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想像以上の夏

029 期末試験対策

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夏休みを楽しく迎えるために取り組まなければいけないことがある。学生達は本分である勉学に励んでいた。

学校生活において、潤は体育祭実行委員をきかっけにしたとはいえ、花音といくらか距離が近付いたとは思っている。それは中学の時と状況は似ているのだが、決定的に違うのが今は同じクラスだということ。それも隣同士の席。
しかし、学校では花音と一緒にいることがあるにはあるのだが、真吾と凜と一緒にいることが基本なので、二人きりになるということなどまず状況的にあり得なかった。
休み時間に多少話すことがあるとはいえ、特に取り留めもない話ばかりで必要以上に親しくすることも叶わない。昼食も凜と花音は他の女子達と食べていて、真吾も学校で四六時中凜と一緒にいることなどはないので必然的に潤も他の男子と共に過ごしている。


そんな中、学校外で変化が訪れていることをありがたく思っていたのは雪の提案のおかげだった。


夏休み前の一大イベント、一学期の期末試験だ。

それぞれ学年一位の花音と瑠璃はもちろん問題ない。潤の成績も平均以上なのでそれも問題ないのだが、問題は真吾と凜だった。
心配していた杏奈は意外とある程度の点数は取れる見込みがあるのだという。

「ほんと花音ちゃんのおかげで助かるよ」
「確かにな。おかげで気兼ねなく遊びに行けるってもんだぜ」
「授業を普段から普通に聞いていたら基本できるだろ?」
「かーっ、これだから。それはできるやつの考えだっての」

真吾と凜は花音に勉強を教えてもらっていたのだった。潤も巻き添えを喰らって一緒に勉強するはめになっていたのだが、何故か集まっているのは潤の家のリビングである。

「勉強会を開く場所を提供しているもんに対して中々の言い草だな」
「しょうがねぇだろ、お前がこの中で一番位置的に真ん中なんだからな」
「すまんな光汰、なんか無理言ったみたいで」
「まぁ俺としては海水浴に行く前にこうして紹介してもらうと助かるぞ?」

リビングの机に椅子に座りながら肩肘を着いて全体を見ている光汰なのだが、凜と真吾とは面識がなかった。
杏奈が光汰を誘うように言うので声を掛けたのだが、全くの見ず知らずで海水浴当日に顔を合わせるのもどうかと思って来てもらっていたのだ。

海水浴に行くメンバーでこの場にいない雪だけなので、これで一通りの顔合わせを終えることになる。
リビングに杏奈と瑠璃の姿がないのは、学年が違う上に特に勉強をそれほど必要としていないからであった。

「いやいや、気にすんな。むしろ男子校に通ってる方からしたらこんなことでもない限り楽しいことなんて全然ないからな」
「そう言ってくれると助かるぜ。俺と潤だけじゃ男女比率変わるしな」
「共学でもややこしいのな」
「(光汰のこういうところって長所だよな)」

人見知りをしない光汰はすぐさま真吾と凜と意気投合しているのは性格によるものなのだろうと思う。
潤という共通の友人と共に親友と呼べるほど仲が良いのだから通じるものがある様子だった。

光汰を誘うのは杏奈の提案だったのだが、真吾は顔を合わす前から光汰が海水浴に同行することを承諾していた。潤の親友というだけでなく、花音の中学時代を知っている上に杏奈と瑠璃のことも知っているという点も考慮されているのだが、他にも問題がある。
変に潤と真吾の高校の同級生に声を掛けようものならそこかしこで参加席を獲得するための争奪戦が始まるだろうというのは女子の面々のレベルが異常に高いせいだった。

「(まぁ俺としても光汰なら安心できるしな)」

これだけの美少女が一同に会して海水浴に向かおうとするのだ。雪も含めて潤と真吾だけでは何かあった時の対応に些か不安があったことは否めなかった。

そもそも、杏奈がどういう経緯で海水浴の件を知ったのかということだが、花音が杏奈に教えていたのだった。それは潤の彼女である瑠璃に対して申し訳なさから来たので、それも杏奈に伝えている。


そんなこんなで潤の家で勉強会兼海水浴に向けての顔合わせが行われていたのが事の経緯に当たる。


「ほらほら、凜も余所見していないでちゃんと勉強しないと参加できなくなるわよ?」
「うぇ~ん!勉強嫌いだよー!」

机に突っ伏しながら項垂れている凜に対して花音は横に寄り添って勉強を教えている。潤は花音のサポートという形で真吾に少しばかり勉強を教えていた。

「(それにしても話には聞いていたけど、本当に距離を詰められたんだな)」

そんな潤と花音を視界に捉えて光汰は嬉しそうに見ていた。

「ってか、お前彼女放っておいて良かったのか?」
「は?おい潤、彼女ってどういうことだよ!?」

唐突に思い出したかのように声に出したのは、瑠璃のことなのは光汰以外の全員が知っていることだ。真吾は特に気にせず何気なく口にしたのだが、光汰は初耳で潤からは何も聞かされていない。
花音は潤の方を見ようとしないで窓の外に視線を向けていた。

