私と母のサバイバル

だましだまし

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8 迷子

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どのくらいそうしていただろう。
時間にするときっとそう長くないけど、随分沢山甘えてしまったような気がする。
落ち着いてくると何だか子供のように泣いてしまった事が急に恥ずかしくなってきてしまった。

「もう!大丈夫!なんで泣いちゃったかな?えへへ…なんかごめんなさい」
照れ臭くてお母様の顔を見れないままニードルディアを捌く事にした。

そんな散々甘えて素っ気なくしてしまった私に優しく声が掛けられる。
「初めての戦闘のあとってね、感情が乱れたりするものよ。命のやり取りだから。シェリーみたいに泣いちゃう人も少なくないの。でも何ともならない人よりそういう冒険者の方が強くなるわ。次からは多分ほとんど大丈夫になっているわよ」

「…私、冒険者じゃないけどねっ」
自分の気持ちを上手くコントロール出来なくて何だかトゲのある返しになってしまった私の耳に届いたのは「うふふ」と優しく笑うお母様の声だった。
きっとその顔は微笑んでいるのだろう。


自分の子供っぽさに嫌気を感じつつも、マサオの記憶のお陰か慣れたように手が動く。
渡された狩猟ナイフはマサオの愛用していた狩猟刀より使いやすく、よく切れた。
マサオのよく知る物と違い、背の半分が切れ味を抑えた皮剥用のナイフになっている。
おかげで一本で無駄なく捌け、筋を外せた。

「手際良いわぁ~♪すごいわねぇ~!マサオ様々♡」
目をキラキラさせて解体を見守るお母様。

普通、肉の解体を目の前にした貴婦人は吐き気で顔色を悪くする事はあっても、楽しくて紅潮する事は無いと思う。

ズルリと引きずり出した内臓にも「わぁ~膜に包まれてたままねぇ~上手だわぁ」とウキウキ楽しそうだ。
いや、可哀想と泣かれたり怖がられるより良いんだけど…。
しかも楽しんでる合間に汚れや血を魔法で洗い流してくれたりと何気にサポートも完璧にしてくれている。

お母様って…本当に何者?

せっせと捌き、適当なサイズに切り分けていると、いつの間にか横で宙に浮かぶ水の塊に肉をトプトプ入れていた。

「あ、塩水だから大丈夫よ?血抜きになるって昔教えて貰ったの」
目が点になってる私に慌ててそういうお母様。
「え!?塩水も出せるの!?」
水に放り込んでるのより驚く私の目の前にシレッと何かを取り出した。

「ううん、コレ見つけたの」
何やら白っぽいような、ほんのり赤っぽいような石がお母様の手のひらに転がっている。
「まさか…岩塩!?なんで見つけられたの?!」
「え?さっきのニードルディアが地面舐めてたからよ。何舐めてたのかなって見てきたらあったの。あとでもっと採りに行きましょーね♪」

思わずポカンとしてる私に気付いてるのかいないのか…水の刃で岩塩をスライスにし、そのままその水を塊に変えて塩を溶かし、血で汚れた水塊と入れ替えている…。

普通…刃にした魔法を別の形に練り直すなんて出来ない。
せいぜい大きさや勢いを変えれる程度だ。

「え…本当にお母様って…何者?」
光魔法使えるし、普通じゃない魔法の使い方するし、メンタル鋼だし…。
「え?元、旅の踊り子?」
どうやら心の声が漏れてたらしい。
腑に落ちない答えが返ってきた。


どうせ二人で食べ切れないのでロースや内モモ、ヒレなど柔らかい部位だけ取り出しあとは放置しておく。
「勿体ないけど食べきれないものねぇ」
切り出した肉は内臓の中から胃袋を取り出し、キレイに洗って(ついでにお母様が浄化魔法もかけて)そこに詰めた。
これで血や水が染みてこないはずだ。
そのあとお母様が見つけた岩塩も砕き布袋に詰める。

「これに入れたら運びやすいわよ」
にっこりと差し出されたのはカゴだった。
たしかに体温で温まり傷む可能性を考えたらリュックに詰めるより手持ちのカゴの方が良いだろう。
それでも両手は空けていたかったので持ち手に縄をかけて肩から下げられるようにした。



さて出発。

…と思ったが、さっきの戦闘ですっかり方角がわからなくなってしまった事に気付いた。
「大丈夫よ~」
と言いながら何かを探すお母様。

「さっきも方角は分かるって言ってたけど…何を探しているの?切り株で方角が分かるってのは迷信よ?」
何とか進んで来た時の足跡を見つけようと私も地面を見回してるとお母様の弾んだ「あったー!」という声が聞こえてきた。
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