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今日は私とルフィナ、隣のクラスの子爵令息で騎士見習いのディーダ・フィルト、金髪碧眼の美しい子爵家のシェル・ブラフで街歩きだ。

シェルはディーダと仲が良く、私はルフィナと従姉妹であり親友。
そしてディーダと私は来年、17歳になる年の秋に婚約予定なのでこの4人で時々街歩きを楽しんでいるのだ。
お互いを名前で呼び合う仲良しでもある。
なんとなくルフィナとシェルもいい感じに見えるので、私的にはちょっとしたダブルデート気分でもある。

今日の目的は街で今人気だというワッフルを食べに来たのだ。

「ディーダと2人じゃ中々行きにくいから、こういう機会があって本当に有り難いよ」
フフッと笑うシェルは甘党だ。
「男2人で甘い物はちょっと行きにくいよなぁ~」
確かに騎士見習いだけあってガッシリした大柄のディーダと可愛らしい系なシェルが2人でスイーツを楽しんでたら…禁断の愛の噂が立つかもしれない。

「ワッフルだけじゃなくサンドイッチも人気らしいわよ?」
甘い物が少し苦手なディーダの為に調べた情報をそっと挟む。
「ライラ調べてくれたの?それならサンドイッチも食べたいわ!」
ルフィナがお店に着く前に悩みだす。
そんなワイワイした楽しい雰囲気のまま予約していた店に入り、色々シェアしよう、どれにしようかと注文を選んでいる時だった。


「私は侯爵家の者だぞ!」
満席で賑わう店内を聞いたことのある声が響く。
目をやると入口に数人の男女…正確には男3人に女1人…レリアンと取り巻き御一行だった。
侯爵家の者だと騒いでいるのはセドナーである。

「身内が…恥ずかしいわ」
騒ぎの種が従兄だったからかルフィナはため息を吐き眉間を抑えている。
「これは…同じ貴族として恥ずかしいな…」
シェルも苦虫を噛み潰したような顔をしている。

注意しようにも向こうの方が爵位が高い。
居心地悪くメニューを眺めていると周りのザワザワが静かになった。
顔を上げると御一行が私たちのすぐそばに来ているではないか。

「ルフィナ…酷いわ。私達が座れないよう先回りしたのね?」
思わずポカンとしてしまう。
「そうだ!お前たちが目の前で入っていくのを見たんだからな!」
セドナーが続く。
他の2人も何て性格が悪いんだ、だの金持ちのクセに云々とうるさい。

「この席は俺が予約したんだ!俺たちより先に来てても座れなかったんだよ!」
ディーダが思わず声を荒げる。
「お前…子爵の息子のクセに偉そうに!俺やセドナー殿の爵位を分かってるのか!?」
取り巻き1のセドナーを伯爵子息の取り巻き2が持ち上げる。ちなみに取り巻き3は男爵子息だが顔が良い。
「席の後先に爵位は関係ないですよ。街で貴族がそれをすると秩序が乱れます」
シェルが冷静に冷たく返すが奴らは引く気がないらしい。

「いいの…私が我慢すれば良いだけだから…そうでしょ?ルフィナ…」
思わず斜め下に視線をやりましたーなレリアンにアホ3人が優しいとか抜かしてキュンとしてる。
そして…レリアンの視線の先を見たセドナーが椅子が1つ空いてるのに気付いてしまった。
「…あと1人座れるじゃないか!お前、日頃意地悪してるのに仲良くしてくれてるレリアンを誘うくらいの気遣いが出来ないのか!?」

レリアン、確信犯だ…と内心思ったのは私だけではないだろう。
口々に「俺たちはいいから」とか「レリアンが一番楽しみにしてただろ」とか席を譲る男たちに言いたい。
まだ誘ってない。てか誘いたくない。

チラっとルフィナを見ると申し訳無さそうな顔で私達をチラチラ見ている。
ため息を我慢し小さく頷くとシェルとディーダも小さく頷いた。
多分断ってもロクな結果にならない。
受け入れた方がマシかもしれないという判断だった。

