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本編2
王弟は怒りに震える
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ゴゴゴゴゴ…
「おいおい、ヴォルフレット、床が落ちてしまうだろ?そんなに怒るなよ。」
「兄よ。この親書をわざわざ俺に見せてくれた事には礼を言う。しかしだ、コレを許可したのは何故だ?また家出をして欲しいのか?俺に」
「えー?なんでそうなるの?違うよ。だってさギャフンと言わせたくないの?やられっぱなしって好きじゃないんだよね、僕」
サクラ王国の国王の執務室が先程からジワジワと揺れている。ヴォルフレットが怒りのあまり魔力を漏れ出させているからのようだ。
メイドや護衛騎士たちは漏れ出た魔力の殺気に当てられてガタガタと震えているが、国王であるレーヴェルトは飄々とした様子で紅茶を啜っている。
「もし、アイツらがアマリリスに接触するようなことがあれば…俺はこの国を出て行くからな。」
「えーーーー?!そんな!直接対決はなし??つまらないよー」
ケチ!とでも言いたげに口を尖らして抗議するこの男は齢40にもなる立派な紳士である。
その隣では何を考えているのかわからない笑顔を顔に貼り付けたままのお妃がたたずんでいる。
「ヴォルフレットは過保護すぎるよ。可愛い子には旅をさせろって僕のお婆様がいってたよ?」
「それは俺の祖母でもあるだろう。そんなこと言ったなかったが?」
「言ったよー!ヴォルフレットは昔から頭カチカチだから言わなかったんじゃない?いいかい?会う会わないを決めるのはアマリリスちゃんだよ?だからさ、打診してみてよー!ドレイクが会いたがってるって!」
「ぜっっっったいにいやだ。」
「リーゼ、聞いた?コレがあの弟か?女なんて大嫌いだって叫んで飛び出して行った…あの弟。こんなに執着心丸出しでさ、隠すことなく溺愛してるなんて信じられる?」
レーヴェルトは心の底から愉快そうな、いや、馬鹿にしてるのか?よくわからない、いやらしい笑顔を携えて、隣に立つ美女へこそこそと耳打ちをする。もちろんあえてこちらに聞こえる声でやっている。
耳打ちを聞いた妃は銀色の釣り上がった気の強そうな、だけど美しい瞳をこちらはチラッと向けてから、透き通るような美しい声で鳴く。
「陛下、ダメですよ。からかっては」
聞くだけで耳がジーンと感動に震えそうな、綺麗なソプラノは優しく
「彼よりもリリスの方が大人ですから、直接お話になった方がいいかと。この時間は全くもって無駄ですわ」
毒を吐くのだ。
一度会っただけで、小さく可愛らしいアマリリスを気に入ったサクラ王国の国母、リーゼ・サクラはリリスと愛称をつけてすぐに打ち解けた。
護衛もつけずにギルドの治療院へ来るし、お茶会にも勝手に誘う。そこへ、自らの息子たちも同席させるのだから、完全にアマリリスを狙っているとしか思えない。
「大人か大人でないかは関係ない。彼女がまた傷つくことがあってはならないんだ。彼女には幸せであって欲しいんだ。」
パチン。と手に持って広げていたセンスをリーザが閉じる。先程までダダ漏れだったヴォルフレットの魔力が途端に収まり、暖かな穏やかな魔力が辺りを包む。
「余計なお世話よ。きっと。アマリリスだって経験する権利がある。辛い思いをしたら助けてあげなさい。守ってあげなさい。思いに残らないよう、そばに居てあげなさい。辛い思いを知らない子どもは、思いやりなんて持てないのよ?」
「しなくていいなら辛い経験なんてしなくていい。俺は許可しない!!!!!」
バサっと思い切りよくマントを翻し、一瞬で姿を消す。今は1秒でも早くアマリリスに会って抱きしめたいと思ったからだ。診察時間なのを忘れて、思い切り診察室に転移してしまった。
目の前では、ちょっと一口お菓子を…と束の間の休憩時間を楽しむアマリリスが丸い目と口を大きく開けて固まっていた。
怒りのまま先ほどの出来事を愚痴ると、ニコッと笑って握り締めすぎて冷たくなっていたヴォルフレットの手にチョンとふれる。
「私を守ろうとしてくれてありがとう。でも、お会いするだけならいいですよ?」
あんなにカッコつけて啖呵切ってきたのに当のアマリリス本人はあっさりとドレイク王子との面会を許可した。
「嫌じゃないのか?」
「いやです。でも、ヴォ…ヴォルフがそばに居てくれるんでしょ?手も繋いでいて欲しい、絶対に離れないで欲しい、お手洗いも一緒に行くわよ。それなら会ってもいいわ。私のために国王陛下ご夫妻と喧嘩しないで?」
そう言ってアマリリスは、ヴォルフレットの手を自分の頬に持っていき、スリッと頬を寄せる。
兄夫婦が俺のことを心配して、心配して、やっとのことで今があるという事を知っているからだろう、いつも家族の仲を気にして気遣ってくれる。
まぁ、初めて会ったとき顔中の穴から汁を垂れ流して泣く40男をみて、思うところがないやつはいないと思うが…
