12 / 77
第13話 主従関係
しおりを挟む俺は拾ってきた木で作った椅子に座り、一応兄である三匹のゴブリンには正座をさせている状態。
ちなみにバエルは俺の後ろに立っていて、何やら少し誇らしげに胸を張っている。
「まずはこの五日間で取ってきた食材を出してもらおう。これからは俺の班の一員な訳だしな」
もちろん言葉は通じないため身振り手振りを交えて伝えると、大人しくこの五日間でかき集めたであろう食材を渡してきた。
量は思っていた以上に多く、俺とバエルに負けないように必死に集めていたのが窺い知れる。
「頑張って集めていたんだな。ただ重さは……全部で六キロくらいか」
俺達が集めたイノシシを除いた食材が四キロほどなので、五日間で集めることができた量は合計で十キロ。
獣を狩ることができないゴブリンにとっては、一ヶ月で百キロの食材を集めるというのは無理難題っていうのが分かる。
「やっぱり野草を摘むのは非効率だな。どうにかして獣を狩っていきたい」
俺はそう呟いたが、三匹のゴブリンは少しもピンと来ていない様子。
言葉の分からないゴブリンに指示をしなくてはいけないのは大変だが、完全に従ってくれるならいくらでもやりようはある。
そのためにも……まずはこの三匹のゴブリンの心を掴まないといけない。
武力での力は示せたため、ここからは心を掴むことを実行していく。
まずは名前を付けたい。
ゴブリンは容姿が本当に似ているため判別が難しいが、ゴミ山で拾ってきたものをアクセサリーとして身に着けさせれば差別化できる。
バエルには既に腰巻を渡しているため、この三匹のゴブリンにも腰巻を作って渡す。
その腰巻と腰巻につけるアクセサリーで、判別を簡単にできるようにしたい。
「お前達に名前を付ける。一番大きいお前はイチ。二番目に大きいお前はニコ。三番目に大きいお前はサブ。イチ、ニコ、サブだ。分かったな」
「……う、うガ?」
バエル同様に一切ピンと来ていない様子だが、呼び続けることで自分の名前だと認識できるようになるはず。
バエルは既に自分が“バエル”だということを認識できるようになっているからな。
「仕事については明日から詳しく教える。だから今日は……一緒に飯を食おう。お前らは俺とバエルに腐肉を分けてくれなかったが、俺達は分けてやるつもりだ。一緒の班になった訳だし、仲間として接するつもりでいる。ただ、俺がリーダーで副リーダーはバエル。俺達の命令には絶対に従ってもらうからな」
必死に言葉とジェスチャーで伝えたが、半分も伝わっていないだろう。
今話したことぐらいは全て理解させたいところだが、正直腹が減ってしょうがない。
三匹のゴブリンにもついてくるよう指示をし、イノシシの焼肉パーティを行うことを決めた。
すぐに駄目になってしまう内臓部分だけでも、五匹で分けても十分な量が食べられるだろう。
俺はイノシシを解体再開し、解体した部分の処理を事細かに指示して三匹に行わせていく。
バエルには火起こしをしてもらい、これから食べる内臓の処理は完璧に行えた。
腐肉か野草しか食べたことのない三匹にとっては、今やっている作業が何なのかも分かっていない。
火すらもまともに使ったことがないだろうし、焼肉を食ったらぶっ飛ぶだろう。
俺についてくればこれだけ美味い飯にありつけるということも植え付けられるし、信頼度を深めるだけでなく上下関係をはっきりとさせるにも非常に有効。
焼肉を食った三匹とバエルの顔を楽しみにしつつ、俺は処理した内臓の肉を熱々に熱した石の上で焼いていく。
腹が鳴るような美味そうな匂いが周囲に漂い始め、イチに関しては覗き込むように焼かれている肉を見ている。
目を逸らしたらつまみ食いしそうな勢いのため、手で制止しつつ全員の取り皿となる葉っぱの上に肉を分けた。
「食っていいぞ」
俺が合図を出すや否や、イノシシの肉をがっつき始めたゴブリン達。
味付けは一切されていないのだが、焼いた新鮮な肉を食うのは初めてのようで驚くほど貪り食べている。
ここまでまともな食事もとらずに食材調達をしていたからか、イチ、ニコ、サブの三匹は涙を流しているほど。
ここまで喜ぶとは思っていなかったが、これで身も心も俺に従う理由ができたはず。
全員の食べっぷりを見てそう確信した俺も、自分のところに取り分けたイノシシ肉を口の中に放り込む。
うん。生で食ったコボルトの肉よりは全然食べられるが、臭みも癖も強いしお世辞にも美味いとは言えない。
血抜きも甘く、内臓を取り出すのも遅かったせいもあるだろうな。
正直味だけで言うのであれば、俺は焼いた幼虫の方がクリーミーで味が濃いため好きだが、貴重な肉だし大事に頂こう。
残してもしょうがないため俺達は大量の内臓の肉を焼いては食べていき、匂いに釣られて近くの巣のゴブリン達が見に来るほど、注目を集めながらイノシシ肉を平らげた。
他のゴブリン達もいずれ仲間に引き入れたいとは考えているため、肉をお裾分けすることも考えたのだが……まずはこの四匹を完全にまとめ上げることが最優先事項。
匂いに釣られて集まってきたゴブリン達には目も暮れず、俺達だけでイノシシの内臓を食べ尽くした。
41
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説
戦闘狂の水晶使い、最強の更に先へ
真輪月
ファンタジー
お気に入り登録をよろしくお願いします!
