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20 対峙、そして会話

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「おいっ!やっと見つけたぞ!随分と金を持ち出していたようだな!」

5人で生クリームたっぷりの木苺のパンケーキを食べて、これからどうしようかと歩いている時だった。
旅装束で疲れた様子の第二王子セドム様がご登場したのは。

「まぁ、ご機嫌よう」
ディボラ様が優雅に礼をしたのでサッとその後ろに並び同じく淑女の礼をとる。
「何が「ご機嫌よう」だ!手間取らせやがって!大平原の村を転々と移動しやがって!」
これはディボラ様がウィルター卿に頼んだ情報操作だ。
私達は追放後、大平原の村の宿で一番良い場所に泊まっては次の村へと移動して過ごしていたことになっている。

「あら、国外追放を満喫していただけでしてよ?」
キョトンとすまして王子に返されるディボラ様。
悔しそうにグヌヌとなっているセドム王子の顔に吹きそうになる…ダメ耐えるのよ私。

「何が満喫だ!帰れると思って手持ちの金で豪遊してたんだろうが!親に渡されてたのか!?あ!?」
「まぁ…言葉が乱れすぎですわ」
威嚇する王子の神経を逆撫でするほど平然と対応するディボラ様。
絶対楽しんでいらっしゃる。
「それで?追放したはずの私をどうしてお探しでしたの?」
「この私に探してもらえていると思っていたのか!」
「えぇ、「やっと見つけた」と仰っていたので探していたのかと。違うのですか?」
「ぐっ…く…可愛くない女だ!!!」

しばし沈黙が下りる…。

先に口を開いたのはディボラ様だった。
「あの…特に御用がないなら私達は失礼いたしますね。このあと用がありますので」
「なっ…追放されたお前にどんな用があるってんだ!」
「え?満喫するという用ですけど…」

再び沈黙…。

「それでは「待て!」
何したいんだこのポンコツ王子。
もしかして謝るの?だから言いにくいってこと?
それなら待つのも仕方ないかな、なんて僅かにでも反省を期待してしまった私が馬鹿だった。
「お前のせいで兄上に怒られたんだぞ!?」
「…はぁ、そうですか」
「なんだ!その気の抜けた言い方は!お前のせいなんだぞ!」
「どの辺りが私のせいなのでしょう?」
「お前が勝手に国を出ていったからだ!」
「セドム様が追放なされたから出てっただけで勝手ではありませんわ」
「そ…そうだが!そんな金を持って出ていればただの旅行だろうが!」
うーん…子供相手かな?

ディボラ様は服のポケットからおもむろに魔石を取り出す。
「こちら、魔石ですわ。ダンジョンで私やアリアが採取してますの。売れば充分村を満喫するくらい出来ますわ」
「な…くそ…お前…!」
王子…語彙力乏しいだけあって口喧嘩弱~い。
頭の回転も遅いもんな、しゃーないか。

「とにかくお前のせいなんだから謝れ!城に帰って仕事しろ!」
「え?嫌ですわ」
「王族の言うことが聞けないのか!?」
「えぇ、追放されたからには臣民どころか国民ですらないですもの」
「じゃあ追放は取り消してやる!」

ここでディボラ様は大きく溜息をついた。
「第二王子セドム様?追放したんでしょ?私、楽しく過ごしてますの。ほっといてくださる?」
「な……!だから!追放は取り消してやると言ってるだろうが!」
「取り消して頂かなくても宜しいんですけど」
「家族に会いたくないのか!?」
「別に国外で会えますし…」
「!!」
「じゃあご機嫌よう」
「待て…待ってくれ……待ってく…ださい…」

そう項垂れる王子にディボラ様はとびきりの笑顔を向けられた。
明らかにホッと表情を緩めるセドム王子。

「では、ご機嫌よう」
一言、ディボラ様がそう言うとセドム王子の靴は地面へと凍りつき動けなくなった。
「おい!待て!コレ…」

なにか喚いている王子を置いて小屋へと向かう。
王子の護衛が二人いたが流石に追いかけろと言われても身動きの取れない王子を置いて追いかけるなど出来ない。

「良いんですか?あれ…」
何となく気になって聞けばディボラ様曰くすぐに解けるとの事だった。
「てか…靴を脱げば追いかけられましたよね…。本気度がしれますね」
そう笑うのはサマナだ。
「やっぱり相変わらずでしたわね」
こう呆れるのはレリアーナ。
「人の上に立っちゃダメなタイプだし結果的に良かったかもです」
やり切ったような笑顔のラナ。

「さあ、帰りましょう」
そう言うディボラ様に憂いは微塵も見られない。


こうして私たちは新しい道を生きる事が決まった。
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