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修学旅行が生んだ結果
066 これにしよう
しおりを挟む程なくして響花がホテルで見つけたチラシの商店街に着いた。
商店街と言っても大規模な有名商店街とは違って、五十にも満たない数の店が構えている程度の規模なので見ようと思えばすぐに見終えられる。
観光客もそれなりにいて、小さな町の商店街という割には繁盛しているのは観光地を兼ねているからなのだろう。チラシの裏に書かれている周辺地図によると歩いて十五分程のところには天然温泉や神社の他に地酒製造工場もあるらしい。
お土産屋の前には寺院や神社を模したキーホルダーやゆるキャラのぬいぐるみなどが並べられていた。中には何に使うのかよくわからない物や外国人向けなのだろう、漢字一文字だけのTシャツが吊られている。
「さて、まずはどうするんだ?」
「うーん、そうね。とりあえずご飯にしよっか?」
「あー、まぁそうだな」
時刻を確認すると、もう十二時近い。混み始める前に先に食事を済ませておいた方が後々楽だろう。
「へー、こんなところがあるんだな。先生たちもほとんど知らなかったんじゃないかな?」
そこに目的地の確認をした立花先生が話し掛けて来た。
「それで、ここにはどれくらい滞在するつもりなんだ?」
「どうでしょうかね、少なくとも二時間から三時間程度はここにいるつもりですけど」
「そうか、なら先生はちょっと近辺にも色々と気になるところがあるからちょっと見て来るな」
立花先生は潤と響花に商店街に滞在する時間を確認するのだが、先生の片手には商店街の入り口に置かれていた周辺の詳細に関するチラシが持たれており、一枚目が地酒製造工場だった。
「えっ?(おい、絶対地酒工場に行くだろ?いいのかそれ) で、俺達は?」
「ここにいるんだろ?なら大丈夫だろ。そりゃ深沢がまた問題起こすというならずっと見ていないといけないけど――――」
「なんもしませんってば!大丈夫です!いってらっしゃい!」
「ははっ、じゃあ一応先生として言っておくがくれぐれも気を付けてな。あと、困った事があったり予定を早く切り上げることがあるならすぐに連絡してくれ」
「わかりました」
そうして立花先生は雑踏の中に姿を消していった。
「じゃあ、何食べる?」
「そうだなぁ、せっかくだからこの土地の物食べたいな」
「だよね」
そうして山菜をメインにした和風の店に入る。天丼も山の幸をメインにしており、ししとうや茄子の天ぷらが思っていた以上に美味しかった。
「―――美味しかったね」
「ああ、油ものなのにあっさりしていたし食べやすかったな」
響花も満足した様子で笑みをこぼしている。
「で、どうする?」
「んー、一緒に見る?別々に見る?」
「ははっ」
一応確認の意味で聞いたのだが、思わず込み上げてくる面白さを我慢できずに笑ってしまった。
「なによ、どうして笑ってるの?」
そんな潤の様子を明らかに不審に思う。今のどこにおかしなところがあったのかと。
「いや、響花って最初の印象と全然違うからさ。一人が好きなのかと思ってたから」
「違うって、昨日言ったでしょ。結果的に一人になっただけで、まぁ別に一人でもなんとも思わないけどさ」
「じゃあ別々に見るか?」
「それだとあたし何しに来たのって話になるでしょ!?」
「知ってる。だから一緒に見て回ろうか」
隣で膨れっ面になっている響花を見て面白くて仕方ない。クラスメイトともこんな感じならもっと友達もできるだろうに。「(あっ、別にいなくても苦じゃないんだったな)」と少しばかり考えることになるのは、無理に友達を作ろうとしてしんどくなるよりはよっぽどいいだろうという結論だった。
それから響花と商店街の中をじっくりと見て回る。一緒に見て回っているのだが、潤はその中で花音に贈れるものはないものかと合わせて探していた。しかし中々見つからない。
渡す名目は日頃の感謝と自分の時のお返し。これだけで十分なのでその中に隠しておきたいのは少しばかりの心のこもった贈り物をしたいという気持ちを込めて。
そんな中、商店街の中頃にあるアクセサリーショップを覗くことになる。店の中には客が数人いる程度。
中に入ると様々なネックレスやピアスなどのアクセサリーが飾られており、その値段もピンキリだった。
「へぇー、ここのやつあんまり余所では見ないやつよね」
「おっ、お嬢ちゃんわかるか?」