先程までカッカと燃え上がっていた怒りの炎が少し小さくなる。拳の力がふっと抜けるのが自分でもわかった。
「おいおい、ヴォルフレット、床が落ちてしまうだろ?そんなに怒るなよ。」
「兄よ。この親書をわざわざ俺に見せてくれた事には礼を言う。しかしだ、コレを許可したのは何故だ?また家出をして欲しいのか?俺に」
「えー?なんでそうなるの?違うよ。だってさギャフンと言わせたくないの?やられっぱなしって好きじゃないんだよね、僕」
サクラ王国の国王の執務室が先程からジワジワと揺れている。ヴォルフレットが怒りのあまり魔力を漏れ出させているからのようだ。
メイドや護衛騎士たちは漏れ出た魔力の殺気に当てられてガタガタと震えているが、国王であるレーヴェルトは飄々とした様子で紅茶を啜っている。
「もし、アイツらがアマリリスに接触するようなことがあれば…俺はこの国を出て行くからな。」
「えーーーー?!そんな!直接対決はなし??つまらないよー」
ケチ!とでも言いたげに口を尖らして抗議するこの男は齢40にもなる立派な紳士である。
その隣では何を考えているのかわからない笑顔を顔に貼り付けたままのお妃がたたずんでいる。
「ヴォルフレットは過保護すぎるよ。可愛い子には旅をさせろって僕のお婆様がいってたよ?」
「それは俺の祖母でもあるだろう。そんなこと言ったなかったが?」
「言ったよー!ヴォルフレットは昔から頭カチカチだから言わなかったんじゃない?いいかい?会う会わないを決めるのはアマリリスちゃんだよ?だからさ、打診してみてよー!ドレイクが会いたがってるって!」
「ぜっっっったいにいやだ。」
「リーゼ、聞いた?コレがあの弟か?女なんて大嫌いだって叫んで飛び出して行った…あの弟。こんなに執着心丸出しでさ、隠すことなく溺愛してるなんて信じられる?」
レーヴェルトは心の底から愉快そうな、いや、馬鹿にしてるのか?よくわからない、いやらしい笑顔を携えて、隣に立つ美女へこそこそと耳打ちをする。もちろんあえてこちらに聞こえる声でやっている。
耳打ちを聞いた妃は銀色の釣り上がった気の強そうな、だけど美しい瞳をこちらはチラッと向けてから、透き通るような美しい声で鳴く。
「陛下、ダメですよ。からかっては」
聞くだけで耳がジーンと感動に震えそうな、綺麗なソプラノは優しく
「彼よりもリリスの方が大人ですから、直接お話になった方がいいかと。この時間は全くもって無駄ですわ」
毒を吐くのだ。
一度会っただけで、小さく可愛らしいアマリリスを気に入ったサクラ王国の国母、リーゼ・サクラはリリスと愛称をつけてすぐに打ち解けた。
護衛もつけずにギルドの治療院へ来るし、お茶会にも勝手に誘う。そこへ、自らの息子たちも同席させるのだから、完全にアマリリスを狙っているとしか思えない。
「大人か大人でないかは関係ない。彼女がまた傷つくことがあってはならないんだ。彼女には幸せであって欲しいんだ。」
パチン。と手に持って広げていたセンスをリーザが閉じる。先程までダダ漏れだったヴォルフレットの魔力が途端に収まり、暖かな穏やかな魔力が辺りを包む。
「余計なお世話よ。きっと。アマリリスだって経験する権利がある。辛い思いをしたら助けてあげなさい。守ってあげなさい。思いに残らないよう、そばに居てあげなさい。辛い思いを知らない子どもは、思いやりなんて持てないのよ?」
「しなくていいなら辛い経験なんてしなくていい。俺は許可しない!!!!!」
バサっと思い切りよくマントを翻し、一瞬で姿を消す。今は1秒でも早くアマリリスに会って抱きしめたいと思ったからだ。診察時間なのを忘れて、思い切り診察室に転移してしまった。
目の前では、ちょっと一口お菓子を…と束の間の休憩時間を楽しむアマリリスが丸い目と口を大きく開けて固まっていた。
怒りのまま先ほどの出来事を愚痴ると、ニコッと笑って握り締めすぎて冷たくなっていたヴォルフレットの手にチョンとふれる。
「私を守ろうとしてくれてありがとう。でも、お会いするだけならいいですよ?」
あんなにカッコつけて啖呵切ってきたのに当のアマリリス本人はあっさりとドレイク王子との面会を許可した。
「嫌じゃないのか?」
「いやです。でも、ヴォ…ヴォルフがそばに居てくれるんでしょ?手も繋いでいて欲しい、絶対に離れないで欲しい、お手洗いも一緒に行くわよ。それなら会ってもいいわ。私のために国王陛下ご夫妻と喧嘩しないで?」
そう言ってアマリリスは、ヴォルフレットの手を自分の頬に持っていき、スリッと頬を寄せる。
兄夫婦が俺のことを心配して、心配して、やっとのことで今があるという事を知っているからだろう、いつも家族の仲を気にして気遣ってくれる。
まぁ、初めて会ったとき顔中の穴から汁を垂れ流して泣く40男をみて、思うところがないやつはいないと思うが…
先程までカッカと燃え上がっていた怒りの炎が少し小さくなる。拳の力がふっと抜けるのが自分でもわかった。
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