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17 一方、セドム第二王子

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ヤバいヤバいヤバい!
私は焦っていた。
ディボラたちが見付かったという報告が上がらない。

兄上に怒られ慌てて国境の街に来た。
そこで冒険者どもを雇って探させているがそれらしい集団の話しが出てこないのだ。

「何故だ!?アリアは別として他の奴らに戦闘経験なんてないんだ!護衛を雇って一番近いザナー国まで歩いて行ったかケーノ大平原の中の村に滞在するしか選択がないだろう!」
「しかし大平原の最寄りの村にも聞き込みをしていますが女性五人連れの情報がまだ出てきていません」
従者のウィルからこの返事を聞くのはもう何回目だろう。

追放した日の目撃情報はそれなりにあった。
あいつらは国境を出てすぐ近くにあるキャンプエリアで着替えをして村へ行く馬車乗り場の方へ歩いて行ったという情報は聞いた。
しかし村では目撃情報もなく、乗り場を通り過ぎて森のダンジョンまで行ったのかと思いこちらでも聞き込んでいるのだが5人組は見ていないという。
あれか?途中で誰か死んで人数が減っているのか?

父上が帰るまであとどのくらい時間があるのだろう。
そうジリジリしている時だった。
「ディボラ様たちと思しき人達の目撃情報を掴みました!案内を立てて村を回っていた貴族っぽい女の一団が居たそうです!」
情報を掴んできたのは連れてきていた近衛だった。
「でかした!それだ!案内の奴は!?」
「連れてきております!」
その兵に案内された一室へ行くと一組の中年の男女がいた。

「お前ら、この女たちを知っているな?」
私は五人の姿絵を二人に見せる。
二人は顔を見合わせた後、首を横に振った。
「申し訳ないですがオレたちは知らねぇです」
「アタシも覚えがなくて…申し訳ありません」

そういう二人の前に金貨をチラつかせる。
男の方は目を見開いた。
「ほれ、話せばコレをくれてやる」
相手は冒険者。情報にも金をくれてやらねばな。
「それは…ぜひ話したいです!確かに女たち5人の案内を最近しました!」
「ちょっ…ガナ!?」
なんだ、ディボラのやつ、口止め料でも払ってやがったかと情報の少なさに得心がいく。
男に続きを促すと男は盛大なため息をついた。
「オレたちが案内した女5人は確かに品はあったけどもっと無骨な人達でした。来たばかりの冒険者で換金所とかが知りたいとの事で案内を頼まれたんです。そんなおキレイな方達じゃねぇです」
「なんだと!?」
「ちゃんと話したんで金貨、くださいますよね!?」
「ふざけんな!」
怒りで立ち上がった拍子に椅子が倒れる。

するとそれまでへりくだってた男の様子が少し変わった。
「ふざけてんのはどっちだ!?オレたちゃ協力しろと半分無理矢理連れてこられたんだ!話した内容が期待と違えば怒鳴られるとかやってらんねぇよ!移動料に金貨貰っても割に合わねぇ!」

急に捲し立てるではないか!
腹はたったがここは王都ではない。たかが金貨一枚でコイツを怒らせるのも馬鹿らしい。
「ふんっ!くれてやるから失せろ!」
オレが放り投げた金貨を拾って冒険者の二人は帰って行った。
投げられた金を拾うとはプライドの無いやつだ。

「もしあいつらが嘘をついてディボラたちを隠しているとしたら…もしや移動したのか?他にも村があるって言ってたよな!?」
どうにも冒険者どもを信用出来なかったが女5人を案内したのは事実らしい。
他の部分は印象が違ったとか言えば誤魔化せる部分だ。
だから引っかかるのかもしれない!
「ケーノ大平原には冒険者の村が3つあるそうです。他2つは馬車で数時間かかる場所だそうですが村を繋ぐ馬車は確かにあります」
「その馬車を案内させた可能性がある!残りの村でも聞き込みをしろ!冒険者は信用ならんから近衛に馬を手配し行かせるんだ!」
「はい、すぐ手配します」


従者ウィルは近衛二人にセドム王子の指示を伝えながら思っていた。
(冒険者の言葉の裏を考えられる頭があるなら自分で仕事出来そうなのに…。王子が優秀なのか馬鹿なのか最近本当に分からない…)

悪知恵だけが働く人間がいることを素直な彼はまだ知らないらしい。
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