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第3章 異世界で溺愛剣士の婚約者!?
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頭の中で今まで積み上がっていた自己暗示の好きが、熱いキスにとろとろに溶けて脳内に染みこんでいった。
甘さを増すキスに、頭がくらくらしてくる。
そのせいで溶けて染みこんできた偽物の好きがまるで本物のように思えてきてしまう。
食らいついてくる舌にその身を差し出すように自らも舌を絡ませる。
激しい抱擁のようなキスをしばらくすると、ドゥーガルドが不意に唇を離した。
何かが欠けるような寂しさが口の中に残って、胸に切なさに似た感情が微かに湧いた。
「はっ、ぁ、すき……」
頭の中でずっと繰り返していた言葉がぽろりと唇からこぼれ落ちた。
濡れた吐息に紛れるほど小さな声だ。しかしドゥーガルドがそれを聞き逃すはずがなかった。
目を見開いて一瞬固まったドゥーガルドだったが、すぐに俺を横抱きで抱え上げた。
「うわっ」
突然のことに驚きの声を上げる俺など気にも留めず、リリアたちに背を向けるとそのままズンズンと歩き出した。
「ドゥーガルド様、どちらへ? 旦那様たちがいらっしゃるお部屋は反対方向ですが」
あまりにも唐突で意図が全く掴めないドゥーガルドの行動に、さすがのエリンさんも呼び止めた。
するとドゥーガルドは足を止めて振り返った。
「……父さんと母さんには挨拶は後にする。俺たちは今から寝室に行く」
「え!? ちょ、ちょっと待て!」
あまりの急展開に俺は目を剥いた。
「俺、死ぬか生きるの瀬戸際なんですけど!? よくそんな奴を寝室に連れ込もうとできるな!?」
無神経にもほどがある! とドゥーガルドの腕の中でキレ散らかしていると、
「その件についてはご安心ください」
そう言ってエリンさんが懐中時計をこちらへ差し向けた。
「先ほど十分が経過しました」
「え?」
俺は目を丸くした。
十分が経った。でも俺の体には何の異変もない。ということは……。
バッと勢いよくリリアの方を振り向くと、彼女は口をへの字にして、露骨に面白くなさそうな顔をしていた。
しかし俺と目が合うと、フッ……と唇を歪ませて笑った。
「ふふふ……、命拾いしたようですわね……。ですが私はあなたを認めたわけではありませんからね……。このくらいの呪い、対抗魔術を心得ていればどうにでもなります……。――次は必ず化けの皮を剥いでやりますわ……」
不敵に不気味な微笑みを残して、リリアは踵を返しその場から立ち去った。
リリアの背中が見えなくなったところで、俺は全身で大きな溜め息を吐いた。
「よ、よかった……! 生きてる……ッ!」
九死に一生を得たとはまさにこのことだ。
生きていることにこれほどまで感謝したことなどなかった。
生の実感を感慨深い気持ちで噛みしめていると、
「……ふふ、これで証明されたな」
「え?」
柔らかな笑いが頭上から吹きかかり、俺は顔を上げた。
「しょ、証明ってなにが……?」
うっとりとこちらを見つめるドゥーガルドの瞳に、嫌な予感しかしないが一応聞き返した。
俺の問いにドゥーガルドは目をさらに細めた。
「……決まっているだろう。ソウシのこれまでの言動すべてが照れ隠しだと言うことがだ」
そう言って、愛おしそうに俺の頭上に軽くキスをした。
声とキスからあふれ出る甘さに、俺はこめかみにたらりと冷や汗を流した。
甘さを増すキスに、頭がくらくらしてくる。
そのせいで溶けて染みこんできた偽物の好きがまるで本物のように思えてきてしまう。
食らいついてくる舌にその身を差し出すように自らも舌を絡ませる。
激しい抱擁のようなキスをしばらくすると、ドゥーガルドが不意に唇を離した。
何かが欠けるような寂しさが口の中に残って、胸に切なさに似た感情が微かに湧いた。
「はっ、ぁ、すき……」
頭の中でずっと繰り返していた言葉がぽろりと唇からこぼれ落ちた。
濡れた吐息に紛れるほど小さな声だ。しかしドゥーガルドがそれを聞き逃すはずがなかった。
目を見開いて一瞬固まったドゥーガルドだったが、すぐに俺を横抱きで抱え上げた。
「うわっ」
突然のことに驚きの声を上げる俺など気にも留めず、リリアたちに背を向けるとそのままズンズンと歩き出した。
「ドゥーガルド様、どちらへ? 旦那様たちがいらっしゃるお部屋は反対方向ですが」
あまりにも唐突で意図が全く掴めないドゥーガルドの行動に、さすがのエリンさんも呼び止めた。
するとドゥーガルドは足を止めて振り返った。
「……父さんと母さんには挨拶は後にする。俺たちは今から寝室に行く」
「え!? ちょ、ちょっと待て!」
あまりの急展開に俺は目を剥いた。
「俺、死ぬか生きるの瀬戸際なんですけど!? よくそんな奴を寝室に連れ込もうとできるな!?」
無神経にもほどがある! とドゥーガルドの腕の中でキレ散らかしていると、
「その件についてはご安心ください」
そう言ってエリンさんが懐中時計をこちらへ差し向けた。
「先ほど十分が経過しました」
「え?」
俺は目を丸くした。
十分が経った。でも俺の体には何の異変もない。ということは……。
バッと勢いよくリリアの方を振り向くと、彼女は口をへの字にして、露骨に面白くなさそうな顔をしていた。
しかし俺と目が合うと、フッ……と唇を歪ませて笑った。
「ふふふ……、命拾いしたようですわね……。ですが私はあなたを認めたわけではありませんからね……。このくらいの呪い、対抗魔術を心得ていればどうにでもなります……。――次は必ず化けの皮を剥いでやりますわ……」
不敵に不気味な微笑みを残して、リリアは踵を返しその場から立ち去った。
リリアの背中が見えなくなったところで、俺は全身で大きな溜め息を吐いた。
「よ、よかった……! 生きてる……ッ!」
九死に一生を得たとはまさにこのことだ。
生きていることにこれほどまで感謝したことなどなかった。
生の実感を感慨深い気持ちで噛みしめていると、
「……ふふ、これで証明されたな」
「え?」
柔らかな笑いが頭上から吹きかかり、俺は顔を上げた。
「しょ、証明ってなにが……?」
うっとりとこちらを見つめるドゥーガルドの瞳に、嫌な予感しかしないが一応聞き返した。
俺の問いにドゥーガルドは目をさらに細めた。
「……決まっているだろう。ソウシのこれまでの言動すべてが照れ隠しだと言うことがだ」
そう言って、愛おしそうに俺の頭上に軽くキスをした。
声とキスからあふれ出る甘さに、俺はこめかみにたらりと冷や汗を流した。
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