【完結】あなたはいつも…

べち

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平穏な日々

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今から12年前…王都で激しい戦闘が起きた。
辺りは火の海。一帯に生きているものはない。
そこにはただ2つの影があった。
ひとつは人類最強戦力『国王』
ひとつは魔王軍最強戦力『魔王』
まさに死闘。命懸けの戦い。
力は互角。やや国王が優勢にみえた。
が…終わりはあっけなく訪れた。
最後の力を使い魔王逃走。
力を使い果たした国王追いつけずに逃走を許す。
国王の命の灯火が消えかけている。いや、消える。
実質敗北。
人類最強戦力が魔王軍最強戦力に敗北したのだ。
満身創痍の状態で僅かな希望を胸に生存者を探す。
暫く歩くとそこには傷だらけの赤子がいた。
「なぜ…こんなところに…迎えに来てくれたのか…はは…ありがとな」
赤子を抱き寄せる。
「俺の命は預ける…いつか人類の希望の刃となってくれ…お前は…1人じゃない…」
そう言うと輝き出した右手を赤子に向けた。
輝きの消失と共に国王がその場に倒れた。
人類最強戦力『国王』の死亡。
同時にこの戦闘により人類最強戦力の血を受け継ぐ唯一の息子消息不明。おそらく死亡。
王家の血が絶たれたこの日。
後に『人類最後の日』と呼ばれ
人類の衰退が始まっていく…

