残念女の異世界紀行

LEKSA

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CHAPTER Ⅰ

10 罪作りな男

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「…はぁ~~…お兄さんがイケメンやなかったらウザなって逃げてたとこですよ?」

 これ見よがしな大きい溜息を吐いて、少し口調を崩して文句を言った。

 しかしかなり失礼な本音を言ったのにも関わらず、偉丈夫は片眉をクイッと上げて面白そうにわたしを見ると、笑みを深めた。

「なら、俺の顔が役に立ってなによりだ。で、どうする?持って行くか、留まるか。」
「…ほんまタチ悪いですよ。……ご厚意に甘えて、持って行かせてもらいます。」

 かなり不本意だが仕方ない。偉丈夫の仕事の評価が下がるよりずっと良いだろう。
 彼は喉の奥で低く笑ったあと、おもむろに片手を差し出してきた。

「“女神様”とは何かと縁がありそうだ。俺の名は、アジャニオ=カイヴァーユ。もし困ったことがあれば、ギルドで俺の名前を出せばいい。」

 気前のいい男だ。もしわたしが稀代の悪女だったらどうするつもりだ。
 稀代の悪女よりかはマシかもしれないだけで、わたしは決して“良い女”ではないのだから。

 お人好しな偉丈夫に少し呆れながらも、わたしは彼の手に自分のそれを重ねて軽く握った。

圓生えんじょう みおと言います。…ここでの名乗り方が名前からなら、ミオ=エンジョウですね。」
「『ミオ』と言うのか。何だか涼やかな感じがする…良い名前だな。」
「…ありがとうございます。」

 これは…何という的を射た褒め言葉か…!
 やはりこの男、侮れない。良い男はインスピレーション力まで常人とは違うということか!!

「君とはまたゆっくり話してみたいものだが……約束はしてくれないだろう?」

 苦笑しながらも茶目っ気たっぷりに聞いてくる男前に、一体どれくらいの女性が陥落してきたのだろうか?
 しかしわたしにその手口(笑)は通用しませんぜ、お兄さん。

「この短時間でよくお分りで…。縁があれば、そう遠くないうちにお会いできるでしょう。その時には、こんな生意気な女でよろしければ、お付き合いしますよ。」

 握手している手をどちらともなくするっと外して、お互いが半歩後ろに下がった。
 お別れの合図だ。

「直ぐに会えることを楽しみにしているよ。…あ、その魔道具は返さなくていい。君が持っていてくれ。」
「……はぁ…わたしは善い女やないんですよ…?」
「それは人によって見方が違うだろう。少なくとも俺から見たら、君は好い女だ。」

 調子の良い言葉に苦笑しつつやれやれと首を降り、一礼して偉丈夫―改め、アジャニオに背を向けた。
 異世界で初めて会った人はなかなかインパクトのある男だった。
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