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第一章
お給金の使い道
しおりを挟む「どうかしたか?」
様子の変わったエルシアを気遣い、クロードは声をかけるが。
「殿下、そろそろ会議のお時間です。早く行かないとエルシア嬢からとは言え、毒味なしで食べたことを陛下に報告しますよ?」
ポイッ
ケインに脅され、渋々クロードは自室から追い出されることとなった。
「エルシア嬢、門までお送りしましょう」
「ええ。お願い致しますわ」
残ったエルシアもケインに伴なわれて廊下に出る。
(……気まずいわ。廊下ってこんなに長かったかしら)
ケインが何も話さないので、エルシアから話題を繰り広げるが、それももう限界だ。
ーー天気の話はさっきしてしまったし。どうしようかしら。
そんな気配を感じ取ったのか、彼はようやく重い口を開いた。
「……もうすぐ偽装婚約の初めての給料日ですが。何に使われますか?」
ぶっ込んだ会話に思わずエルシアは周りを見渡すが、誰もいない。
恐らくケインが人気のない廊下を帰り道に先導してきていたのだろう。
「え、ええ。伯爵領の小麦の開発に弟が力を入れていて。そこに投資しようかと……」
(でも、偽装婚約を知らないカインにはお金の出処を何て説明したら……)
エルシアはここ最近の悩みを再び思い出し、顔を曇らせた。
「やはり、そうでしたか」
はぁ~~。
ケインは深い溜め息を付く。
気の利く彼は、エルシアの悩みを察していたのだった。
伯爵家が貧乏になった要因の一つには国策が絡んでいた。
先々代辺りから。
隣り合うサンマリア国より、格安の小麦が輸入されて来るようになったのだ。
味は少し劣るが、輸入税をつけても国内産より遥かに安い。
国民の、特に中流家庭以下は、コレに飛びついた。
そうなると困るのは国内で小麦を生産している領主だ。
生産量が落ちることを危惧した、先々代の国王陛下は一定量を貴族の生産量に応じて国が買い受けることとする。
ーーだが、これで一件落着とはいかなかった。
「ご存知かもしれませんが、伯爵領の持ち分をお祖父様が公爵家に売ってしまったんですの」
エルシアは目を伏せる。
今でこそ禁止されている持ち分の売買。
官僚のケインからしたら顔を顰める話だろう。
だが、当時は合法だった。
時を同じくして、大流行した流行り病。
領民を救う高額の薬を買うため、エルシアの祖父は小麦の持ち分を売却することで凌いだのだった。
(誰が何を言っても。お祖父様は間違ってない)
そう強く思うものの、伯爵家の税収の大半は小麦だ。
どうやっても日々苦しくなる生活に体裁を保つのもそろそろ限界が来ている。
「……カイン殿はどのような研究を?」
頭ごなしに、祖父のしたことを貶さないケインは良い人だとエルシアは思う。
「主には小麦の改良と、サンマリア産の遺伝子の研究も」
「……分かりました。では、これからお給金は婚家の品質保持を名目として伯爵家にお支払いしましょう」
使い道はご自由に、とケインは付け加える。
「! ありがとうございます、ケインさん」
「いえいえ。殿下は、こういう機微には疎いので。ご容赦下さいね?」
わざと茶目っ気たっぷりに言うケインに、エルシアは感謝の気持ちを込めて、大きく頭を下げたのだった。
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