上 下
23 / 77

第24話 テスト

しおりを挟む

 巣を後にし、バエルと軽く会話をしながら洞窟を目指す。
 先ほどしっかりと会話できたことからも分かる通り、言葉を発せられるようになっただけではなく、既にしっかりと意思疎通ができている。

 生まれたばかりの頃からずっと話しかけていたのが大きかったようで、ある程度の単語は頭の中にあったらしい。
 後は言葉を発するだけって段階でやきもきしていた中、急にコツを掴んだとバエルは言っていた。

 俺は元人間だったから違いが分かるが、魔物は徐々に成長するっていうよりも経験値が一定のラインを越えた時に急な成長をみせる。
 恐らくバエルもそんな感じで言語を覚えることができたのだろう。

 人間を食べない限りは言葉を扱うことができないと思っていただけに、言葉を習得してくれたのは本当にありがたい。
 イチ、ニコ、サブの三匹に至っては言葉を扱える気配がないため、あの三匹は多分人間を食べて進化しない限り、言葉を扱うことはできない。

 バエルと話せるようになって会話の重要性が再確認できたし、以前立てた目標は一切変えずにまずは人間の討伐を目指す。
 歩きながらそんなことを考えていると――前方からコボルトの足音が聞こえてきた。

「バエル、止まれ。この先にコボルトがいる」
「コボルトってマモノですよネ? タタカウのですか?」
「ああ。バエルはこの位置で待機していて大丈夫だ。もし戦えそうなら、渡したパチンコでコボルトを狙ってくれ」
「ワ、ワカリましタ。キをツケてください!」

 心配そうに見ているバエルを置いて、俺はコボルトの足音が聞こえた方向にゆっくりと近づく。
 コボルトは既に何度も戦っているため、足音を聞き分けられるようになった。

 さっきの足音は間違いなくコボルトであり――感知した通り、コボルトが草木を掻き分けて飛び出てきた。
 向こうはまだこちらに気づいていなかったようで、急に目の前に現れた俺に驚いた様子を見せた。

 ただ相手が小柄なゴブリンだと分かるや否や、いつものように口を開けると、考えなしに襲い掛かってきた。
 これまで出会ってきたコボルトは全て同一個体なのではと思うほど、本当に同じ行動しか取ってこないため、もう倒し方が俺の中で確立している。

 噛みつきに合わせて喉ぼとけを短剣で斬り裂き、倒れたところを心臓に一突き。
 このパターンでコボルトは瞬殺できるのだが……今回はバエルが戦えるかどうかを見極めるのが目的。

 コボルトの遅い上に隙だらけの噛みつき攻撃をわざと短剣で受け止め、馬乗りの状態にさせる。
 上に乗られながらも足の裏をコボルトの腹に当てているため、本当に危険だと思ったら簡単に投げ飛ばすことができる状態。

 ただバエルの視点ではそんなことが分からないだろうし、俺がコボルトに食い殺されそうに見えているはず。
 バエルには攻撃しなくていいと言い残しておきながら、こうやって試すような真似をして悪いが、俺の命もかかっているからな。

 バエルを信じていない訳ではなく、本能が拒否したらどうしようもない部分がある。
 ここでコボルトを攻撃できなければ、バエルは置いていかないといけない。

 そう決め、しばらくもつれ合ったまま様子を見ようと思っていたその瞬間――。
 後方から石が飛んできて、そのままコボルトの頭部に命中。

 俺は力が抜けたコボルトを足蹴にして立ち上がり、体勢を整えてからトドメを刺した。
 石が飛んできた方向を見てみると、もちろんのことバエルがパチンコを構えていた。

 この目で見た訳ではないが、この状況から考えるにバエルが打ちこんだので間違いないだろう。
 それに速度といい威力といい精度といい……攻撃してはいけないという本能に邪魔されたようには一切思えない。
 もしかしたらだが、コボルトよりもバエルの方が魔物としての格が上という可能性も出てきた。

「バエル、サポート助かった。ただ、よく打ち込むことができたな。コボルトに石をぶつけることに抵抗とかはなかったか?」
「ゼンゼンなかっタです! シるヴァさんとヤクソクしましたから!」

 両拳を強く握りながら、笑顔でそう言ってきた。
 一切の抵抗もなかったということは、やっぱりコボルトよりもバエルの方が格上と認識されていそうだな。

 ただそうなると……俺はコボルトに襲われている訳で、俺がバエルよりも格下ということになってしまう。
 それはありえないし、一応リーダーとしては避けたいところだが、体は一回り小さいからそう判断されていてもおかしくない。

 とりあえず、スイートアピスでも試してみなくては分からないな。
 洞窟に向かう前にスイートアピスとも戦うことを決め、俺は巣がある方向に歩き出した。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ

真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします! 感想待ってます! まずは一読だけでも!! ───────  なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。    しかし、そんなオレの平凡もここまで。  ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。  そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。  使えるものは全て使う。  こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。  そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。  そしていつの日か、彼は……。  カクヨムにも連載中  小説家になろうにも連載中

アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。 ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。 基本ゆったり進行で話が進みます。 四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ゴブリンロード

水鳥天
ファンタジー
ファンタジー異世界のとある国に転生しユウトは目覚める。その国ではゴブリンを見くびりはびこらせながらも反撃し、ついに種としてのゴブリンを追い詰めていた。 そんな世界でユウトは戦闘中に目覚めると人に加勢しゴブリンを倒す。しかし共闘した人物の剣先は次にユウトへ向けられた。剣の主はユウトへ尋ねる。「オマエは〝ゴブリン〟か?」と。ユウトはゴブリンへと転生していた。 絶体絶命から始まるゴブリン人生。魔力あふれるファンタジー異世界でユウトはもがき、足掻き、生き延びることをあきらめない。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...