそなたの側室にしてはどうかと思ったのだが。いかがかな? 」
「……は? 」
「末娘のお雛は今年で十八歳になる。二人の間に子どもが生まれれば、我が宮代家と中川家の繋がりもより一層深まるだろう」
義村はあまりのことに頭が真っ白になる。
「し、しかしながら……私には桔梗という妻がおりまする……」
「そんなことは知っておる。そなたと奥方の仲睦まじさは有名であるからな。だからこそ、側室で良いと申しているだろう」
直に正式な使いを遣わすと言いながら、塚元は去っていった。
残された義村は唖然とその場に立ち尽くす。
武家社会において、主君の命は絶対である。
断ることはその家の断絶を意味するも同じ。
義村に断るという選択肢は存在しないのだ。
「桔梗は……なんというだろうか……」
桔梗以外の女性など、欲しいと思ったことはない。
きっとこれから先も、桔梗だけが義村の唯一なのだ。
中川家の跡継ぎにはすでに桔梗が産んでくれた幸村がいる。
今更側室など娶る必要はないというのに。
義村は項垂れながら頭を抱えたのであった。
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