可愛いあいつは男の娘

ケセラセラ

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井上翔の視点

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山崎は、俺が呼び止めたにも関わらず、一度も振り向きもしないで走り去ってしまった。

「なんだよ!あいつ!」
何が一目惚れだよ、無理矢理キスして、勝手に傷付いたた顔をして。
俺の方が被害者なのに、俺の方が悪いことをしたような気にさせて!

俺は、先程のキスの感触を思い出し、あいつの息遣いやギュッと抱きしめる力強い抱擁を思い出して、ウギャーと頭が大混乱していた。

それに、あいつを呼び止めて何と言いたかったのかも分かっていなかった。

絶対に許してやるもんか!
俺は強い決意を胸にする。

山崎大翔は、身長が高く、俺のコンプレックスを刺激するのであんまり近寄りたくはない相手だった。
だが、いつもクラスの中心にいて明るく、頭も良く、スポーツも万能で嫌味な程だ。
顔は、最近のイケメン俳優のナントカというヤツに似ていると、クラスの誰かが言ってるのを聞いたこともあり整っていて、出木杉君かよって!っていつも思ってた。
その山崎が俺に一目惚れ?
せっかくのイケメンが、男に一目惚れなんて、バカなヤツだって思う。

だけど、何でだ?俺は、嬉しいという気持ちが抑えられない。男との恋愛なんて興味がないはずなのに!


次の日、俺は一言文句言ってやろうと近づくと、奴は目も合わせずに避けた。
休み時間の度に、俺が行く前に一目散に教室を飛び出して行くのだ。

俺は頭に来たから、部活の帰りを、待つことにした。
玄関で待っていると、楽しそうな声がガヤガヤと聞こえ出し、俺はつい隠れてしまった。
見ると、山崎を中心に同じバスケ部の仲間と思われる奴らが数人いて、帰りにラーメン食べて帰るかと、山崎を誘っている。

山崎は、何と答えるのかと耳をすます。


「今日は、俺いいや。なんか腹減ってないからなぁ。帰るよ」
「なんか休みにあったのか?昼もあんまり食ってなかったし、今日のプレーも覇気がなかったぜ?」
「ただの寝不足だよ。今日は帰ったら早く寝れば平気さ。心配かけて悪いな」
「なんだ寝不足か。てっきり恋煩いかと思って心配しちゃったぜ」
「ゴホッゴホッ・・バカ。そんな出会いなんかあるわけないだろ。じゃ、俺一旦教室に荷物取りに戻って帰るからまたな!」
「おー!よく寝ろよー!」


山崎は、教室に戻っていった。
俺は、誰も居なくなったのを確認して、山崎の後を追い教室に向かった。



教室には、山崎1人が残って、あろうことか俺の席の前に立っている。
何をするでもなく、机に触れて悲しげに立ち尽くしていた。
「ーごめん。はぁ、俺はバカだ」
独り言で呟いた言葉は、昨日のことを言ってるのだろう。

本当にバカなヤツだ。

「山崎、俺の机に何か用か?」
俺は山崎に声をかけた。

山崎の肩が大きく揺れた。

「い、井上・・。昨日は悪かったな。すまん。忘れてくれ。俺も秘密は守るからさ。じゃ俺、帰るから」
山崎はら言いたいことを言うとサッと荷物を持って帰ろうとする。

「待てよ!なんで、避けるんだよ?」
「なんでって、やだろ?気持ち悪いよな俺。今後一切、関わらないようにするからさ」
山崎は、悲痛な顔をしながらも何もかも諦めているようだった。

なんだよ、簡単に諦めるくらいなら手を出すなよっ!

「もう俺のことは好きじゃないってことか?」
俺は何を言ってるんだ?
山崎も呆然としている。
「え、好きだよ。急に好きじゃなくなるなんて出来るわけないだろ。なんでそんな事を聞くんだ?」
「じゃあ、避けるなよ!なんで俺がお前を追いかけなければいけないんだよ?おかしいだろ!」
「俺がお前の側にいるの許してくれるのか?」
「許すも許さないも、なんかお前が避けると俺がおかしくなるんだよ。なんか、やなんだよ!!」

山崎がふと笑った。

「何笑ってるんだよ?おかしいのかよ!」
「いや、井上が可愛いなあって思ってさ」
「ば、バカ!なんだよ、男に向かって可愛いはないだろ」
「なあ、また抱きしめてもいいか?」
「やだよ」
「キスしてもいいか?」
「ば、バカ!ダメに決まってるだろ」
「翔って呼んでいいか?」
「っ!ん、いいよ」
俺の顔が真っ赤になったのが自分でも分かった。

「ごめん、やっぱ我慢できない」
堪え性のない山崎は、また急に近づくと俺をギュウと抱きしめた。
「お、おい!許してないぞ!」


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