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第1話 駆け出しの冒険者
しおりを挟むここは大陸の一番西に位置するダンジョン都市フェルミ。
街の規模としては決して大きくはないのだが、この街には珍しくダンジョンが存在する。
街の近くにあるとかではなく街の中にダンジョンがあり、そのダンジョンを攻略しに来る冒険者によって発展した風変わりな都市だ。
かくいう俺ことシルヴァ・ベルハイスも、ダンジョンでの一攫千金を夢見てこの街にやってきた冒険者の一人である。
冒険者になってから三年間経験を積み、二十歳の時に満を持してフェルミにやってきてもう五年。
未だに一攫千金は掴めていないのだが、昨日の攻略で大きな壁の一つと呼ばれている十階層の攻略に成功した。
今日はその祝勝会を行う予定であり、五年間一緒にダンジョンを攻略してきた仲間たちと落ち合う予定である。
十階層のボスと激しい戦闘を繰り広げたため、まだ節々の筋肉が痛むが気分は最高の状態で待ち合わせ場所へと向かった。
冒険者御用達の食堂『銀の地図』。
俺はその店の入口で待っていたのだが、集合時間を過ぎても中々現れない。
昨日のダンジョン攻略の疲れで起きることができなかったのかと思い、寛容な気持ちで待っていると……向こう側から二人並んで歩いてくるのが見えた。
祝勝会だというのにも関わらず、どこか浮かない表情に見えるのが引っかかるが、特に気にすることなく二人に話しかける。
「おい、二人共遅いぞ」
「……悪い。ちょっと冒険者ギルドに呼び出されていたんだ」
「シルヴァも呼びに行ったんだけど、一向に返事がないから二人で行ったんだよね」
浮かない表情をしていると感じた俺の感覚は間違っていなかったらしく、喋りもどこか元気がない二人。
冒険者ギルドに呼び出されたというのも気になるため、詳しい事情を聞くことにした。
「冒険者ギルドに呼び出されたって何を言われたんだ? 冒険者ランクの昇格ってこと……は流石にないよな?」
一ヶ月前にブロンズからシルバーに昇格したばかりなため、あり得ないと思いつつも尋ねてみたが、予想通り二人はタイミングを図ったかのように同時に首を横に振った。
十階層を突破したお祝いの言葉を貰ったってこともありえないし、そうなってくると呼び出された理由は俺には思い当たらない。
「……シルヴァは二ヵ月前にこの街に来た勇者について知っているか?」
「当たり前だろ。この街に来た瞬間から話題になっていたし、俺達の間でも何度も話題にしていたしな」
「実はね、その勇者のパーティが荷物持ち――サポーターを探しているんだって」
「ん? 勇者のパーティにはサポーターが五人くらいいただろ?」
フェルミに来たばかりの時に一度だけ勇者のパーティを見たことがあるが、その時に五人のサポーターがいたのをハッキリと覚えている。
質の高そうな装備に身を包んだ三人の女性と、先頭を歩く女性たち以上に質の高い装備を身に着けた金髪碧眼の男性。
そして……そんな四人の後を力なくトボトボと歩いていた、ボロボロの布の服に自分の体よりも大きなリュックを背負った五人の男性。
前と後ろとであまりにも格差があったため、今でもその時の光景をはっきりと思い出すことができるくらい鮮明に覚えている。
「ギルド職員の話によると、サポーターは全員死んでしまったらしい。だから、今回はそこそこの実力がある冒険者から募りたいって話だ」
「まさか冒険者ギルドに呼び出された理由って……」
「そう! 多分、シルヴァが思っている通り。私達にサポーターをやってみないかって依頼があったの!」
勇者のサポーターができるという話を聞く分にはこれ以上ないことだと思うが、さっき思い返したようにサポーターの扱いがぞんざいだったという印象が強すぎる。
あんな扱いをされていたら、死んでしまうのもおかしくないと思ってしまうし、俺としてはサポーターを受けるメリットよりもデメリットの方が大きいと感じる。
