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第72話 VSジルーガ
しおりを挟むジルーガについていき、高台から離れた人影のない場所にやってきた。
ここならば他のオーガの目を気にすることなく、思う存分戦うことができるだろう。
「この辺りでいいな。ここならお前を思う存分痛めつけることができるぞ」
「それはこっちのセリフだ。仲間のオーガに助けてもらえない状況だが大丈夫なのか?」
「ゴブリンごときを相手に手助けなんている訳がないだろ。劣等種族が調子に乗るなよ?」
「ゴブリンもオーガもそう大差ないのに、よくそこまで威張れるものだな」
軽い舌戦から、最初に剣を引き抜いたのはジルーガ。
細身のレイピアのような剣であり、体格に対して異様に長いジルーガの腕とは相性の良い武器。
間合いに入った瞬間に、一発で致命傷を負う可能性が高い。
まずは動きを見て、ジルーガの攻撃の型を捕えるところから始める。
「それじゃ行くぞ。あれだけ啖呵を切ったんだ。一発でやられるのだけはやめてくれよ?」
半身の状態でゆっくりと近づいてくると、長い腕を鞭のようにしならせながら攻撃してきたジルーガ。
俺の間合いの外からの攻撃であり、重心も後ろに置いていることから、カウンターを絶対に食らわない戦い方ということだろう。
実際に体格もジルーガの方が上で、ウイングスパン(両腕を伸ばした時の長さ)は俺の二倍以上。
更に重心を後ろに残していることから、ジルーガの攻撃を掻い潜ってから攻撃を仕掛けても、簡単に逃げられてしまう。
やはり戦い方が魔物のソレではなく、人間に近いいやらしい戦い方をしてくる。
四方八方から飛んでくるレイピアを防ぎながら、ジルーガの攻略法を思考する。
「おい! さっきまでの威勢はどうした? このままじゃ一方的にやられるだけだぞ?」
安い挑発には乗らず、こっちのペースに持っていくことを考える。
この位置からの攻撃で有効なのは、やはり【毒針】だろう。
確実にぶち当たるために――まずは【土撃】で意識を下に向かせる。
俺は少し距離を取りながら、わざと隙を作って突きを誘う。
あまりにもわざとらしい隙ではあるのだが、俺をゴブリンと舐めているジルーガは罠ということを一切疑わずに、俺の脇腹を狙って突きを放ってきた。
いくら遠い距離からの攻撃だろうが、攻撃するタイミングさえ分かっていれば対処は楽。
一歩踏み込み、突きを放ったタイミングで、俺は思い切り地面を踏み込んだ。
その瞬間、ジルーガの足元から尖った岩が飛び出し、太腿辺りを深々と裂く。
意識外からの攻撃に困惑しているところを狙い、俺は【毒針】を放ったのだが――この【毒針】は冷静に見極められ、レイピアで叩き落としてきた。
必中のタイミングだと思っていたが、流石にそう甘くはなかったか。
「今のが当たっていたらゲームセットだったんだがな」
「……ただのゴブリンって訳ではなさそうだな。オーガに攻撃を仕掛けてきただけの能力は持っているみたいだ。――なら、ここでお遊びは終わり。残したボスも心配なので本気で殺させてもらう。【魔力開放】【魔力闘気】【鬼の憤怒】【従う者】」
ブツブツと呟きながら、能力を発動させていったジルーガ。
やはり最初に見ていた時から思っていた通り、オーガの中で一番の実力者はジルーガ。
渦巻く魔力はレイピアにも巻き付き始め、大剣のような形に変化した。
完全に危険な臭いしかしていないが……さっきまでの攻撃スタイルよりかは、大剣による力技で来られた方がまだマシ。
「さて、準備完了。十秒で仕留めてやる」
ジルーガはボソリとそう呟くと、纏っている魔力に押される形で加速しながら突っ込んできた。
この魔力を纏った状態が非常に格好良く、敵ながら思わず見惚れてしまう。
あっという間に間合いに踏み込み、魔力の大剣を振り上げたタイミングで――俺も能力を発動させる。
【快脚】【身体強化】【跳躍力強化】。
魔力の大剣での一撃を受け止めることはせず、ひたすらに避けていく。
俺の中のイメージはニコであり、大雑把な攻撃を翻弄しつつ飛び回りながら攻撃を躱す。
「どうした? もう十秒は軽く経ったぞ」
「ブンブンと逃げ回るな卑怯者。反撃の手がないのだから、大人しく私に殺されろ!!」
纏っていた魔力をレイピアに全て注ぎ込んだようで、今度は長い鞭のような形状に変化した。
逃げる俺を捕えるための形状変化だろうが、体に纏っていた魔力が消えた今、俺にとっての攻撃チャンスが回ってきた。
魔力の鞭をしならせ、俺に向かって振ってきたタイミングで――【四足歩行】【突進】のスキルを発動。
鞭を掻い潜りながら懐に飛び込んでいき、まずは鋼の剣をぶん投げる。
これはジルーガなら攻撃よりも回避を優先させると思っての行動であり……。
予想していた通り、高速で飛んできた鋼の剣を避けるために、【魔力開放】と【魔力闘気】の能力を解除し、回避行動を取ってきた。
異常なまでの慎重な性格。
その性格を読み切った俺が、今度こそジルーガを捉えた。
回避する方向を完璧に読み、これまでの鬱憤を込めた一撃を土手っ腹にぶち込む。
俺の拳は完璧にクリーンヒットし、ジルーガは地面に叩きつけられながら吹っ飛んでいった。
まだ息はあるようで、呻き声を漏らしながら苦しんでいるのが分かる。
鋼の剣があれば今ので終わっていたのだが、もう一発叩き込めるならありだろう。
「十秒で片付けるどころかやられてしまったな」
「……う、ぐ、ぐそがアアアア! 絶対にごろしでやる!!」
腹を押さえながら呻き声を上げ、俺を睨むように見上げているジルーガ。
俺はそんなジルーガの顔面を握り、【硬化】【鎧化】【高温耐性】のスキルを発動させてから――【自爆】のスキルを発動。
「うぐァあああアアアアアア!!!」
一切の手加減なしの威力で放ったため、一瞬にして焼け焦げた臭いが俺の鼻まで届いてくる。
けたたましい叫び声を上げてから一切動かなくなったのだが、念のため追加で二発【自爆】させ、完全に動かなくなったのを確認し、俺は広場に残しているみんなの下へと急いで戻ったのだった。
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