20 / 38
20
しおりを挟む
シーラは最初からアトワール国の回し者であったのだ。
王太子エリックの側でいつ何があっても対応できるように、見張り役を務めているのだろう。
初めて会った舞踏会の夜のなんとも言えないシーラの表情を思い出す。
「……なんと言ったらいいのか……私の知らないところでこの様な事が起きていたなんて」
ルーシーがブライトとの婚約やカイルとの出会いで焼きもきしている間に、カイルは国の重大な局面とずっと向き合ってきたのだ。
「シーラ様とエリック様の婚約が決まってから、アトワール国の回し者なのか不届き者が増えてな。今思えばこれも全て、アルマニアのせいにしたい国王陛下の指図だったのかもしれないが。俺たち騎士団が見回りを強化していたんだ。ルーシー嬢と初めて出会った晩も、見回りを行なっていた。そのおかげであなたを助ける事ができたのだ」
アデールの治安が悪化しているというのも、全ては国王とアトワールの指図だったのだ。
それを全てアルマニア公爵家の仕業だという事にしておけば、丸く収まると考えていたのであろうか。
「だがしかし」
カイルが再びゆっくりと口を開いた。
「俺は少しだけ国王陛下とアトワールに感謝している。お陰でルーシー嬢に会えたからな」
ルーシーの鼓動が速くなり、息を呑む。
「あなたが好きだ。ルーシー嬢。初めて会った時から惹かれていたのだと思う」
「カイル様……」
「でもだからこそ、あなたを苦しめたくは無いんだ。俺と一緒になれば、必ず辛い思いをする。ご両親にも二度と会えなくなるかもしれない。俺は、あなたには幸せになってほしい」
カイルも自分の事を同じ様に思ってくれていた。
それだけでルーシーは死んでもいいと思えるほど幸せだった。
「カイル様……私は幸せです。あなた様がそう思ってくださるだけで」
でも、とルーシーは顔を上げて続けた。
「ワガママを、もう一つだけ聞いてはいただけませんか……? 」
「……何だ? 」
「私の純潔を奪って欲しいのです。あなた様と結婚できない事は分かっています。でも、初めてはあなた様に捧げたいのです」
「!? な、何を……あなたは、ご自分の言ってる事がわかっているのか!? そんな事をしたら、あなたはブライト殿と結婚することができなくなる。それどころか、二度と誰とも結婚できないかもしれないのだぞ!? 」
いつもは冷静なカイルが、珍しく激しく動揺している。
もちろんルーシーも、ジャケットを返しに来た当初はこんなことを言うつもりは全く無かった。
自分でも何を言い出したのだろうと驚く。
だがカイルも自分の事を少なからず思ってくれていた事がわかった途端に、カイルとの思い出を体に刻み込みたいと思ったのだ。
公爵令嬢として育ってきたルーシーは、純潔を失う行為の詳細についてはよく分かっていなかったが、自分にとって大切な行為だということはわかっている。
だからこそ、カイルに捧げたいのだ。
「ブライトと結婚できなくなるのは、私の望みでもあります。彼には本当に申し訳ない事をしました。でもこのままではいつまでも私に縛り付けられて、ブライトも幸せになれないと思うのです」
それに、と続ける。
「私がお慕いしているのはあなただけ。あなた以外の人と結婚するつもりはありません」
この国では婚前に婚約者以外の男性と関係を持った貴族令嬢は、基本的に生涯独身か修道院送りとなる。
この辺りの判断は各令嬢の実家の判断によるのだが。
こうでもしないと、ブライトは絶対に意地になって婚約破棄を認めてはくれない。
これから一生ルーシーにとらわれて、彼女の機嫌を伺いながら生きていくのは酷だ。
ブライトはそれでも良いと言うだろうが、彼自身を見てくれる女性と幸せになってほしい。
王太子エリックの側でいつ何があっても対応できるように、見張り役を務めているのだろう。
初めて会った舞踏会の夜のなんとも言えないシーラの表情を思い出す。
「……なんと言ったらいいのか……私の知らないところでこの様な事が起きていたなんて」
ルーシーがブライトとの婚約やカイルとの出会いで焼きもきしている間に、カイルは国の重大な局面とずっと向き合ってきたのだ。
「シーラ様とエリック様の婚約が決まってから、アトワール国の回し者なのか不届き者が増えてな。今思えばこれも全て、アルマニアのせいにしたい国王陛下の指図だったのかもしれないが。俺たち騎士団が見回りを強化していたんだ。ルーシー嬢と初めて出会った晩も、見回りを行なっていた。そのおかげであなたを助ける事ができたのだ」
