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第二章 月の国

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「今、何か」

 一人の男が顔を上げた。眉をよせ、彼方を見遣る。

 久方ぶりに感じる気配が、一瞬。
 遥か遠くで光ったような。
 
「気のせいか?」

 気のせいだろうか。
 本当に?

 長い長い計画の、最終局面。
 順調だ。何もかも。
 邪魔する者などいないのだ。

 それは、いちばん始めに殺したのだから。

「月の国」

 気配は月の国の方角からだった。
 
 計画は、最終局面。
 完璧だ。何もかも。

 しかし何かを、忘れているような。

「――――消すか」

 元よりあの忌々しい存在に属する国など必要ない。
 
 男は立ち上がる。
 獲物を前に、どのようにいたぶってやろうかと唇を舌で湿らせて。

 一国を消すなど造作もない。

 私こそが、唯一なのだから。
 

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