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21 休息のひととき

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やはり王宮の王族や賓客用の馬車は乗り心地が違う。
行きと違ってとても快適。


私達は小屋に帰ったあと、置いていた荷物を回収してウィルター卿が影の方と連携して手配した迎えの馬車に乗りこんだ。

小屋はまた再起動させ、私達の痕跡をキレイに消しはしたがそのまま置いてきている。
元々あそこにあったものだしね。
それに魔力の補充をしなければ水も明かりも使えなくなる。
あの小屋を活用出来るほど魔力を持つ人間はそう多くないからそのままにしても問題ないだろう、という事になった。

「このまま王城に行くのですか?」
同乗している王太子殿下の侍従に尋ねる。
「お疲れとは思いますが城にて到着と同時に皆様それぞれ湯浴みをして頂けるよう準備をしております。お着替えも王太子妃様がご用意しておりますのでどうぞご安心下さい」
どうやら私達をもてなす用意がなされているらしい。

「私達もですか?」
レリアーナが若干恐縮して尋ねる。
彼女たち3人は下位貴族だ。
普段は馬車も私が側仕えとしてディボラ様と同じ物に乗り、彼女たちは使用人用の物に乗る。
その為この上級の馬車に乗るのが初めてなので緊張しているようだった。

「もちろんでございます。ディボラ様の大切にされている側仕えの方々ですので丁重に扱うよう王太子様から言い付かっております」
ふとディボラ様を見ると窓の外を眺めながら微笑まれている。
王太子様の対応を嬉しく思われているようだった。


城に着くとそれぞれが客間へと案内された。
皆と離れ通された部屋に入ると名前を呼ばれる。
「お母様も招た…え!?お父様!?」
なんとお父様がいる!と、いうことは…。
「王様もご帰還してるよ、姉上!」
「影の者から私も聞いたよ。アリア、色々と大変だったな」
「お疲れ様、アリア。とりあえずゆっくりお風呂にいってらっしゃいな」

浴室へ行くとマッサージのプロもいてとても快適なお風呂タイムだった。
その後お城の使用人たちにヘアメイクを施され締め付けの無いドレスを着せてもらう。
「随分と楽なドレスなのね」
「長らくの不慣れな生活でお疲れだろうと言うことで王太子妃様が城下町の店からお探しになりご用意されたものでございます」
ワンピースのような楽さのドレスでとても快適に家族が待つ部屋に戻ると食事はパーティ形式で用意されていると皆揃って案内された。



「アリア様!」
案内された広間で駆け寄ってきたのはレリアーナ。
「私、こんな待遇初めてで少し心細かったんですの!こんなドレスまでご用意頂いていて…良いのでしょうか?」
見ると広間の端には若干居心地悪そうにキュアン子爵家の人たちがいた。
お父様とお母様がソファに座ることを促し挨拶を交わしていると、こちらもソワソワとした様子が隠し切れないミミリス男爵一家が案内されてくる。

「ドレス!お揃いなのですね!」
ラナも嬉しそうにやや小走りでこちらに来た。
「心細かったですー!たかだか男爵家の娘の私があんな丁寧に扱われてもう…」
最高のマッサージだったがラナは終始緊張していたらしい。
お城の使用人は貴族も多く伯爵令嬢も侍女として働いていたりする。
そりゃあ心中お察し…としか言えない。
王太子様は絶対良かれと思って用意してくださったんだろうけど…。

平常心で入ってきたように見えるのはローリー子爵家の人達だ。
流石隠密や密偵、暗殺に長けた人を多く排出している系統の家なだけある。
「サマナ様は平気そうですね」
ホッとして泣きそうだったラナの言葉にも余裕の笑顔だ。
「ううん、全然平気じゃない。父様と母様も兄様も妹も平気なフリしてるけど平気じゃない」
固定された笑顔のままサマナが淡々と言う。
全然平気じゃなかった…。
そして一家全員平気に見せてたの凄い。

「皆、大丈夫?」
一塊に集まる私達の元へディボラ様が現れた。
「王太子様のおもてなし…特にラナは気持ち的な面で逆に負担だったわよね。皆同じ扱いと聞いて有り難いけど不安がってないか心配だったの」
流石ディボラ様。お見通しである。
特に3人は皆一緒か、安心してもてなしを受けていいと思える配慮が欲しいと思っていた事だろう。

ディボラ様のドレスは私達と揃いだけど少し豪華な意匠が凝らされたものだった。
ただ似ているものなのにディボラ様が纏うと優美さが違う。
久々のドレス姿だからか見慣れていたハズの気品に少し気圧されてしまった。
私達は揃って淑女の礼をとる。

ディボラ様と一緒に来られた侯爵夫妻に楽にするよう言われ顔を上げるとディボラ様のお兄様と弟様も微笑んでいらした。
「ご令嬢方、この度はうちのディボラが迷惑をかけたね。あんな形で破棄を受け入れるから…すまないね」
「本当…苦労かけてしまいましたね。それでも付き従ってくれてありがとう」
お二方とも侯爵家にお邪魔した時、いつも身分が下の私達にも優しく親切にしてくださる方達だ。
今回のことも心配してくださっていたらしい。

やがて親同士が挨拶を交わしていると執事らしい人が料理が運び込まれる事を伝えてきた。
パーティのようにバイキング形式でソファにテーブルと思い思いに座って料理が楽しめるようになっている。

「流石王宮…美味しいですぅ!」
ラナが感激している。
普段のパーティのように軽食でなく、しっかりとした料理が好きなだけ食べられるのだ。
「そちらがお好みでしたらこちらもお勧めでございます」
給仕の人の勧めるままに食べている…ってラナって結構食べられる人だったのね!?

鍛えている私より食べそうな勢いのラナを見てディボラ様が笑う。
「ラナは食べるのが好きだったのね。そういえばラナのお料理も本当に美味しかったわよ」
私もそれには同意だ。

追放生活中、特にセドム王子を待つ間は村の食堂や屋台も沢山行った。
そんな村の、庶民向け料理を作っている人とはいえプロとして生きてる人達と比較してもラナの料理は引けをとらない美味しさだったのだ。
「教えてくれたうちの調理人にお褒め頂いたと伝えます」
そう言って照れくさそうにローストビーフを頬張るラナ。

そんなラナに負けじと私も食事を楽しんだ。
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