アデールの治安が悪化しているというのも、全ては国王とアトワールの指図だったのだ。
それを全てアルマニア公爵家の仕業だという事にしておけば、丸く収まると考えていたのであろうか。
「だがしかし」
カイルが再びゆっくりと口を開いた。
「俺は少しだけ国王陛下とアトワールに感謝している。お陰でルーシー嬢に会えたからな」
ルーシーの鼓動が速くなり、息を呑む。
「あなたが好きだ。ルーシー嬢。初めて会った時から惹かれていたのだと思う」
「カイル様……」
「でもだからこそ、あなたを苦しめたくは無いんだ。俺と一緒になれば、必ず辛い思いをする。ご両親にも二度と会えなくなるかもしれない。俺は、あなたには幸せになってほしい」
カイルも自分の事を同じ様に思ってくれていた。
それだけでルーシーは死んでもいいと思えるほど幸せだった。
「カイル様……私は幸せです。あなた様がそう思ってくださるだけで」
でも、とルーシーは顔を上げて続けた。
「ワガママを、もう一つだけ聞いてはいただけませんか……? 」
「……何だ? 」
「私の純潔を奪って欲しいのです。あなた様と結婚できない事は分かっています。でも、初めてはあなた様に捧げたいのです」
「!? な、何を……あなたは、ご自分の言ってる事がわかっているのか!? そんな事をしたら、あなたはブライト殿と結婚することができなくなる。それどころか、二度と誰とも結婚できないかもしれないのだぞ!? 」
いつもは冷静なカイルが、珍しく激しく動揺している。
もちろんルーシーも、ジャケットを返しに来た当初はこんなことを言うつもりは全く無かった。
自分でも何を言い出したのだろうと驚く。
だがカイルも自分の事を少なからず思ってくれていた事がわかった途端に、カイルとの思い出を体に刻み込みたいと思ったのだ。
公爵令嬢として育ってきたルーシーは、純潔を失う行為の詳細についてはよく分かっていなかったが、自分にとって大切な行為だということはわかっている。
だからこそ、カイルに捧げたいのだ。
「ブライトと結婚できなくなるのは、私の望みでもあります。彼には本当に申し訳ない事をしました。でもこのままではいつまでも私に縛り付けられて、ブライトも幸せになれないと思うのです」
それに、と続ける。
「私がお慕いしているのはあなただけ。あなた以外の人と結婚するつもりはありません」
この国では婚前に婚約者以外の男性と関係を持った貴族令嬢は、基本的に生涯独身か修道院送りとなる。
この辺りの判断は各令嬢の実家の判断によるのだが。
こうでもしないと、ブライトは絶対に意地になって婚約破棄を認めてはくれない。
これから一生ルーシーにとらわれて、彼女の機嫌を伺いながら生きていくのは酷だ。
ブライトはそれでも良いと言うだろうが、彼自身を見てくれる女性と幸せになってほしい。
10
お気に入りに追加
533
あなたにおすすめの小説
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
【完結】お姉様の婚約者
七瀬菜々
恋愛
姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。
残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。
サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。
誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。
けれど私の心は晴れやかだった。
だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。
ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
【完結】夫もメイドも嘘ばかり
横居花琉
恋愛
真夜中に使用人の部屋から男女の睦み合うような声が聞こえていた。
サブリナはそのことを気に留めないようにしたが、ふと夫が浮気していたのではないかという疑念に駆られる。
そしてメイドから衝撃的なことを打ち明けられた。
夫のアランが無理矢理関係を迫ったというものだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる