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11 一方、王太子
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激務だ…。
父上と母上が妹の結婚の為に不在とはいえ忙しすぎる。
その原因を私は陳情によって知ることとなった。
どうも最近仕事が滞ったり上手く回らないと思ったら弟のセドムが使い物になっていないらしい。
忙しくなるのが想定されていたのに何をやっとるんだアイツは!
ノックが響き、その問題の男がやってきた。
「兄上、お呼びですか?」
何故呼ばれたのか検討もつかないのかノホホンとした雰囲気に反吐が出る。
「お前は何故呼び出されたかの自覚もなさそうだな?」
私が怒りを抑えているのに気付いているのかいないのか、弟はいつもの様子でヘラヘラしていた。
「うーん、お手紙の内容ならもうちゃんとしましたし…」
検討もつかないといった態度にブチ切れた。
「ちゃんとした!?してないよな?まだこちらに戻ってない書類もあるし決裁されてない物もあるから此方の仕事が滞るんだよ!なんでこの忙しい時にお前はサボっている!ディボラ嬢はどうした!?何故リーナ・ファミーに補佐をさせている?誰の許可だ!」
一息に怒りつつ疑問をぶつけた事に驚いてはいるようだが焦りはなくキョトンとしている。
「兄上…どうしたのです?私は毎日仕事をしております。サボってなどいません。ディボラは私の婚約者に相応しくないので追放しました。リーナを補佐につけたのは私の許可です」
オロオロとしながらこちらが仰天するような事を吐かすではないか!
あまりの事に怒りが冷え逆に冷静となる。
「まず…一つづつ確認する。サボらず仕事している、だと?」
「はい、以前と同様同量程度ではありますが毎日執務室にて…。あ、補佐のリーナがまだ慣れていないので全体量は確かに少なくなっているかもしれませんね!」
補佐の慣れ云々という問題ではないレベルの滞りなのだが今は置いておこう。
「ディボラ嬢が婚約者に相応しくないというのは?」
「私の愛しいリーナを取り巻きどもと虐めていたのです!」
いや…リーナ・ファミーを虐めてディボラ嬢になんの得があるんだ…。
「…追放というのは?」
「そのままです!虐めをするような令嬢どもを罰として国外追放にしケーノ大平原の門から追い出させました!ちゃんと見張りの報告も受けたので確実に執行できましたよ!」
…。一瞬思考が止まってしまった…。
「お前の補佐にお前が任命したというが…まさか直接の補佐にしたわけではあるまいな?」
「え?私の補佐なのに私が決めてはダメでしたか?」
…頭が痛い。
私は深い、深ーいため息をついた。
自身を抑えるため、先程のように感情に飲まれないようにするため。
でないと…今感情に飲まれてしまうと、ただ怒鳴るだけでは収まりそうにない。
「あのな、セドム…まず、直接の補佐は父上しか決められないんだ。今、代理を務める私も代理の期間が短いから決められない。それを何故お前が決めたんだ?機密文書も取り扱っているのを分かっているか?」
なるべくゆっくり話す。
怒りが噴出しないように、だ。
「え!?そうなの!?兄上…どぉしましょう…?」
…はあぁぁぁぁ~……。
「あとな、たとえ虐めが事実であってもディボラ嬢の方がリーナ嬢より身分が上だ。犯罪でない限りそんな理由で罰など有り得ん」
「しかし「しかしも何も、罰など有り得んのだ。しかも令嬢に国外追放など…上から数えた方が早いほど重い罰ではないか…。そんな重い罰を言い渡せるのも父上だけだ。場合によっては私も出せるがただの王子のお前にそこまでの権力はない」
「え…そうなのですか?ディボラは「賜わりました」って受け入れましたよ?」
…はあぁぁぁぁぁぁ~…!
「そもそも、そのディボラ嬢を国に留めておく為に父上は独身のお前と婚約させたのに…国外に追いやってどうするつもりだ?」
「え…そうでしたっけ……」
…ビキッ。
「あのな…」
怒りで視界が揺れるようだ。
私の怒りが今更伝わったのか弟が若干怯えている。
忘れていた。
ディボラ嬢と婚約する前の弟が愚か者だった事を…。
どうしようもなく馬鹿で、浅慮で、迂闊な奴だった事を…。
ディボラ嬢のお陰でマトモになったと思っていたのだが…頼りになるようになったとさえ思っていたのだが…こいつは変わっていなかったのに気付いていなかった。
そんな自分への怒りなのか、愚かな弟への怒りなのか分からないが、こいつに仕事をさせようとしても無駄な事だけはよく分かった。
「今すぐリーナ・ファミーを執務室から追い出せ。あと第二王子執務室の責任者をこちらへ寄越せ。それから…」
セドムは涙目でコクコクと激しく頷いている。
本当に王子らしさなぞ微塵もない。
「それからディボラ嬢を呼び戻せ。何としてでもだ!ただし傷付ける事は許さん。共に追放した者たちも丁重に扱い帰還してもらえ。出来るまで城に帰ることは許さん。父上がお戻りになるまでに戻って頂けなければ廃嫡もあり得ると思え…!」
「は、廃嫡!?そんな権限、兄上にないでしょう!?」
「無い。だがリーナ嬢を直接の補佐につけたのはそうされてもおかしくない事だ。ディボラ嬢たちを戻せなければ私は進言にて廃嫡の後押しをしよう」
「そんな…だって「御託を抜かさず直ぐに行け!!!」
私の剣幕に恐れたのか飛び上がるように怯えて走って部屋を出ていった。
父上が戻るまであと半月と少し…。
仕事が溜まった原因さえ分かれば何とか出来るさ。
私は自分で自分を鼓舞しながら体力回復の効果が付与された強壮魔法薬を一気にあおった。
父上と母上が妹の結婚の為に不在とはいえ忙しすぎる。
その原因を私は陳情によって知ることとなった。
どうも最近仕事が滞ったり上手く回らないと思ったら弟のセドムが使い物になっていないらしい。
忙しくなるのが想定されていたのに何をやっとるんだアイツは!