「あー、いや、すまん光汰。ちょっと説明させてくれ。(もう落ち着いているし、そろそろみんなに言ってもいいかな?)あと、それにみんなもちょっと聞いてもらってもいいか?」

「「「「?」」」」

潤は改まるのだが、全員に対して何を言おうとするのかわからないのでその場の全員が同じように疑問符を浮かべた。



「―――っていうことなんだ」

学校内で瑠璃と付き合っているという風に装う必要があったことの説明を終えた。その場にいる一同はそれぞれ印象が違った様子だった。

真吾と凜は潤の彼女が偽物だったことに対して残念そうにしている。花音はどこか複雑そうな表情をしており、どうしてそんな顔をするのか潤には理解できなかった。光汰に至っては聞き始めた当初は不思議に思っていたのだが、徐々にニヤニヤして明らかに楽しんでいる様子だった。

そして―――。

「お兄ちゃん、そろそろ休憩しようよー」
「ちょっ、ちょっと杏奈ちゃん!まだダメかもしれないよ?」
「いいじゃん別に、ちょっとぐらい息抜きしたって」

そこに杏奈と瑠璃がリビングになだれ込んできたのだった。手には潤の部屋に置いてあったゲーム機をテレビから外して持って来ている。明らかにリビングで全員を巻き込んでゲームをしようとする意図が込められていた。

「あれ?どうしたのみんな?」

リビングのどこか微妙な空気を感じ取って首を傾げる。杏奈の後ろの瑠璃もリビングを覗き込んでは疑問符を浮かべた。

「あー、ごめん瑠璃ちゃん」
「えっ、何がですか?」
「潤にぃ、瑠璃ちゃんに謝るようなことしたの!?」

開口一番瑠璃に謝罪する潤に対して瑠璃と杏奈は別々な反応を示した。

「いや、俺が謝ってるのは、瑠璃ちゃんに確認を取らずに話しちゃったことだって。じゃないとこのメンバーで海に行くにしたって誤解があると話がややこしくなると思ってさ」

そうして瑠璃と杏奈にも瑠璃と付き合うということに見せかけた経緯を話したことを伝える。

「なんだ、そんなことか。まぁだいぶ噂も沈静化されたし瑠璃ちゃんに付きまとう男子も少なくなったし、そろそろ大丈夫かもしれないね」
「はい、おかげさまで先輩には助けられまして」

潤から説明を受けた杏奈と瑠璃も特段怒るということはなく、普通に受け止めたのだが、瑠璃は花音の方に少しだけ目線を送った。そこで花音と目が合ってしまったのでお互い目を逸らしてしまうのでお互いが逸らしたことに気付かない。
その瑠璃と花音のことを見ていた潤は「(あー、そういや瑠璃ちゃんと浜崎が話しているところ見たことほとんどないよな。杏奈は浜崎を慕ってるけど、瑠璃ちゃんはやっぱり気を遣うのかな?)」と、そんな風に見ていた。

「ねぇ?」

そこで花音が口を開いた。その場の視線は花音に集まる。

「実際には付き合っていませんでしたって噂が広まって、もし瑠璃ちゃんが困るようなら私達は別に噂をそのままにしていてもいいと思うんだけど?」
「えっ?」
「深沢君は困るの?」
「あー、いや、困ることは……(あるというか、ある意味今解消されたというべきか……)」

潤からすれば、花音の誤解が解けたなら目的のほとんどは達せられるのだが、その花音に瑠璃との噂をそのままにしておいてもいいのではないのかと提案されたのだ。それはそれでどこか複雑に思う。

「ないならいいじゃない?ね?」
「まぁ、今すぐに噂を解消しなくてもいいわな」
「じゃ、決まりね」
「ありがとうございます先輩。でも本当にいいんですか?」
「ん?ああ、大丈夫だよ、一応話ができたしね」

花音に押し切られる形で了承するのだが、瑠璃が本当に良いのかと確認するのは花音に関する話だということは聞かなくてもわかる。軽く頷いて返事をすると、瑠璃はどこかそれまで引っ掛かっていた何かが取れたかのように嬉しそうに表情を綻ばせたのだった。

期末試験は今回の勉強会のおかげで真吾も凜も問題なくクリアできたので問題はなく、そうして待ちに待った夏休みに入って行く。

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