「俺とティアは受けようって話になった! 報酬も良いし、何よりも近くで勇者の戦闘が見られるのは大きいだろ?」
「そうそう! ちょっと怖い部分もあるけど、私とジークで話し合ってメリットの方が大きいってなったの!」
「だからシルヴァも一緒にやってみないか? 返事は明日伝えるとは言ってあるが、期間は一週間で報酬は一人当たり破格の白金貨一枚。一週間サポーターをこなすだけで、装備を良い物に一新することができるぞ!」
「……メリットは確かに大きいが、それでも俺は怖さが何倍も勝っている。二人も勇者のパーティのサポーターのことは覚えているよな」
二人にそう尋ねると、死んでしまったという五人のサポーターを思い出したのか渋い表情を見せた。
報酬も良く、見方によっては貴重な経験ができる絶好の機会なのだが、あのサポーターたちが全員死んだとなると話が変わってくる。
「覚えてはいるけど、引き受けない選択肢はないでしょ! それに一週間なら流石に死ぬことはないと思うけど……」
「そのことも散々話したが、あのサポーターの扱いをされたとしても白金貨は大きい。今より上を目指すなら絶対に引き受けるべきだぜ?」
「でも俺達の体が一番大事だろ。死ぬことがなかったとしても、手足がなくなったりしても意味がなくなる。それに――」
そこから俺は二人を必死に説得したのだが、時間内に二人の意見が変わることはなかった。
俺だけ依頼を受けずに街に残ったとしても意味がないため、二対一の状況で押し切られて渋々サポーターの依頼を引き受けることになってしまった。
俺は全くと言っていいほど乗り気ではないが、パーティで意見が分かれたら多数決で決める。
これはパーティを組んだ時の決め事のため、俺も二人と同じく勇者のパーティのサポーターとして動くこととなってしまった。
話し合いを行った翌日に冒険者ギルドにサポーターの依頼を引き受けるということを伝え、それから更に二日後の早朝。
今日から正式に勇者のパーティのサポーターとして、俺達【天の雫】は動くこととなった。
ちなみに【天の雫】というのは俺達のパーティ名であり、この街のダンジョンの最下層に眠っていると言われている宝の一つから取った名前。
『天の雫』は死者をも蘇生させるというアイテムと噂されており、フェルミの街のダンジョンをいつか完全攻略するという決意と、道半ばでこの三人の誰かが死んでしまったとしても、『天の雫』で絶対に蘇らせるという二つの意味で付けたパーティ名。
まぁ三人パーティのため、誰か一人が欠けた時点でパーティとしてはほとんど成り立たなくなってしまうのだが、そこはあまり深く考えないようにはしている。
眠い目を擦りながらパーティ名の由来についてを思い返していると、集合時間から一時間ほどが経過して、ようやく勇者一行が姿を現した。
以前見た時と何ら変わりはなく、ド派手な装備に身を包んだ勇者。
そしてその後ろには、顔立ちの整った三人の美女が立っている。
思わずその美女に目を惹かれてしまったが、ティアに肘内されて視線を勇者に戻した。
「おはようございます。今日からサポーターを務めさせて頂きます。シル――」
「自己紹介はいらねぇよ。俺はお前らに一切の興味がねぇからな。てめぇらは俺達の後を魚の糞みたいにくっ付いて、ドロップアイテムを拾えばいいんだ。……ただ、アイテムを失くしたら確実に殺すからな」
勇者は心の底から興味なさそうにそう告げると、俺達を無視してダンジョンに向かって歩き出した。
この依頼を引き受ける前から分かってはいたが、想像していた以上に性格に難がある人物であることが今のやり取りで分かった。
俺達を同じ人間とは思っておらず、確実に酷い仕打ちを受けるのが目に見えている。
今からでもサポーターの依頼を断りたいぐらいだが、何度も言うが俺だけ断っても仕方がない。
奥歯をグッと噛み締め、勇者の後をついてダンジョンへと向かった。
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