「ありがとぉー♡シェルもディーダも優しいのね!ルフィナもありがと」
特に交流があるわけでも無いのに名前を呼び捨てられた2人の顔が思いっきり引き攣っている。私に至ってはスルーだ。
そして空いていたルフィナとシェルの間の椅子を思いっきりシェル側に寄せてレリアンは座った。

「ねぇねぇ…わたし、コレとコレで迷ってるのぉ~♡良かったら半分コしない?」
肩を寄せて甘ったるい声でシェルにすり寄るレリアン。これはシェルの見た目が良いからだろう。
レリアンが猫を被る相手は家が伯爵位以上か見た目が良いかなので対象になってしまったらしい。

「いや…私は今日サンドイッチを頂くつもりなんだ…」
哀れ甘い物を楽しみにしていたシェルはワッフルよりレリアンとのシェア回避を優先したらしい。

「私で良ければ半分づつする?」
ルフィナがレリアンを気遣い声をかける。
しかしその声に若干ホッとしたシェルから目を離すことなく「あ、いらない」とレリアンは冷たく返した。
もう空気は最悪である。
こんな状態なのによくレリアンは楽しそうにしてられるなぁと関心すらしてしまう。

「ルフィナたち、まだ決まらないの?わたしもシェルも決まったんだけど?」

「え!?」という顔のシェルに気付いているのかいないのか…サッサとしろと視線で文句を言われても、きっと今の気分で食べたってどれも本来の美味しさを味わうことなど出来ないだろう。
シェルがどこか遠い目になっている。

「あ、いっけなーい!ルフィナ、あれ忘れてたんじゃない?」

若干棒読みになってしまったが私はルフィナとディーダに目配せしつつワザとらしく手をパチンと胸の前で合わせた。

「そういえばー俺達もーウッカリしていたなー。シェルも行かなきゃーヤバいんじゃねーだろーかー」

むちゃくちゃ棒読み大根演技だがディーダも私に合わせる。
一瞬キョトンとしたがルフィナも慌てたように演技を始めた。
「そうだったわ!ライラ、思い出してくれてありがとう。そういえばディーダとシェルも今日はすぐ帰るって話していたものね!」
捲し立てるように話すルフィナの声で遠い目から復活したシェルが一番自然に演技に入る。
「あぁ、急いで食べようと思ったがもう時間がギリギリだな。席はセドナー殿たちに譲ろう。レリアン嬢、申し訳ないですが失礼しますね」

レリアンが「え?え?」とか言ってるうちに私達はそそくさと席を立ち、ディーダがさっさと呼んできたセドナー達を座らせると入れ替わりで店を出た。

バタバタと振り返ることなく4人で店から見えないところまで急ぎ足で進む。
大きめの道を渡ったところで誰と無く息をつき皆立ち止まった。
「勝手に店から出る流れにしてごめんなさい。でもあのまま食べても美味しく頂けない気がしたの」
私は皆に謝るとルフィナが慌てて頭を下げる。
「ライラありがとう!皆、私こそごめんなさい。私が目を付けられてしまったから…」
「ライラは良い仕事したしルフィナは悪くねーよ。俺もシェルもどうにも出来なかったし…悪いとしたら運だな!運が悪かった」
「ディーダの言う通りだ。ルフィナがレリアン嬢に絡まれるのは災難としか言えない。そしてライラ、助かったよ。ありがとう」

どうやら皆の気持ちは一緒だったらしい。

「今回災難だったけど…ワッフルはまた今度リベンジしたい…」
シェルが若干悔しそうに言うとフッと笑顔が溢れる。
「あれ?サンドイッチ食べるんじゃねーの?」
からかうディーダに笑う私達。
楽しい空気が戻る。
「ねぇ、前に食べたクレープ屋さんってこの近くじゃないかしら?沢山種類あったしこれから行かない?」
ルフィナの提案に満場一致で私達は足取り軽くお店へ向かった。
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