上 下
121 / 266
第2章 異世界でももふもふは正義!?

51

しおりを挟む
「……婆さん、昔話に囚われるのは勝手だが、こいつに手出しするんじゃねぇ。こいつは俺の所有物だ。文句あるなら俺に言え」

 淡々とした口調だが言葉の端々に圧が感じられる声でアーロンが言うと、老婆は少し怯んでその杖を不承不承といった感じで降ろした。
 しかしそれでは老婆の沽券に関わるのかクロに群がる子どもや大人に険しい表情を向けて怒鳴り始めた。

「他の者も黒の使いに惑わされるでない! 黒の魔法使いがこの街にしたことを忘れたか!」

 老婆の一喝にみんな体を竦めて、蜘蛛の子を散らすようにその場から立ち去って行った。
 その様子に腹の虫がおさまったのか、フン、と鼻を鳴らしてから俺達に背中を向けて去って行った。

「すごいパワフルなおばあさんだったね~」

 老婆に直接怒りを向けられていないチェルノはのんきに笑って言った。

「パワフルとかそんなんじゃねぇよ! めちゃくちゃ怖かったんだけど!」
「つーか、あの婆さんのせいでせっかくのビジネスチャンスが台無しになっちまった」

 チッ、と舌打ちをするアーロンを見ながら、老婆は怖かったがある意味入ってきてくれて良かったかもしれない、と小さく溜め息を吐いた。

 ****

 買い物を終えて、あとは宿でゆっくり……と思っていたのだがことの他、宿探しが難航した。
 この街に浸透している嫌な昔話のせいでどこに行っても門前払いを喰らってしまうのだった。
 薄情なアーロンは「俺は疲れてるからここに泊まる。その駄犬のことが落ち着いたら速攻で俺の部屋に来い」とふざけたことを抜かして、早々に宿を決めてしまった。
 何軒も断られ途方に暮れていたが、宿の裏にある小さな物置小屋でよければ、とクロの寝床を提供してくれる人が現れた。

「俺は成人してからこの街にきたからな。そんな子供だましみたいな話信じてねぇから安心しな」

 宿屋兼酒場の『アンジェリア』の店主であるゲルダさんは、その厳つい見た目通りの豪快な笑いでもってそのふざけた言い伝えを一蹴し、俺達を歓迎してくれた。

「よかったぁ……」

 もしかすると宿が見つからないかもと不安でいっぱいだった俺は、ゲルダさんの快諾にその場にへなへなとしゃがみ込んだ。

「宿が見つかってよかったね~」
「やっと腰を落ち着けられるね、チェルノ」
「……よかったな、ソウシ。それじゃあ今日は部屋でゆっくり過ごそう。店主、俺とソウシは同室で」
「いやっ、俺はクロと一緒に寝るから!」

 当然のように同室を希望しながら俺の肩をそっと抱き寄せようとしたドゥーガルドから、全身の瞬発力をフルで発揮して逃れる。

「……ソウシ」

 しゅん、と捨てられた犬のような表情をするドゥーガルドに一瞬良心が痛んだが、忘れてはいけない。
 こいつは犬は犬でもむっつりスケベの万年発情期みたいな犬なのだ……。

「と、とりあえず俺はクロと一緒に小屋で寝ますんで! 宿代ちょっと値引きしてやってくださいね、あははは!」

 ドゥーガルドのじくじくとした視線を振り払うように空笑いしながらふざけて言うと、ゲルダさんが何か閃いたように「あ!」と声を上げた。
 そして俺に向かってにやりと悪戯っぽく口の端を上げた。

「宿代についてなんだが……、俺のお願いをきいてくれたら特別サービスで犬と君の宿代をタダにしてやるぜ」
「え?」
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)
BL
『35歳、職業ホスト。指名はまだ、ありません――』 35歳で会社を辞めさせられた青葉幸助は、学生時代の後輩の紹介でホストクラブで働くことになったが……――。 慣れないホスト業界や若者たちに戸惑いつつも、35歳のおじさんが新米ホストとして奮闘する物語。 ・売れっ子ホスト(22)×リストラされた元リーマン(35) ・のんびり平凡総受け ・攻めは俺様ホストやエリート親友、変人コック、オタク王子、溺愛兄など ※本編では性描写はありません。 (総受けのため、番外編のパラレル設定で性描写ありの小話をのせる予定です)

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

処理中です...