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第24話 テスト
しおりを挟む巣を後にし、バエルと軽く会話をしながら洞窟を目指す。
先ほどしっかりと会話できたことからも分かる通り、言葉を発せられるようになっただけではなく、既にしっかりと意思疎通ができている。
生まれたばかりの頃からずっと話しかけていたのが大きかったようで、ある程度の単語は頭の中にあったらしい。
後は言葉を発するだけって段階でやきもきしていた中、急にコツを掴んだとバエルは言っていた。
俺は元人間だったから違いが分かるが、魔物は徐々に成長するっていうよりも経験値が一定のラインを越えた時に急な成長をみせる。
恐らくバエルもそんな感じで言語を覚えることができたのだろう。
人間を食べない限りは言葉を扱うことができないと思っていただけに、言葉を習得してくれたのは本当にありがたい。
イチ、ニコ、サブの三匹に至っては言葉を扱える気配がないため、あの三匹は多分人間を食べて進化しない限り、言葉を扱うことはできない。
バエルと話せるようになって会話の重要性が再確認できたし、以前立てた目標は一切変えずにまずは人間の討伐を目指す。
歩きながらそんなことを考えていると――前方からコボルトの足音が聞こえてきた。
「バエル、止まれ。この先にコボルトがいる」
「コボルトってマモノですよネ? タタカウのですか?」
「ああ。バエルはこの位置で待機していて大丈夫だ。もし戦えそうなら、渡したパチンコでコボルトを狙ってくれ」
「ワ、ワカリましタ。キをツケてください!」
心配そうに見ているバエルを置いて、俺はコボルトの足音が聞こえた方向にゆっくりと近づく。
コボルトは既に何度も戦っているため、足音を聞き分けられるようになった。
さっきの足音は間違いなくコボルトであり――感知した通り、コボルトが草木を掻き分けて飛び出てきた。
向こうはまだこちらに気づいていなかったようで、急に目の前に現れた俺に驚いた様子を見せた。
ただ相手が小柄なゴブリンだと分かるや否や、いつものように口を開けると、考えなしに襲い掛かってきた。
これまで出会ってきたコボルトは全て同一個体なのではと思うほど、本当に同じ行動しか取ってこないため、もう倒し方が俺の中で確立している。
噛みつきに合わせて喉ぼとけを短剣で斬り裂き、倒れたところを心臓に一突き。
このパターンでコボルトは瞬殺できるのだが……今回はバエルが戦えるかどうかを見極めるのが目的。
コボルトの遅い上に隙だらけの噛みつき攻撃をわざと短剣で受け止め、馬乗りの状態にさせる。
上に乗られながらも足の裏をコボルトの腹に当てているため、本当に危険だと思ったら簡単に投げ飛ばすことができる状態。
ただバエルの視点ではそんなことが分からないだろうし、俺がコボルトに食い殺されそうに見えているはず。
バエルには攻撃しなくていいと言い残しておきながら、こうやって試すような真似をして悪いが、俺の命もかかっているからな。
バエルを信じていない訳ではなく、本能が拒否したらどうしようもない部分がある。
ここでコボルトを攻撃できなければ、バエルは置いていかないといけない。
そう決め、しばらくもつれ合ったまま様子を見ようと思っていたその瞬間――。
後方から石が飛んできて、そのままコボルトの頭部に命中。
俺は力が抜けたコボルトを足蹴にして立ち上がり、体勢を整えてからトドメを刺した。
石が飛んできた方向を見てみると、もちろんのことバエルがパチンコを構えていた。
この目で見た訳ではないが、この状況から考えるにバエルが打ちこんだので間違いないだろう。
それに速度といい威力といい精度といい……攻撃してはいけないという本能に邪魔されたようには一切思えない。
もしかしたらだが、コボルトよりもバエルの方が魔物としての格が上という可能性も出てきた。
「バエル、サポート助かった。ただ、よく打ち込むことができたな。コボルトに石をぶつけることに抵抗とかはなかったか?」
「ゼンゼンなかっタです! シるヴァさんとヤクソクしましたから!」
両拳を強く握りながら、笑顔でそう言ってきた。
一切の抵抗もなかったということは、やっぱりコボルトよりもバエルの方が格上と認識されていそうだな。
ただそうなると……俺はコボルトに襲われている訳で、俺がバエルよりも格下ということになってしまう。
それはありえないし、一応リーダーとしては避けたいところだが、体は一回り小さいからそう判断されていてもおかしくない。
とりあえず、スイートアピスでも試してみなくては分からないな。
洞窟に向かう前にスイートアピスとも戦うことを決め、俺は巣がある方向に歩き出した。
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