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夜は続く

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「たはー、疲れた。主にどっかの先生のせいで」
 遊園地から帰宅した俺は、雪崩れるように座った。
「いや、ホント危なかったねあの先生。観覧車の中だからってチューしなくて良かったよ」
「ははっ、確かにな」
 遊園地で先生と合う。
 そして庭理といちゃつく所をみられる。
 これくらいなら不幸の内に入らない。むしろある意味良い思い出だろう。
「あ、そうだ。ケーキ買っといたんだ。早速食おうぜ」
「うん」
 庭理は基本、俺が厨房に入ることを禁止しているので、庭理自身が冷蔵庫のケーキを取り出す。
 俺はその間に二人分のフォークを食器棚から用意する。
「そういや、クリスマスでケーキ食うのなんて、俺達がここに住み始めてから一回も無くね?」
「いや、去年食べなかったってだけでしょ」
 そんなどうでもいい会話をしながら、ケーキの準備を進める。
「よし、じゃあ食べよ、海斗」
「おう」
「「いただきます」」
 俺達に一つずつ置かれているケーキは、真っ白なクリームに苺が乗せられた、ごく普通のショートケーキだった。
 俺はそれを一救いし、口に運ぶ。
「甘っ」
 甘いのが苦手な訳ではない。
 只、最近甘いものを口にしていなかったので、驚いてしまった。
「おいしー」
 庭理は頬を緩ませながらそう言う。
「そういやさ、庭理、なんでいつも男装してんの?」
 そう聞くと、何故か庭理は怒った顔をし、頬を膨らませた。
「聞くのおっそい!」
 庭理はフォークを俺に向けた。
 俺は思わず手をあげ、降参しているみたいなポーズをとる。
「あ、いや、話す気になったら庭理から話してくれるかなって思ってて」
「むう」
 腑に落ちないようだったが、納得はしてくれたようだ。
「ん、せっかくのクリスマスなのに、ちょっと暗い話になるよ」
 庭理は悲しそうに顔を伏せた。
「ボクの家、すっごく貧乏なんだ」
「おい、まて、嘘つけ。じゃあなんでゲームなんて持ってる」
 庭理がちょくちょくやっている携帯ゲーム。
 俺が前に借りたら、全く敵を倒せなくて二度とゲームはしないと心に決めたのは記憶に新しいが。
 まぁ、それはさておき、とにかくゲームはすっごく高い筈だ。値段的に。
 真の貧乏人の俺から言わせれば、ゲームが買える時点で十分金持ちだ。
「あぁ、それは、兄ちゃんの形見だよ。それだけじゃなくて、制服とか教科書とか、全部兄ちゃんのお下がりなんだ」
「うん?」
 俺が首をかしげると、庭理はそっかと何かに気づいた。
「あ、ごめん。もっと最初から話すね。えっと、実はボクの家、元々はすごいお金持ちだったんだ」
「えっ」
「それで、ボクの父さんが社長やってたんだけど、他の会社に潰されちゃったみたいで、ついでに借金とかもあって、一気に貧乏になっちゃったんだ」
 どんどん庭理の顔が暗くなってきているのがわかる。が、今は聞くことに徹した。
「それで、ボクが中学に上がるとき、制服買うお金もなくて、兄ちゃんの借りてたんだ。兄ちゃんは遠くの学校に通ってたから、小学校の時の友達と会うこともないから、都合よくて。それで、高校に上がるとき、ボクもバイトできる年になったから、家族のために頑張ろうと思ったんだけど、海斗が独り暮らしするって聞いて、安いバイト代をあげるより、いなくなった方が生活も楽かなっておもって、海斗と一緒に住めば、なんとか生活できるし......」
 そこで庭理は静かになった。
 終わったのだろうか。
「そうか、庭理も大変だったんだな」
 すると、庭理からぽたりと滴が垂れた。
「ごめん......」
「ん?どうした庭理、急に謝って」
「ごめん、ボク、海斗を利用した......っ」
 そうか、庭理は、俺が独り暮らしするのに漬け込んで、迷惑かけたとか思ってるのだろう。
「謝ることなんかないよ。俺は庭理と暮らせて楽しいし、それで納得出来ないなら、あー、ほら、俺も庭理がいてくれると生活が楽なんだよ。金的なこともそうだし、旨い飯も作ってくれるしさ」
 それでも、庭理は泣き止まない。
 俺はそんな庭理を抱擁した。
 頭を何回か撫でてやる内に、段々と庭理は落ち着きを取り戻した。
「ありがと、海斗」
「こちらこそ。いつもありがとうな。庭理」
 庭理はやっと顔をあげてくれた。
「庭理」
 俺が庭理の名を呼ぶ。
「何?海斗」
 気づけば、何かが吹っ切れたように、俺の身体は動いていた。
「うっ、きゃっ」

 俺は、やや強引に庭理を押し倒した。
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