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第61話 賛同
しおりを挟むホブゴブリンの方は完全に意識を失っており、ゴブリン希少種の方は何やら落ち込んでいるように見える。
すぐに起きそうになさそうだし、まずはゴブリン希少種の方から話しかけに行くとしよう。
「体の方は大丈夫か?」
「ええ。手加減してくれたみたいで、衝撃は強かったですが痛みはほとんどありませんでした」
「それは良かった。それで……実際に手合わせしてみての感想を教えてくれると助かる」
「正直驚きましたね。魔法を使えるゴブリンは私しかいないと高を括ってましたので。それに単純な戦闘能力が桁違いでした」
「ふっ、バエルは全てにおいて優秀だからな」
俺が褒められるよりも、バエルが褒められることの方が嬉しく思えてしまう。
誰も信じないと誓っているのに、なんというか非常に変な感情。
「オーガに関しての意見は変わらないままか? 補足として言っておくと、ゴブリン希少種が先ほど相手したバエルよりも俺の方が強いぞ」
「そのことは分かっています。完全に従えていますもんね。それに……ホブゴブリンさんと戦ったあのゴブリン」
そう小さく呟くと、ゴブリン希少種はニコのことを見た。
俺とゴブリン希少種に見られていることなんて知らないニコは、慌てながらホブゴブリンを起こそうと思考錯誤している。
こうして傍から見ると、広場にたくさんいた通常種ゴブリンとの違いが分からない。
色が黒いだけの俺も大概ではあるが、ニコはかなり特殊だと俺は思っている。
「どこにでもいる普通のゴブリンにしか見えないんですが、あの強さは一体何なんですか? 動きが一切見えませんでした」
「ニコに関しては俺もよく分かっていない。他の魔物を倒して捕食したからっていうのもあるが、本当に急激に強くなったからな」
戦闘の才能があったが、ゴブリンという存在が弱すぎて活かせていなかったと考えるのが妥当だとは思う。
通常種の状態でこの強さだし、進化した時のことを考えると俺でも少し恐ろしい。
……ただ、ニコは今の状態を気に入っている節もあるんだよな。
元々一匹だけ進化できずにふてくされていたが、今では通常種のままであることにプライドを持っている感じがある。
「急激に強く……。私もシルヴァさんと一緒にいたら強くなれますか?」
「もちろん。というか、強くなってもらわないと困る」
「……分かりました。私はオーガへの下克上に賛同致します。実際に戦って勝算はあると思えましたし、シルヴァさんの言う通り奴隷のような扱いで一生終わるのは嫌ですので」
「そう言ってくれて良かった。今後はサブリーダーとして支えてくれると助かる」
「こちらこそよろしくお願い致します」
よし。ゴブリン希少種はオーガへの下剋上に賛同してくれた上で、サブリーダーとして動いてくれることを約束してくれた。
名前は後でまとめて決めるとして、次は気絶しているホブゴブリンだな。
「ニコ、少し下がっててくれ。バエル頼む」
あたふたしていたニコを下がらせ、バエルに水魔法で顔面に水をぶっかけてもらった。
息はしていたようで、ゴボゴボと水の音が鳴り――。
「——ぶはっ!! ……ん? 私は確か……そうだ。通常種ゴブリンに完璧に……」
「うが!」
ホブゴブリンがそう呟いた瞬間、ニコが親指を立てて返事をした。
そんなニコの満面のサムズアップにイラッときたのか、ホブゴブリンの口角がピクッと動いた。
付き合いが長いから悪意がないことは分かるんだが、ニコの所作は所々煽られていると感じるんだよな。
代名詞である小躍りにしてもそうだし、笑顔もドヤ顔に近い感じで非常に下手くそ。
「言い訳もできないくらいに完敗していたぞ。それもただの通常種ゴブリンにな」
「記憶が戻りましたので、完全に思い出しました。……何なんですか? あのゴブリンは。絶対にただの通常種ゴブリンではないことは分かります」
「ゴブリン希少種にも話したが、俺もニコに関してはよく分かってない。ただ、元々は本当に弱いゴブリンだったぞ」
「そうなんですか? そうなると……シルヴァさん、あなたが関係してきそうですね」
「ああ。確実に関係はしているな」
「名前を自ら名乗る大馬鹿だと思っていましたが、馬鹿と天才は紙一重と言います。もしかしたら貴方は大のつく天才なのかもしれません。……分かりました。私も乗りましょう。オーガへの下剋上に」
「そうか。乗ってくれると言ってくれて良かった。既にゴブリン希少種もゴブリンソルジャーも話に乗ってくれると言ってくれた。ここからはオーガへの下剋上に向けて強くなってもらうだけだな」
「任せてください。やると決めたからには全力でやらせて頂きますよ」
戦闘前までは断固として反対していたとは思えないほど、乗り気になってくれたホブゴブリン。
とりあえず、これでようやくスタートラインに立てたってところだろう。
何と言うか……俺もワクワクしてきたな。
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