上 下
16 / 38

16

しおりを挟む

 「んんっブライト!? 」

 一体何が起こっているのか、ルーシーの頭は真っ白になる。
 自分があのブライトに口づけされているのだと言う事実を受け入れるのにかなりの時間を要した。

 「んっ、ブライト、やめて……」

 必死に抵抗するが、ブライトは離してくれない。
 やがて息が苦しくなったルーシーが無意識に開いた唇の隙間に、ブライトが自らの舌を入れようとする。

 「んっいや、いやよ! 」

 気づくとルーシーは持てる力の全てでブライトを突き飛ばしていた。
 ドンっと押されたブライトは不意打ちの力によろめき、ルーシーから離れる。

 「ひどいわブライト。 一体どういうつもりであんなこと……」

 ルーシーが口付けしたい相手はカイルだけ。
 唇にはいまだにあの日の口付けの余韻が残っていた。
 それをブライトによって上塗りされてしまったのだ。

 「なんで……何でよりによってあいつなんだよ! 」

 「え…… 」

 「僕の方がずっとずっと前から好きだったのに! 」

 次から次へと起こる出来事に、頭がパンクしそうだ。

 「待って、ブライトが私のことを好き? そんなはずないわ、だって……」

 「僕の態度が幼馴染としてのものだったから? 贈り物をしなかったから? それとも、手紙が素っ気なかったからかい? 」

 ブライトの挙げた理由は全てその通りだった。
 両親の様にいつまでも仲睦まじい恋人の様な夫婦でありたかったが、ブライトはその雰囲気をかき消す様な接し方しかしてこなかった。

 「そうね、その通りだわ。自分でよく分かってるじゃない……」

 「そんなの、君の思いが僕に無いのが分かりきっているからだよ」

 「えっ」

 「さっき君には認識魔法は使わないって言ったね。ごめん、一度だけ使ったことがあるんだ。婚約が決まってから初めて会った日だ。その時にルーシーの中に僕への気持ちは全く無いってことがわかった。片思いしてたのは僕だけだったんだと。 」

 確かに思い返してみれば、婚約が決まってブライトと握手を交わした際に、一瞬彼の表情に陰りが見えた様な気がしていたが。
 あれはもしかしたらルーシーの気持ちを認識魔法で読み取ってショックを受けていたからなのか?

 「君の思いが無いことをわかっているのに、贈り物を送ったり手紙に愛を囁いたりする度胸が僕には無かった。何て思われるかが怖かったんだ。それに、僕だけが君を思っているのが悔しくて……だからあくまで冷静に、幼馴染として結婚までやり過ごすつもりだった……。結婚すれば誰もルーシーに手は出せない。そこからゆっくり愛を育んでいけばいいかと……」

 それなのに、とブライトは苦々しげに吐き出す。


 「まさかルーシーがあいつと知り合うとは思っていなかったし、あいつがそこまでルーシーと親しくなるなんて予想外だった。本当に神は残酷だよ」
 
 ブライトのまさかの告白にルーシーはついていけずにいたが、ようやく正気を取り戻した。
 そして、ここで自分の気持ちをハッキリさせておかなければならないと感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

届かなかったので記憶を失くしてみました(完)

みかん畑
恋愛
婚約者に大事にされていなかったので記憶喪失のフリをしたら、婚約者がヘタレて溺愛され始めた話です。 2/27 完結

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

処理中です...