19 / 77
第20話 パラサイトフライ
しおりを挟む遠くからでも目立つくらいの大きな樹に背中をつけ、ここで初めてパラサイトフライと正面から向き合う。
かなりの距離を走ってきたのだが、俺を追ってきたパラサイトフライは七匹もいる。
道中で撒いて、もう少し数を減らしたかったが……ブラッドセンチピードを撒くことの方が優先事項だったため仕方がない。
ここからは大きな樹に背中をつけることで囲まれないようにし、パラサイトフライを倒すことに注力する。
息もかなり上がって疲労はあるが、俺を追ってきたパラサイトフライも同様なはずだ。
手製のホルダーから、折れた剣を作り替えた短剣を取り出し構える。
何も考えずに一直線に飛行してきているパラサイトフライの動きを見切り、羽を傷つけるように胴体目掛けて斬りつけた。
動きが速く、クリーンヒットはしなかったものの、羽を狙っただけあって右の羽を傷つけることに成功。
バランスを崩してふらついたところを見逃さず、地面に叩きつけるように殴りつけた。
叩き落としたパラサイトフライは思い切り蹴って遠くに飛ばしてから、すぐに次のパラサイトフライに備える。
背後への退路は断っているが、そのお陰で後ろからの攻撃を受けることがないメリットは非常に大きい。
羽の性質上なのか知らないが、緩急や急旋回なども行えないようで、基本的に直進して噛みつくだけの行動しか取ってこない。
単純な魔物との戦闘は冒険者時代に死ぬほどこなしているため、俺は苦戦を強いられることなく、追加で三匹のパラサイトフライを倒すことに成功。
このまま残りのパラサイトフライも倒そうと意気込んでいたのだが、半数以上の仲間がやられた途端に逃げ出してしまった。
ここまで追いかけられた訳だし追っても良かったが、空高くに逃げられたら捕まえられないし、既に四匹のパラサイトフライを倒すことができている。
これ以上倒したところで食べることは不可能なため、逃げていくパラサイトフライの背中を黙って見送った。
完全に消え去ったところで、ようやく大きく息を吐いて力を抜くことができた。
危険を承知で洞窟に入ったとはいえ、まさかブラッドセンチピードが出てくるとは思っていなかった。
ただ怪我無く逃げることができたし、予定通り虫型の魔物の討伐にも成功。
これでパラサイトフライをしっかりと腹の中に収めることができれば、コボルトの時と同じように新たな能力を得られるようになるはずだ。
最大の問題点を挙げるとすれば、この大きな毛むくじゃらのハエをこれから食わないといけないこと。
幼体の時はハエだろうが食っていたが、今はイノシシの味を覚えてしまったし何より大きなハエというのは見た目がどぎつい。
ひっくり返って足をピクつかせているパラサイトフライを見て、動悸が速くなるのを感じながらも――俺は深呼吸をして覚悟を決める。
流石に生は嫌なため、着火しやすいように加工してある松明用の木材を使用して簡易的な焚火を作った。
この間も周囲には注意しつつ、倒したパラサイトフライを豪快に丸焼きにしていく。
羽やら毛やらは綺麗に焼けてくれ、頭を切り落としたことで何とか食材に見えないこともない姿に変わった。
意外と肉厚で見ようによっては美味そうだ!
そう自分に言い聞かせてから、しっかりと中まで焼いたパラサイトフライにかぶりつく。
「……ま、まずい。不味すぎる」
思わず言葉を漏らしてしまうほどの不味さ。
基本の味は苦く、時折腐ったような酸っぱさが気持ち悪い。
更に臭いも最悪で、褒めるところが一つもないほどに美味しくない。
鼻をつまみながら何とか一匹を完食したが、奥にはまだ三匹のパラサイトフライが転がっている。
気が重くなるが、食わないと強くならないため無理やりにでも口の中に押し込むつもり。
【魔喰】は食べるだけで強くなる弱点のない能力だと思っていたが、自力で倒さないといけない上に食べないといけないのは思っていた以上にしんどい。
ぐだぐだしていると他の魔物に襲われる可能性があるため、深いため息をつきながらも俺は次のパラサイトフライに手を伸ばした。
この世に簡単なものはないと変なところで実感させられつつ、残りの三匹のパラサイトフライを何とか食べきったのだった。
61
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説
黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》
Siranui
ファンタジー
そこは現代であり、剣や魔法が存在する――歪みきった世界。
遥か昔、恋人のエレイナ諸共神々が住む天界を焼き尽くし、厄災竜と呼ばれたヤマタノオロチは死後天罰として記憶を持ったまま現代の人間に転生した。そこで英雄と称えられるものの、ある日突如現れた少女二人によってその命の灯火を消された。
二度の死と英雄としての屈辱を味わい、宿命に弄ばれている事の絶望を悟ったオロチは、死後の世界で謎の少女アカネとの出会いをきっかけに再び人間として生まれ変わる事を決意する。
しかしそこは本来存在しないはずの未来……英雄と呼ばれた時代に誰もオロチに殺されていない世界線、即ち『歪みきった世界』であった。
そんな嘘偽りの世界で、オロチは今度こそエレイナを……大切な存在が生き続ける未来を取り戻すため、『死の宿命』との戦いに足を踏み入れる。
全ては過去の現実を変えるために――
ゴブリンロード
水鳥天
ファンタジー
ファンタジー異世界のとある国に転生しユウトは目覚める。その国ではゴブリンを見くびりはびこらせながらも反撃し、ついに種としてのゴブリンを追い詰めていた。
そんな世界でユウトは戦闘中に目覚めると人に加勢しゴブリンを倒す。しかし共闘した人物の剣先は次にユウトへ向けられた。剣の主はユウトへ尋ねる。「オマエは〝ゴブリン〟か?」と。ユウトはゴブリンへと転生していた。
絶体絶命から始まるゴブリン人生。魔力あふれるファンタジー異世界でユウトはもがき、足掻き、生き延びることをあきらめない。
戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ
真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします!
感想待ってます!
まずは一読だけでも!!
───────
なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。
しかし、そんなオレの平凡もここまで。
ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。
そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。
使えるものは全て使う。
こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。
そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。
そしていつの日か、彼は……。
カクヨムにも連載中
小説家になろうにも連載中
異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~
星天
ファンタジー
幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!
創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。
『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく
はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる