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 ルーシーがおずおずと顔を上げてカイルの目を真っ直ぐ見つめると、カイルは一瞬驚いた様子を見せる。

 「……なんだ? 」

 「貴方様を含め、なぜアルマニア公爵家の方々は舞踏会に参加していらっしゃらないのですか? 今晩の舞踏会ならもう一度お会いできると思っておりましたのに」

 「ほう、俺に会いたいと思ってくれていたのか? 」

 「ちゃっ、茶化さないでくださいませ! 」

 つい言葉の節々にカイルに会いたかったと言う想いが出てしまった。
 カイルの言葉が図星であったため、ルーシーは赤面する。

 「ふっ……まぁいい」

 珍しくカイルが笑った。
 いつもの冷静沈着な表情も素敵だが、フッと緩んだ口元は何とも魅力的である。

 「アルマニア公爵家が攻撃魔法を得意としているのは知っているな?武器の取り扱いに慣れていることも」

 「はい。存じておりますわ」

 「俺の父であるアルマニア公爵は防衛省のトップだ。そして俺は騎士団長を務めている。つまり、俺たちアルマニアの人間は夜会や舞踏会を陰で警備しているのさ。だから正確には、参加はしている」

 アルマニア公爵家が社交界の警護を担当していたとは初耳であった。

 「アルマニアは忍術魔法も得意だろう?姿を隠して夜会の間にスパイ活動のような事もしているのさ。……っと、喋りすぎたかな」

 「アルマニア公爵家はそこまで王家のために尽力しているというのに、なぜ陛下はそこまでアルマニアを恐れるのでしょうか……」

 アルマニア公爵家が力をつければつけるほど、アデール国の守りも強固になり、他国の有力な情報なども得やすくなるはず。
 最近のリチャードの態度が腑に落ちない。

 「それにも色々事情があるんだが、それはさすがに話す事はできない。許せ」

 「私を二度助けてくださった際に、攻撃魔法を使わなかったのは何故ですか? 」

 「あんな雑魚に魔法を使うのは勿体無いだろう。あれくらい魔法など使わずとも何とでもできる。下手に魔法を使って大ごとにもしたく無いしな」

 確かに、暴漢からルーシーを守った時の身のこなし方。
 今回のサリバン子爵に対する堂々とした態度、魔法を使わなくとも十分であった。

 「また、舞踏会に来ればお会いできますでしょうか? 」

 気が付くとそんな言葉がルーシーの口から出ていた。
 カイルはおや、と片眉を上げて微笑んだ。

 「そんなに俺に会いたい? 」

 「そ、そういう意味ではありませんわ! 命の恩人ですもの、これを機に親交を深める事ができれば……」

 「くくくっ。君は面白いな」

 「先程の言葉は忘れてくださいませ」

 「会えるよ」

 「はいそうですか……て、ええ!? 」

 カイルはルーシーの反応が面白いのか、いちいち茶化してくるため何が本心なのかわからない。
 だが面白そうに笑うカイルを見るのは嬉しい。

 「だから、会えるよ。ただ俺はまた会場の警備だ。ダンスを踊ったりはしないがな」

 「……それでは次の夜会でまたお会いできますのを、楽しみにしていますわ」

 「ああ、こちらこそ」

 ーーこうして久しぶりの夜会はルーシーにとって、非常に胸をときめかせるものとなったのだ。


 舞踏会から数日が経過しても、ルーシーの心の中はカイルへの想いでいっぱいだった。

 あの晩カイルと別れてからブライトの元へと戻ったが、彼は何も変わらずに貴族達と談笑していた。
 色々あって疲れたルーシーは、ブライトに断りを入れて先に屋敷へと戻ろうとしたが、ブライトに止められた。

 「シルク公爵から聞いたよ。夜道は危ないってこと、誰よりも君がわかっているだろう? 」

 そう言い張るブライトは、自分ももう引き揚げて屋敷へ戻ると言い出した。
 ブライトは一辺倒なところがあり、こうだと言い出したら聞かない。
 ルーシーは諦めて、ブライトと共に馬車へ乗り込んだ。

 帰り道は二人ともひたすら無言であった。
 ブライトが何を考えているかはわからない。
 だがルーシーは今晩のカイルとの思い出に浸りたかったのだ。
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