上 下
9 / 40
我が家に彼女がやって来た日

9話

しおりを挟む
 目を開けると目の前には小春の姿があった。
 いつの間にか転寝うたたねしてしまっていたらしい。
 
「ごめんね、起こしちゃって」

 凄く申し訳なさそうな表情してそう言う小春に「良いよ、逆に今寝すぎると夜眠れないからありがたいよ」と返した。
 それは小春を庇う言葉などではない。俺は小春が家に忘れ物を取りに戻ると家を出て直ぐに眠ってしまっていたはずだ。それを考えると結構な時間眠っていたことは分かる。

「毛布かけてくれたんだ、ありがとう」

 俺はふと、小春が握っている物に視線が行った。
 小春の手には俺のスマホがあった。
 俺は眠る直前までスマホを見ていた。多分スマホを握ったまま眠ってしまい、落ちそうになったスマホ、もしくは落ちていたスマホを取ってくれたのだろう。
 
「もしかして、スマホの画面見た?」
「え? いや、見てないよ。画面は真っ暗だもん」

 そう言って小春は俺のスマホの画面を見せてきた。
 小春の言う通り画面が真っ暗だ。

「良かった……」

 俺は無意識にそう呟いてしまった。 

「もしかして……えっちな動画見てたの…………?」

 顔を赤らめながらそう言う小春に、俺は「違う、違う。篠原と連絡してたからさ、トーク見られちゃったかなって思って」と誤解を解く。

「本当に?」
「本当だよ」

 小春は俺の言うことを信じてくれたのか、スマホを返してくれた。
 だけど俺の言っていることは嘘だ。篠原に遊びの誘い何てされてない。
 俺がスマホで見ていたのは小春へのクリスマスプレゼントだ。
 だから小春には見られたくなかったから嘘をつくしかなかった。
 小春の欲しいものが全く分からないので、ネットで『彼女、クリスマスプレゼント、人気』で調べていたのがバレたら恥ずかしくて死ぬ。
 他にも履歴には『デート、NG行動』等も残っている。

「それより忘れ物は持ってこれた?」
「う、うん」

 小春は続けて「そろそろ夕飯の準備するね」と言って台所へ向かった。
 スマホに表示されている時間を確認すると六時半だった。
 俺は小春が夕飯を作ってくれている間に冬休み課題を進めておこうと、机に課題を広げる。

「悠斗くん、まだ冬休みに入ってないのに課題やるんだ」
「早く終わるに越したことはないからね」
「そうだね、悠斗くん頭良いから私に勉強教えてほしいな」

 別に俺はそこまで頭が良いわけでは無いが、教えることくらいならできる。
 
「良いよ」

 それに断る理由なんてない。分からないことは考えるより分かる人に聞いたり調べたりして理解する方が効率的だ。

「ありがとう」

 小春は笑顔でそう返す。
 俺の通っている学校では、定期テストの上位三十位の生徒の名前が張り出される。
 そこに小春の名前が入っているのは二回見た。
 それなら別に俺が勉強を教える意味なんてないんじゃないかと思ってしまう。
 冬休みが終われば定期テストが待っている。今回のテストはどの科目の教師も難しくすると言っていた。
 小春もそのせいで勉強を頑張りたいのだろう。

「悠斗くん。今日はハンバーグで良いかな?」
「俺はなんでも良いよ。小春の作りたい料理で」

 作ってもらえるだけでありがたい。それに小春の作る料理は美味しい。

「じゃあハンバーグにしようかな」

 小春はそう呟いた。
 俺は筆箱からシャーペンを取り出し、計算を解いていく。
 最初の方のページは一ページほんの数分で終わらせられる。
 全部これくらいの簡単な問題にしてほしい。

「悠斗くんの得意教科って何?」

 小春はハンバーグの空気抜きをしながらそう聞いてきた。

「うーん。得意教科とかは特に無いかな」

 特にこれといって他と比べて点数の高い教科は無い。

「でも社会は暗記するだけだから楽だね」
「私は暗記苦手だな~。あ、数学は得意だよ!」

 小春は元気よくそう言う。

「そうだったね」

 小春は前回の数学で九十点以上を取っていた。
 小春は、ハンバーグの空気抜きの工程を終え、フライパンでハンバーグを焼き始める。
 キッチンからハンバーグの焼ける良い音が聞こえてくる。
 
