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二章ー止まない街ー

49 ピンチ・オブ・ピンチ

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「……さんぞ…………許さんぞ勇者ァァァァァっ! せめて、せめて最後に、貴様らの大事な物を奪ってやるぅうあああああっ!!」

 奴が咆哮した瞬間、フーロちゃんの頭上に彼女の倍はある大きさの氷塊が現れる。
 そして瞬きと共に浮力を失ったそれは、スローモーションのように落下していき……。

「ふ、フーロちゃぁあああああんッ!」

 俺とユズリは絶叫しつつ駆ける。
 だが、どうやっても間に合いそうに無い。

 くそ、最後の最後でこんな事あるかよ!
 脳内で毒づくと、大きい影が少女に向かった。

「……っぶねぇええ!」

 フーロちゃんに衝突する直前、何者かが彼女を抱えて落下範囲から脱する。
 まさに窮地を救ってくれたその人は。

「……っ! バスターヴさん!」

 思わず俺が叫ぶと、いつの間にかすぐ隣に移動していたフウマが小さく呟く。

「あの人かなりの痛手を負ってたのに……」
「え、その情報いつ知ったの?」
「いや、ここに来る前かなり苦戦してたから、手伝ってたんだよ。まぁ、あの人かなりダメージを受けてたから、戦った後は僕独りでこっちに来たわけだけど」

 成程、と納得しようとしたところでむむ、と頭を傾ける。
 確かどの部屋も鍵がかけられており、無理やり出たり入ったりは出来ない仕様だと聞いていたのだが……それを無視できたのも、彼のもつスキルの効果なのだろうか。

「と、ところで、つかぬ事を聞くがその子は……?」

 ユフネさんは一通り安堵してから、フウマの事について聞いてくる。

「あぁ、俺の友達でもう一人の勇者ですよ。レジスタンスにスパイが居るのは察してたんで、彼にはここぞという時まで隠れているようお願いしてたんです」

 そんな俺の説明に、彼女は舌を巻いた。
 どうしたのだろうと真顔で見つめていると、明るいだみ声が向かってくる。

「よう! みんな無事みたいで良かったぜ。フウマっつったか? さっきは助けてくれてありがとな」

 フーロちゃんの肩を支えながら近づくバスターヴさんに、俺は軽く手を振りつつ微笑を浮かべた。
 続いて少女に目を移すと、彼女は何処か寂しそうな瞳をしている。

「フーロちゃん。もう大丈夫だから、皆にも話してごらん」

 彼女は恐る恐るこちらに顔を向けつつ、小さく頷いた。
 そして、この場の全員に実は情報をガンゾルドに流していた事を話し、謝罪と共に腰を折る。
 ユズリは複雑な面持ちで口元を手で覆い、レジスタンスの二人は沈鬱な表情を見せていた。

「……フーロ」

 ユフネさんが名を呼ぶと、彼女は身を強ばらせる。

「……帰ったら、セントにもちゃんと謝るんだぞ。それと、お礼もな」

 少女は悲しげな顔をしつつも僅かに笑みを浮かべ、うんと頷く。
 これで一先ずは、一件落着かな。

 …………そう、思っていた。


「……あれ、この部屋なんか寒くねぇか?」

 バスターヴの一言に、ユズリがローブをかき寄せつつ首肯する。

「確かに、さっきより寒いかも」

 俺とフウマ、そしてユフネさんがまさか、と最悪の想定をし、奴に視線を向けた。
 奴は床に伏してはいるものの、周囲に冷気を漂わせ、辺りに霜を現している。
 そして、ゆっくりと全体的に霜が降り始め、俺のブーツの先まで侵食してきた時。

 ーーガンゾルドの血走った目が、開かれた。

「なっ……!」

 思わずそんな声を上げてしまうが、その場の全員が凍りついた様に奴を見据えている。
 まさか第二形態があるとは、と考えたところで声を張り上げた。

「バスターヴさんはフーロちゃんを連れて後ろへ!」
「お、おう!」

 先ずはフーロちゃんの安全の確保をし、次にユフネさんにも下がってもらうとした瞬間。


「貴様だけは確実に殺す……!」


 前ではなく、俺のすぐ背後から、奴の冷めきった声が脳を穿いた。
 息が止まる間も無く、俺は背中を思い切り撃たれ大きく飛ばされる。

「う、おぁあああああああぁあぁあっ!」

 空中を舞い何も出来ずにいると、そのまま城の壁を砕いて外へ放り出された。

「……っ、タクマぁぁあああーッ!」

 ユズリの声が、切なく俺の元まで響いた。
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