ノックが響き、その問題の男がやってきた。
「兄上、お呼びですか?」
何故呼ばれたのか検討もつかないのかノホホンとした雰囲気に反吐が出る。
「お前は何故呼び出されたかの自覚もなさそうだな?」
私が怒りを抑えているのに気付いているのかいないのか、弟はいつもの様子でヘラヘラしていた。
「うーん、お手紙の内容ならもうちゃんとしましたし…」
検討もつかないといった態度にブチ切れた。
「ちゃんとした!?してないよな?まだこちらに戻ってない書類もあるし決裁されてない物もあるから此方の仕事が滞るんだよ!なんでこの忙しい時にお前はサボっている!ディボラ嬢はどうした!?何故リーナ・ファミーに補佐をさせている?誰の許可だ!」
一息に怒りつつ疑問をぶつけた事に驚いてはいるようだが焦りはなくキョトンとしている。
「兄上…どうしたのです?私は毎日仕事をしております。サボってなどいません。ディボラは私の婚約者に相応しくないので追放しました。リーナを補佐につけたのは私の許可です」
オロオロとしながらこちらが仰天するような事を吐かすではないか!
あまりの事に怒りが冷え逆に冷静となる。
「まず…一つづつ確認する。サボらず仕事している、だと?」
「はい、以前と同様同量程度ではありますが毎日執務室にて…。あ、補佐のリーナがまだ慣れていないので全体量は確かに少なくなっているかもしれませんね!」
補佐の慣れ云々という問題ではないレベルの滞りなのだが今は置いておこう。
「ディボラ嬢が婚約者に相応しくないというのは?」
「私の愛しいリーナを取り巻きどもと虐めていたのです!」
いや…リーナ・ファミーを虐めてディボラ嬢になんの得があるんだ…。
「…追放というのは?」
「そのままです!虐めをするような令嬢どもを罰として国外追放にしケーノ大平原の門から追い出させました!ちゃんと見張りの報告も受けたので確実に執行できましたよ!」
…。一瞬思考が止まってしまった…。
「お前の補佐にお前が任命したというが…まさか直接の補佐にしたわけではあるまいな?」
「え?私の補佐なのに私が決めてはダメでしたか?」
…頭が痛い。
私は深い、深ーいため息をついた。
自身を抑えるため、先程のように感情に飲まれないようにするため。
でないと…今感情に飲まれてしまうと、ただ怒鳴るだけでは収まりそうにない。
「あのな、セドム…まず、直接の補佐は父上しか決められないんだ。今、代理を務める私も代理の期間が短いから決められない。それを何故お前が決めたんだ?機密文書も取り扱っているのを分かっているか?」
なるべくゆっくり話す。
怒りが噴出しないように、だ。
「え!?そうなの!?兄上…どぉしましょう…?」
…はあぁぁぁぁ~……。
「あとな、たとえ虐めが事実であってもディボラ嬢の方がリーナ嬢より身分が上だ。犯罪でない限りそんな理由で罰など有り得ん」
「しかし「しかしも何も、罰など有り得んのだ。しかも令嬢に国外追放など…上から数えた方が早いほど重い罰ではないか…。そんな重い罰を言い渡せるのも父上だけだ。場合によっては私も出せるがただの王子のお前にそこまでの権力はない」
「え…そうなのですか?ディボラは「賜わりました」って受け入れましたよ?」
…はあぁぁぁぁぁぁ~…!
「そもそも、そのディボラ嬢を国に留めておく為に父上は独身のお前と婚約させたのに…国外に追いやってどうするつもりだ?」
「え…そうでしたっけ……」
…ビキッ。
「あのな…」
怒りで視界が揺れるようだ。
私の怒りが今更伝わったのか弟が若干怯えている。
忘れていた。
ディボラ嬢と婚約する前の弟が愚か者だった事を…。
どうしようもなく馬鹿で、浅慮で、迂闊な奴だった事を…。
ディボラ嬢のお陰でマトモになったと思っていたのだが…頼りになるようになったとさえ思っていたのだが…こいつは変わっていなかったのに気付いていなかった。
そんな自分への怒りなのか、愚かな弟への怒りなのか分からないが、こいつに仕事をさせようとしても無駄な事だけはよく分かった。
「今すぐリーナ・ファミーを執務室から追い出せ。あと第二王子執務室の責任者をこちらへ寄越せ。それから…」
セドムは涙目でコクコクと激しく頷いている。
本当に王子らしさなぞ微塵もない。
「それからディボラ嬢を呼び戻せ。何としてでもだ!ただし傷付ける事は許さん。共に追放した者たちも丁重に扱い帰還してもらえ。出来るまで城に帰ることは許さん。父上がお戻りになるまでに戻って頂けなければ廃嫡もあり得ると思え…!」
「は、廃嫡!?そんな権限、兄上にないでしょう!?」
「無い。だがリーナ嬢を直接の補佐につけたのはそうされてもおかしくない事だ。ディボラ嬢たちを戻せなければ私は進言にて廃嫡の後押しをしよう」
「そんな…だって「御託を抜かさず直ぐに行け!!!」
私の剣幕に恐れたのか飛び上がるように怯えて走って部屋を出ていった。
父上が戻るまであと半月と少し…。
仕事が溜まった原因さえ分かれば何とか出来るさ。
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