「そういえば帰ってくる途中に篠原くんに会ってね、悠斗くんの事、良い人って言ってたよ」
「篠原が?」

 小春は「うん」と首を縦に振りながら答えた。
 誰であろうと、他人から良い人と言われて悪い気分はしない。

「そうなんだ」
「今日の昼休みに悠斗くん、篠原くんに私を狙ってるって勘違いされてたでしょ? だから多分友達として私に悠斗くんと仲良くさせようとしてくれたんじゃないかな?」
「篠原は俺達の関係を知らないからね」

 俺と小春は笑いながら話す。
 
「できたよ~」

 それから数分が経ち、小春は美味しそうな沢山のハンバーグが乗った大皿を運んできた。
 俺は、机の上に広げられている課題を直ぐに仕舞い、飯椀に米を盛った。
 俺と小春は同時に「いただきます」と手を合わせながら言い、箸をハンバーグに運んだ。
 小皿にハンバーグを乗せ、小春が作ってくれたソースをかけて食べる。
 案の定めちゃくちゃ美味しい。

「どうかな? 美味しい?」
「うん。めちゃくちゃ美味しいよ」
「本当? 良かった!」

 小春は胸の前で手を合わせながら笑顔でそう言った。
 小春もハンバーグを一口食べた。
 
「悠斗くん」
「どうしたの?」

 小春は持っていた箸を置き、俺の名前を呼んだ。

「クリスマスイヴは一緒にデートしてくれるんだよね?」
「う、うん。勿論」
「ク、クリスマス当日も一緒に過ごしてくれる?」

 小春は可愛らしい声と表情で聞いてきた。 
 
「小春が良いなら俺も一緒に居たい」

 俺の返事に小春は嬉しそうな表情を浮かべて「じゃあクリスマスも一緒に居てね!」と言った。
 逆に小春とクリスマスを過ごしたくないという男子がいるなら、いったいどれだけ可愛い彼女が居るのだろうか。

「うん。ケーキも買わないとね」
 
 クリスマスを小春と過ごすなんて思ってもいなかったため、クリスマスケーキの予約などはしていなかった。
 小春と恋人同士になって初めてのクリスマスなんだ、クリスマスケーキくらい用意しないとな。

「あ、でもクリスマスツリーは無いんだ」
「良いよ、悠斗くんが居ればクリスマスツリーなんて要らないよ」
「ごめんね」

 小春は「謝らなくても良いのに」と言いながら再びハンバーグを食べ始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

先輩に振られた。でも、いとこと幼馴染が結婚したいという想いを伝えてくる。俺を振った先輩は、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。

のんびりとゆっくり
青春
俺、海春夢海(うみはるゆめうみ)。俺は高校一年生の時、先輩に振られた。高校二年生の始業式の日、俺は、いとこの春島紗緒里(はるしまさおり)ちゃんと再会を果たす。彼女は、幼い頃もかわいかったが、より一層かわいくなっていた。彼女は、俺に恋している。そして、婚約して結婚したい、と言ってきている。戸惑いながらも、彼女の熱い想いに、次第に彼女に傾いていく俺の心。そして、かわいい子で幼馴染の夏森寿々子(なつもりすずこ)ちゃんも、俺と婚約して結婚してほしい、という気持ちを伝えてきた。先輩は、その後、付き合ってほしいと言ってきたが、間に合わない。俺のデレデレ、甘々でラブラブな青春が、今始まろうとしている。この作品は、「小説家になろう」様「カクヨム」様にも投稿しています。「小説家になろう」様「カクヨム」様への投稿は、「先輩に振られた俺。でも、その後、いとこと幼馴染が婚約して結婚したい、という想いを一生懸命伝えてくる。俺を振った先輩が付き合ってほしいと言ってきても、間に合わない。恋、デレデレ、甘々でラブラブな青春。」という題名でしています。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...