感想待ってます!
まずは一読だけでも!!
───────
なんてことない普通の中学校に通っていた、普通のモブAオレこと、澄川蓮。……のだが……。
しかし、そんなオレの平凡もここまで。
ある日の授業中、神を名乗る存在に異世界転生させられてしまった。しかも、クラスメート全員(先生はいない)。受験勉強が水の泡だ。
そして、そこで手にしたのは、水晶魔法。そして、『不可知の書』という、便利なメモ帳も手に入れた。
使えるものは全て使う。
こうして、澄川蓮こと、ライン・ルルクスは強くなっていった。
そして、ラインは戦闘を楽しみだしてしまった。
そしていつの日か、彼は……。
カクヨムにも連載中
小説家になろうにも連載中
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-
一星
ファンタジー
至って普通のサラリーマン、松平善は車に跳ねられ死んでしまう。気が付くとそこはダンジョンの中。しかも体は子供になっている!? スキル? ステータス? なんだそれ。ゲームの様な仕組みがある異世界で生き返ったは良いが、こんな状況むごいよ神様。
ダンジョン攻略をしたり、ゴブリンたちを支配したり、戦争に参加したり、鳩を愛でたりする物語です。
基本ゆったり進行で話が進みます。
四章後半ごろから主人公無双が多くなり、その後は人間では最強になります。
黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》
Siranui
ファンタジー
そこは現代であり、剣や魔法が存在する――歪みきった世界。
遥か昔、恋人のエレイナ諸共神々が住む天界を焼き尽くし、厄災竜と呼ばれたヤマタノオロチは死後天罰として記憶を持ったまま現代の人間に転生した。そこで英雄と称えられるものの、ある日突如現れた少女二人によってその命の灯火を消された。
二度の死と英雄としての屈辱を味わい、宿命に弄ばれている事の絶望を悟ったオロチは、死後の世界で謎の少女アカネとの出会いをきっかけに再び人間として生まれ変わる事を決意する。
しかしそこは本来存在しないはずの未来……英雄と呼ばれた時代に誰もオロチに殺されていない世界線、即ち『歪みきった世界』であった。
そんな嘘偽りの世界で、オロチは今度こそエレイナを……大切な存在が生き続ける未来を取り戻すため、『死の宿命』との戦いに足を踏み入れる。
全ては過去の現実を変えるために――
職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~
新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」
多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。
ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。
その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。
彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。
これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。
~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ゴブリンロード
水鳥天
ファンタジー
ファンタジー異世界のとある国に転生しユウトは目覚める。その国ではゴブリンを見くびりはびこらせながらも反撃し、ついに種としてのゴブリンを追い詰めていた。
そんな世界でユウトは戦闘中に目覚めると人に加勢しゴブリンを倒す。しかし共闘した人物の剣先は次にユウトへ向けられた。剣の主はユウトへ尋ねる。「オマエは〝ゴブリン〟か?」と。ユウトはゴブリンへと転生していた。
絶体絶命から始まるゴブリン人生。魔力あふれるファンタジー異世界でユウトはもがき、足掻き、生き延びることをあきらめない。
ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~
雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる