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末娘の結婚式
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この日、私はとても不愉快だった。
今日はシャロットの結婚式だ。
レイナーラ領と国境の川を挟んだ場所にあるヘンドリー侯爵領にある教会で式は行われる。
何故子爵の結婚式がこの地で行われるのか、それは結婚相手の子爵がヘンドリー侯爵の血縁者だから、だそうだ。
そしてそれ故に王に辺境伯として参列するよう命じられてしまった。
確かにこの結婚には両国の友好関係強化の意味合いがある。
父親として参列するつもりは無かったが侯爵領で行われる国際結婚なら辺境伯として顔を出さないわけにはいかない。
しかも結婚するのは憎くとも実の娘だ。
聞く所によると義父も参列するという。
あれの婚姻をどこからか聞きつけたのか結婚の準備を私に変わって色々手配していたそうでご苦労な事だ。
義父が参列すると聞いたときは親族代表として、父親の代行も義父に任せようと思ったのだが辺境伯として参列せねばならんとは誤算だった。
二人の顔を見るのは苦痛だが仕事となれば仕方あるまい。
式場では恰幅のいい、壮年の男性が嬉しそうに挨拶をして回っているのが目に入った。
周りの人間が次々に祝福を口にしている。
服装からしてアレが新郎だろう。
思っていた通りシャロットの年齢の倍はいってるだろう姿に満足する。
「レイナーラ辺境伯ですね!本日はサカオ王国まで足を運んでくださりありがとうございます!」
笑顔で握手を求められた。
義父となる私に対する挨拶としては微妙だがシャロットより私との方が歳が近いせいもあるだろう。
私とてこの男に「お義父さん」などと呼ばれたくはない。
「どうぞ娘をお願いします」
一応父親として一言宜しくとは伝えておいた。
「どうぞ安心なさってください。ヘンドリー家もシャロット嬢の力になりますから」
血縁とはいえ子爵ごときがヘンドリー侯爵家を名乗ることに違和感があったが自分を大きく見せたいのだろうとあまり気にも留めなかった。
それよりも控室の近くで懐かしい髪色をした後ろ姿が目に入ったのだ。
真新しい銅のようなピンクの光を放つブロンドの髪。
遠目に一瞬だったがセディナの髪色によく似て見えた。
控室の近くを出入りしていたのならば教会の人間か子爵家の使用人だろう。
帰る前に見つけ出して、なんとしてもうちで働いてくれるよう声をかけねば。
顔は似ていないだろうが他に見ることが無かったあの髪をまた眺めたい。
常に後ろを向かせておけば寂しい夜など辛い時に愛でるのに良いかもしれん。
彼女と同じ珍しい髪の女を見付けられた、それだけでもわざわざ足を運んだ甲斐があったと内心陛下に感謝する。
新郎とは思わぬ所で挨拶を済ませられたし私は親族席でなく貴賓席へ足を運び腰を掛けた。
花嫁をエスコートするのはラメノ侯爵がやりたいというので親族席は喜んで譲ったのだ。
わざわざ花嫁の控室へ嫌いな人間と憎い人間の顔を見に行くのも馬鹿らしい。
あちこちで行われていた談笑が落ち着いてきた頃、ラッパが鳴り響きもうすぐ式が行われるのを告げた。
皆がそれぞれの席に着き、新郎新婦の入場を待つ。
私としては漸くだ。
見間違う事無いあの髪色、早くあの髪の女を探しに行きたかった。
その為にもさっさと式が終わって欲しい。
扉が開き、先程の恰幅の良い男が女をエスコートして入ってくる。
なんだ、義父がエスコートする話ではなかったのかと冷めた目で見ると横を歩いている女は亜麻色の髪をしていた。
髪は5歳の頃は義父と同じ明るい金髪だったがロベルトのように色が変わって亜麻色になったのだろう。
色がくすめばあんな色になるんだな、と祝福よりも蔑む気持ちで娘を眺めた。
セディナとは似ても似つかぬ髪だ。
ただ、遠目にも16歳にしては大人びて見えた。
化粧のせいだろうか?
そう思って近付いてきた新婦を観察すると、なんと瞳の色が紫色ではないか!
あれはシャロットではないのか?
娘の顔が全く分からない私だが目の色だけは私と同じ緑で変わらないと思っていた。
いや…目の色が変わることなどあるのか?