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その孤児院は王都から遠く離れた山の麓にあった。
そこでは貧しくも充実した日々を送る0歳~12歳の8人と親代わりのママが暮らしていた。
「ママ!今日の夜ご飯はなに!?」
「あらあら。さっきお昼ご飯を食べたばかりだというのに。」
ママが太陽のような笑顔でにっこりと微笑む。
美しい白髪。透き通るような紫紺の瞳。
「そうだなぁ…カレーはどう?お肉はないけど許してくれる?」
「本当に!?肉なんてなくていい!俺ママの作るカレー大好きなんだ!」
この元気で明るい黒髪に黒い瞳の少年は『リク』。
物心ついた時には孤児院にいた。現在12歳の最年長組だ。
「リクはまた飯の話しか…ママもリクに甘いじゃないの?」
この少年は『カイ』。青い髪に青い瞳が特徴。リクと同じく12歳。
普段はクールだがリクの事となるとムキになる時がある。
「うるせーよカイ!お前は水でも汲みに行けよ!」
「水でも汲みに行けって…お前こそママにベタベタして邪魔してんじゃねぇよ!」
「こーら!2人ともやめなさい!2人が喧嘩するとママ悲しいわ」
「ごめんよママ…カイがうるさいからさ…」
「お前がうるさいんだよ!」
「はいはい!そこまで!2人にお手伝い頼んでもいいかしら?」
「リクはカレーに使うじゃがいもとにんじんを畑から取ってきて!」
「カイは水汲みお願いね!」
「オッケー!」
「わかった!」
視線が合う2人
と同時に
「どっちが早いか競争だ!」
一斉に走り出す2人の背中を見て微笑みながら
「気をつけるのよ~!」とママの優しい声が響いた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「結構時間かかっちゃったなぁ…これじゃカイに負けるかも…んなことさせるか!」
野菜の収穫を終えたリクが孤児院に向かって走り出す。
直後…
目の前に火柱が現れ激しい爆炎と共に孤児院が粉々に焼かれた。
「え…?」
理解が追いつかない。目の前の出来事に思考停止。
ただその場に座り込むことしか出来ない。
すると炎の中から1つの影が現れた。
「ママ…?ママ!ママ!」
震える身体に無理矢理力を入れ立ち上がる。
「ママ!よかった無事…で…?」
「はぁ?ママって誰だよクソ餓鬼。なぁ?まぁいい。お前もすぐにそのママのところに行かせてやるよ。なぁ?」
目の前には2メートルを超えるであろう巨体。
この世のものとは思えない形相をした存在。
悪魔だ。
震えが止まらない。
「そんなに震えてどうしたよ?怖いか?なぁ?俺が怖いか?なぁ?」
「ママはどこだ…他のみんなはどこだ…」
「知らねぇなぁ。まぁあの中にいるじゃねぇか?なぁ?」
炎に包まれている孤児院の方を指差しながら笑う。
「ママ…ママ…」
フラフラと立ち上がり歩きだす。
燃え盛る瓦礫の中に倒れている人影が見える。
「マ…マ…」
瓦礫に下半身が潰され身動きが取れないでいる。
「今助けるから」
瓦礫を退けようとするが子供1人の力では到底足りない。
「リ…ク…?」
「ママ!そうだよ!リクだよ!今助けてあげるから少しだけ待って!」
「い…」
「喋らなくていい!」
「きて…」
「喋らなくていいから!今助ける!だから…だから…」
大粒の涙が止まらない。
「リク…生きて…愛してるわ…」
「ママ…?ママ!死ぬな!嫌だ!俺はまだママになにも返せていない!だから…死なないで…」
ママの命が途切れた。
「ママーーーーーーー!!!!!」
喉が引きちぎれるほどの絶叫。そして絶望。
「もういいか?なぁ?」
「お前誰だよ」
小さく、しかしはっきりと憎悪のこもった言葉。
「今から死ぬのに名前なんか聞いてどうするんだ?なぁ?」
「なんで皆を殺した」
小さく、しかしはっきりと憤怒のこもった言葉。
「おいおい待てよ。冗談だろ?お前ら人間だって悪魔見つけりゃ殺すだろ?なぁ?強いて言うなら…趣味だ。なぁ?」
「殺す」
小さく、しかし悪魔を鋭い視線が刺す。
「はぁ?餓鬼が誰に向かって…」
悪魔の言葉を遮る。
「殺す」
その言葉は繰り返される
「殺す殺す殺す殺す殺す」
次第に殺意と共に大きくなる言葉。
「もういい…聞き飽きた。死ねよ餓鬼。なぁ?」
静かに言葉を発した後
悪魔の掌がリクに向けられ業火が迫る。
「お前…は…殺すっっっ!」
叫ぶ。憎悪、憤怒、殺意凡ゆる不の感情をひとつにまとめ叫ぶ。絶叫する。
その瞬間リクを中心に天をも穿つ巨大な光の柱が出現。
光の柱と共に、悪魔の業火がリクを焼く。
焼く、が無傷。
「なんだそれ?なぁ?なんでお前みたいな餓鬼がそんな威光を放ってる。なぁ?」
悪魔、眼前の出来事に理解が追いつかない。
「殺す…」
次の瞬間、リクを囲むように赤・青・緑・黄・茶色の刀剣が空中から突如出現。周り始める。
「なぁ?なんでお前みたいな餓鬼がそんなもん持ってんだ?なぁ?なんとか言えよ?なぁ!」
激しい口調と共に再度リクに業火が迫る。
「殺す…」
周囲にある刀剣が自ずと動き青の刀剣が悪魔の業火を蒸気に変える。
「殺す…」
両手を悪魔に向け一言。
「お前は殺す…」
直後5本の刀剣が輝き悪魔に向かって直進。
「早すぎる…全ては躱せないだと!?この俺が!?」
刀剣が悪魔を襲い砂埃が辺りを覆う。
余裕の表情をみせていた悪魔、片膝をつき右腕から凄まじい量の流血。
「見つけたぞ…こんなところにいたのか…その黒い瞳…次会ったら殺す。なぁ?」
そう言い残し悪魔逃走。
いつの間にか刀剣は消えていた。
リクはその場に倒れ込み気絶。
突如雨が降りはじめた。
「間に合わなかったか…遅くなってすまない…」

平穏な日々 完

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