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しおりを挟む「私がブライト様……いえブライトと婚約だなんて、考えたことも無かったわ」
自室へ戻ると、ルーシーは金髪の巻き髪をくるくると指で弄びながら侍女のルナに吐露する。
「でもブライト様なら良いではありませんか。全く見知らぬ男性へ嫁ぐというのは、お嬢様も不安でございましょう? 」
確かにブライトとは幼い頃から多くの時間を共にしてきたし、彼のことならほとんどわかっているつもりだ。
だが何かが引っかかる。
「それはそうなのだけど……」
ブライトの事をこれまで男性として意識したことのなかったルーシーは困惑していた。
そしてそれは恐らくブライトの方も同じであろう。
今年18歳になるルーシー・シルクはシルク公爵家の長女で、その美しさで有名だった。
輝かしい金髪は艶めき、青い瞳は悩ましい雰囲気を醸し出す。
その家名のように真っ白な肌は雪のようで、滑らかだ。
あまりの美しさのために舞踏会ではダンスの誘いが絶えず、娘の身を案じた公爵によって社交界への参加は最低限に絞られているほどである。
もちろん婚約の伺いも数えきれないほど来ていたのだが、一向に相手が決まらないと思っていたら。
こういうことだったのかとルーシーは腑に落ちる。
数年前から二つの公爵家を結びつける話が出ていたようだ。
「早速明日ブライト様とのお顔合わせがあるそうですね。お支度にも磨きをかけなければ」
「今更着飾ったところで、ブライトとの関係はそうそう変わらないわ」
張り切るルナを横目に、ルーシーはどこか落ち着かない心境でいた。
どうせ国のための結婚だ。
もちろん公爵令嬢として生まれた以上、結婚は家同士の繋がりを強めるための方法だという事を誰よりも理解している。
そうは思っていたものの。
いざ具体的な相手が浮上すると、気持ちに戸惑いが生まれた。
……無論断ることなどできないのだが。
ルーシーにとって唯一幸いなことは、ブライトは見目麗しく高位貴族で、性格にこれといった難も無いという点であろうか。
「半年後までに気持ちを整えなければいけないわね」
おめでたい話だというのに、複雑な表情を浮かべるルーシーを、ルナが不思議そうに見つめる。
「お嬢様、一体何がご不満なのですか? ブライト様ほどのお方はおりませんよ? あの見た目に財力、そして魔力も強いと来たら、この国であのお方に敵う殿方など無いに等しいですわ」
でも、と前置きしてルナは続けた。
「強いて言うならアルマニア公爵家の後令息でしょうか。一度も社交界に顔を出したことがないようでお名前はお耳にしたことがありませんが。現公爵様を凌ぐほどの魔力をお持ちで、漆黒の髪と相まってその見た目も氷のようにお美しいとか」
「まさか。シルク公爵家の私が、敵対するアルマニア公爵の息子と結婚できるわけがないでしょう」
ルーシーの顔に苦笑が浮かぶ。
アルマニア公爵家の権力を弱めることが目的だと言うのに、結び付きを強める様な真似は御法度だ。
「でも確かに、アルマニア公爵の御令息がどの様なお方なのか、私もわからないわ」
数代に一人の類稀なる魔力と見目麗しい容姿の持ち主という噂だけ。
だからと言ってどのような容姿なのかもわからない。
「まあお嬢様のお相手はブライト様ですからね。アルマニア公爵家の事はお忘れくださいませ」
自分から話題を持ち出してきたくせに、ルナは何事も無かったかのように部屋を出て行く。
「アルマニア公爵家……ね……」
一人残されたルーシーの独り言が、静まり返った部屋に響いたのであった。
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