そしてやはり妙齢の女性に見える。
憎いほど似て見えた義父の面影もなくなっていた。
が、私にも似ていない。
当然セディナにも…。
既に結婚式は始まっている。
今更花嫁に近付き確認することも出来ない。
動揺を他の参列者に気取られるわけにはいかないが私の頭の中は軽く混乱していた。
今日はシャロットの結婚式だ。
レイナーラ領と国境の川を挟んだ場所にあるヘンドリー侯爵領にある教会で式は行われる。
何故子爵の結婚式がこの地で行われるのか、それは結婚相手の子爵がヘンドリー侯爵の血縁者だから、だそうだ。
そしてそれ故に王に辺境伯として参列するよう命じられてしまった。
確かにこの結婚には両国の友好関係強化の意味合いがある。
父親として参列するつもりは無かったが侯爵領で行われる国際結婚なら辺境伯として顔を出さないわけにはいかない。
しかも結婚するのは憎くとも実の娘だ。
聞く所によると義父も参列するという。
あれの婚姻をどこからか聞きつけたのか結婚の準備を私に変わって色々手配していたそうでご苦労な事だ。
義父が参列すると聞いたときは親族代表として、父親の代行も義父に任せようと思ったのだが辺境伯として参列せねばならんとは誤算だった。
二人の顔を見るのは苦痛だが仕事となれば仕方あるまい。
式場では恰幅のいい、壮年の男性が嬉しそうに挨拶をして回っているのが目に入った。
周りの人間が次々に祝福を口にしている。
服装からしてアレが新郎だろう。
思っていた通りシャロットの年齢の倍はいってるだろう姿に満足する。
「レイナーラ辺境伯ですね!本日はサカオ王国まで足を運んでくださりありがとうございます!」
笑顔で握手を求められた。
義父となる私に対する挨拶としては微妙だがシャロットより私との方が歳が近いせいもあるだろう。
私とてこの男に「お義父さん」などと呼ばれたくはない。
「どうぞ娘をお願いします」
一応父親として一言宜しくとは伝えておいた。
「どうぞ安心なさってください。ヘンドリー家もシャロット嬢の力になりますから」
血縁とはいえ子爵ごときがヘンドリー侯爵家を名乗ることに違和感があったが自分を大きく見せたいのだろうとあまり気にも留めなかった。
それよりも控室の近くで懐かしい髪色をした後ろ姿が目に入ったのだ。
真新しい銅のようなピンクの光を放つブロンドの髪。
遠目に一瞬だったがセディナの髪色によく似て見えた。
控室の近くを出入りしていたのならば教会の人間か子爵家の使用人だろう。
帰る前に見つけ出して、なんとしてもうちで働いてくれるよう声をかけねば。
顔は似ていないだろうが他に見ることが無かったあの髪をまた眺めたい。
常に後ろを向かせておけば寂しい夜など辛い時に愛でるのに良いかもしれん。
彼女と同じ珍しい髪の女を見付けられた、それだけでもわざわざ足を運んだ甲斐があったと内心陛下に感謝する。
新郎とは思わぬ所で挨拶を済ませられたし私は親族席でなく貴賓席へ足を運び腰を掛けた。
花嫁をエスコートするのはラメノ侯爵がやりたいというので親族席は喜んで譲ったのだ。
わざわざ花嫁の控室へ嫌いな人間と憎い人間の顔を見に行くのも馬鹿らしい。
あちこちで行われていた談笑が落ち着いてきた頃、ラッパが鳴り響きもうすぐ式が行われるのを告げた。
皆がそれぞれの席に着き、新郎新婦の入場を待つ。
私としては漸くだ。
見間違う事無いあの髪色、早くあの髪の女を探しに行きたかった。
その為にもさっさと式が終わって欲しい。
扉が開き、先程の恰幅の良い男が女をエスコートして入ってくる。
なんだ、義父がエスコートする話ではなかったのかと冷めた目で見ると横を歩いている女は亜麻色の髪をしていた。
髪は5歳の頃は義父と同じ明るい金髪だったがロベルトのように色が変わって亜麻色になったのだろう。
色がくすめばあんな色になるんだな、と祝福よりも蔑む気持ちで娘を眺めた。
セディナとは似ても似つかぬ髪だ。
ただ、遠目にも16歳にしては大人びて見えた。
化粧のせいだろうか?
そう思って近付いてきた新婦を観察すると、なんと瞳の色が紫色ではないか!
あれはシャロットではないのか?
娘の顔が全く分からない私だが目の色だけは私と同じ緑で変わらないと思っていた。
いや…目の色が変わることなどあるのか?
そしてやはり妙齢の女性に見える。
憎いほど似て見えた義父の面影もなくなっていた。
が、私にも似ていない。
当然セディナにも…。
既に結婚式は始まっている。
今更花嫁に近付き確認することも出来ない。
動揺を他の参列者に気取られるわけにはいかないが私の頭の中は軽く混乱していた。
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