響花が独り言のように呟くと店主らしき中年の男がその声に反応した。
「あっ、はい、量販的じゃなく、独自的な作りだなって思います」
「その通り、ここのやつは全部俺の手作りだ」
「えっ?これ全部!?」
「ああそうだ。どうだ、一つ買って行くか?」
「んー、ちょっと見せてもらいますね」
「あいよ」
響花と店主のやりとりを潤も横で聞いている。
「(なるほど、オリジナルアクセサリーか。ここならいいのあるかもな)」
そう思いながらも同時に考えるのは花音に彼氏がいるのにアクセサリーを贈ってもいいものなのかということだ。
一つ一つ眺めるように見ていると、ふと目に留まったシルバーアクセサリーがあった。手に取り見る。
「なんか良いのあった?」
「えっ?あっ、まぁ」
潤の後ろからひょこっと覗き込んで話し掛ける響花に少しばかり驚いてしまう。
「なにそれ!可愛いー! えっ、これ、花びらに……これ音符よね!」
「……そうだな」
潤の手の平のシルバーアクセサリーを見る響花は笑顔になっている。
そこには見てすぐにわかる桜をモチーフにした花と花びらを複数組み合わせており、重なる様にト音記号の音符が一つだけ取り付けられていたペンダントがあった。
「潤これどうするの?買うつもりなの?」
「うん、まぁそうしようかなって。妹のお土産にでもな」
「あー、そういえば妹がいるんだっけ、一年に」
曖昧に濁しながら答えるのだが、潤の中ではこれを買うことが確定している。
―――何故なら、そのアクセサリーがオリジナルであり、かつその女の子らしい可愛さはもちろんのこと花と花びらと音符の組み合わせが花音の名前と一致するのだからこれ以上の贈り物はないのではないかとすら思えた。
彼氏がいるらしい花音にこんなものを贈ることができるかどうかわからないのだが、ここで手に入れておかないと二度と手に出来ないかもしれない。実際には他にもオーダーメイドとか色々と方法はあるのだろうが。
そうしてレジに向かおうとしたところで突然響花が「あっ」と声をあげる。
「そういえばそのペンダントって名前に入ってるよね!」
「えっ!?」
ドキッとした。もしかして響花に花音のことがバレたのではないのかと。それらしいところは見せなかったはずなのだが――――。
「名前ってなんのことだ?」
平静を装って響花に確認する。内心では心臓がバクバクしているのを感じる。
「ほら、あたしの名前。響くに花の字でしょ。ちょっとこじつけだけど、花はそのままで音は響くっていう」
花音に関連付けはしないまでも、考え方はそのまま一致することを口にした。
「あーそういやそうだな、もしそんな感じでプレゼントとか贈られたらどう思う?」
「まぁ相手によるけど、普通は嬉しいんじゃないかな?なに?あたしにくれるの?」
「あほなこと言うなよ。なんでお前にプレゼント贈らにゃならねぇんだよ」
「えっ?だって今日のお礼――」
「さっきジェラート買ってやっただろ!ってかそもそもの原因はお前だからな!」
「えー!?ひっどー」
「うっさい!」
この上ねだってくるのだが、話しが逸れたことで上手く誤魔化すことに成功した。響花は不貞腐れながらも微妙に笑みをこぼして「冗談よ」とだけ言って潤の肩を叩いて他の商品に目を向けている。
そうして小さな紙袋にそのペンダントを入れてもらって鞄にしまう。これで残る問題はいつ渡すかだ。可能なら今日、誕生日当日に渡したいのだが、ホテルでいつそんな場面を作れる。本当なら事前にプレゼントを用意しておいて一緒の班で行動する間にそれとなく渡すつもりだったが、もしそうなっていればこのペンダントを見つけられなかったので結果的にはこれで良かったのかもしれない。
「しょうがないな、日は跨ぐけど明日にでも――」
「なんか言った?」
「いや、なんでもない。ごめんちょっと電話鳴ってるみたいだ」
「出てもいいよ」
着信の画面を確認すると、真吾からだった。
「もしもし?」
『おぉ、潤、今どこにいる?』
「今?今か、ホテルにあったチラシの商店街にいるんだけど?駅は――」
『そこか、確か通ったな。なら近いか。 あのさ、ちょっと困ったことになってさ』
「困ったこと?」
『花音ちゃんがいなくなったんだ』
「はぁ!?」
突然わけのわからない話を聞かされた。横に居る響花はどうしたのかと疑問符を浮かべて潤を見ていた。
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