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08 霧森、探索

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「『闇よ、我が刃となりて敵を斬り裂け。ラセツザン』!」

 闇属性攻撃スキル、ラセツザンをナデッドウッズに仕掛ける。
 動きの鈍いナデッドウッズは、俺の攻撃をモロにくらい、大きく後ろに仰け反った。

「ふッ!」

 その息を吐く音と共に、ナデッドウッズのライフバーは一メモリ残さず消え去り、その場に倒れた。
 倒れると、モンスターの背後でトドメを指したサクトの姿が見えた。

「ナイス、サクト。タイミング完璧だったな」

 俺はサクトに親指の立てた右手を差し出した。
 サクトは照れ臭そうに笑った。

「に、しても、倒したモンスター放置って、ちょっと気が引けるんだよなぁ」

 以前のゲームだった頃・・・・・・・のロスアスであれば、ライフを失ったナデッドウッズはすぐに光の粒子となって消滅したはずだが、ここはロスアスではなく、それに非常によく似た別の世界、異世界なのだ。
 異世界である現実のこの世界では、何かがいきなり光の粒子と化すことはあり得ないだろう。
 しかし、自分が奪った命を不適当に放置しておくのも、なんだか非道徳的に感じてしまうのは偽善なのだろうか。

「まぁ、でも、しょうがないよ。必要なものはストレージに勝手に入る仕組みだし、わざわざ持って帰ったりする必要もないし、どうせあと三分くらい経てば光の粒になって砕けちゃうよ」
「えっ、そうなの?」
「うん。モンスターや人だけじゃなく、物とかも耐久値が無くなれば消えちゃうよ」

 衝撃の事実だ。先ほどは現実で光の粒子なんかなるわけないと嘯いていた癖に、まさかその現象が有り得てしまうとは。
 ちょっとした赤恥をかきつつ、まだ見えぬ次の獲物に気を向ける。

「そういえば、サクトってなんでジョブ盗賊に選んだんだ? さっき、魔族は基本単独行動って言ってたから、盗賊ひとりだとモンスター倒すのキツくないかの思って」

 理由と共に問い掛けると、サクトは不思議そうな顔をした。

「盗賊単独って結構普通だと思うけど。確かに悪魔で盗賊ってめずらしいほうだけどさ。まぁ、モンスターと対峙したりするとキツかったりするけど、忍足スニーキングとか策敵サーチとかのスキルで出会う確率もかなり下げられるし、そこそこ安全な職業だよ」
「な、なるほど」

 俺は驚嘆と共に、自らの考えの幅の狭さに嘆息した。

「さ、そろそろ次いこ。日が暮れる前に終わらせちゃいたいし」
「あ、うん」

 頷いた俺は、サクトと共に霧深い森の更に奥へ進んだ。
 その後、俺達は無事、このクエストを完了させたのだった。







 魔界ギルドの隣に面する、とある酒場にて。

「よっしゃ、報告完了。クエストクリア! サクトのおかげでサクサクできたよ。ありがと」
「いや、アッシュもかなり強かったし、助かったのはボクの方だよ。ありがとね」

 俺達は二人がけのテーブルに陣取り、今回のクエストについて話し合っていた。
 恐縮するサクトをよそに、俺はクエストのリザルト画面を眺める。

「あれ、報酬の金額、ちょっと少なくないか? あと、なんか変なポイントがついてる……」
「あっ、一つずつ説明するね」

 サクトがそういうと、注文していた食事が黒い制服を来た男の人によって運ばれてきた。

「じゃあ、食べながら話そっか」

 俺は「そうだね」と相槌を打った。
 サクトの前には、黄色ソースのナポリタンのような麺類の料理が、俺の前には肉だの野菜だの雑穀米みたいなご飯だのが皿の上に盛り込まれた、ワンプレートの食事がある。

「まず報酬が少なかった理由だけど、それは一部が魔王軍に納金されたからなんだよ」

 サクトがフォークを手に取り、それで黄色ナポリタンをくるくると巻き付けながら教えてくれた。

「へぇ、そうなのか。ギルド入ったことないから知らなかったな」

 俺は木製フォークでぶつ切り肉を突き、口に運んだ。
 うん。うまい。ただ塩コショウをふって焼いただけなのだろうが、シンプルに旨かった。ちょっと味濃いめだけど。

「ギルド……? あ、そうだ。ポイントについても話さなきゃね。それは魔王軍が管理しているもので、ポイントが多い人は昇格戦に参加できる」

 ナポリタンを飲み込んだサクトの説明に頷きながら、俺は質問を重ねる。

「昇格戦?」
「昇格戦。ポイント上位五十名が参加出来て、全部の試練を合格すると中等兵に昇格できるんだ。立場が上がればそれなりの特典がもらえるよ」

 米と野菜を口に入れながら聞き、中のものを呑み込んでから再度質問する。

「特典って?」
「そうだなぁ、例えば強い武器が支給されたり、あとは飲食店の無料パスが貰えたりするよ」

 思っていたものと差異のある答えだったが、成る程ともう一度肉を頬張った。

「まぁ、とりあえずの目的は、ポイントを稼ぐことだね。それで上級兵を目指すって感じ」

 目的、か。
 今の俺の目的は、リゲルとワサラハとの再開、だけどな。
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