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漂流した教室編
後日談sideB 若かりし頃の一幕
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ネメアクラウンネオのギルドマスター、ネアは若い頃バスターとしてその名を轟かせていた。これは彼女が鬣の様に豊かな金髪の少女だった、とても昔の話だ。ある村の周囲で見たこともない魔物と烙印持ちがいると聞き、それを確かめに来たのだ。
(犯罪者なら村は今まで無事じゃ済まないはずだし、魔の加護でも同じ……)
ネアは魔の加護を持つ者が必ずしも人を脅かそうとしているわけではないことを知っていた。魔の加護を持つ親から生まれた子も同様に魔の加護を持つ。そういう例もあり不用意に攻撃することは避けるべきであるため烙印の話を聞くと彼女は真っ先に駆け付ける。
「あ、なんだあんたか」
「ん?」
草原の岩陰に潜んでいたのは、見知った顔。魔の加護についてより深く知る切っ掛けとなった人物、テーネである。
「わ、あわ……っ、見つかった……!」
「いいよいいよそのままで」
バスターに見つかって急いで逃げようとする彼をネアは引き留める。噂によると魔の加護を得ると不老になるらしいが、周囲から命を狙われる都合そこまで長生きした人物を見たことがない。
ネアも自分が老婆になった時、何一つ変わらない彼と再会してそれが事実だとようやく知ることになる。
「なんだ、烙印持ちあんただったんだ。もう村人に見つかってるから移動した方がいいよ」
「そ、そっかぁ……」
「ちょいと失礼」
知り合いだと分かると、状況を伝えつつネアはテーネの髪を一部切り取る。倒した証明として村人に見せるものだ。見通しの鏡で討伐暦を見られればすぐにバレてしまう工作だが、村にはそんなものはなくどうせ村人も魔の加護を持つ者の死にざまなど見たことないだろう。なので「魔物みたいに溶けてこれしか残らなかった」と言えばそれで済む。
「そういえば、見たことのない魔物見なかった?」
「それボクに聞く? 結構旅して色んな魔物見たと思うし、何が本来ここにいる魔物か分からないんだけど」
どうせなら、と彼女はテーネにもう一つの依頼の話をする。とはいえ、テーネは旅暮らし。定住しているバスターのネアより多くのものを見ている上、ここの土地勘はない。
「特徴は?」
「人型で、子供の顔がオッサンに乗った様なのだって」
「は?」
一応村人の証言を共有したが、まるで心当たりがないテーネ。この辺で見かけたことも、旅の途中に出会ったこともないタイプの魔物だ。
「それ魔物というより産怪の類では?」
「だよねー」
「でも新種の魔物を発見して論文に乗れば恩赦が……」
テーネの基本目的は死なずに平穏な暮らしを得ること。そのため、功績狙いで魔物探しを手伝ってくれることになった。
「あれかな?」
「そんな早く見つかるわけ……」
すぐに草むらでガサガサと動く音がする。もしや新種の魔物かと身構えるテーネだが、そんなすぐ見つかるわけがない。
『よ、ようやく人に会えたで……』
出て来たのは、脂ぎった髪に荒れた肌と膨らんだ顔をした、人型の存在。太った顔に反して身体はガリガリながら腹だけが出ており、背中にはこぶの様なものもある。彼らに理解出来ない言葉で、皺の寄った目をニタっと笑わせる。
「ば、化け物ぉーっ!」
そのおぞましい光景に動く骸骨とかいるのが常識のテーネですら恐慌状態になり剣をぶつける。二人の索敵スキルでも魔物判定なので尚更恐怖。
『ぎゃああああ!』
ネアは新種を発見するなら生け捕りの方が、と思ったがもう遅いので自分の目に記録して、後で見通しの鏡で調べるかと諦めた。
「あ、逃げた!」
しかしその化け物はテーネの攻撃でも傷一つ付かず、恐ろしいスピードで逃げ出した。
「何だったんだろうあれ……」
そんな不思議な出来事を、ネアは数年もするとすっかり忘れてしまうのであった。
その化け物の正体はシンジであった。極大転移魔法に巻き込まれた結果、二つの世界に分裂してしまった様だ。
「お、おでは一体どうなったんだで……ここはどこ?」
魔王の加護は失われたが、その鉄壁の防御と生命力だけは存在した。空気中から供給される魔力により、寝食を伴わずとも生命維持が可能なまま攻撃性能は一切喪失した。そして、最大のメリットとも言えるバスター扱いも無くなり完全に魔物となって彷徨うこととなる。
今もこの世界、リュウガ達の生きる時代までシンジの慣れ果ては生きているだろう。しかし、何も成せなくなった存在のことなど些末なものである。
(犯罪者なら村は今まで無事じゃ済まないはずだし、魔の加護でも同じ……)
ネアは魔の加護を持つ者が必ずしも人を脅かそうとしているわけではないことを知っていた。魔の加護を持つ親から生まれた子も同様に魔の加護を持つ。そういう例もあり不用意に攻撃することは避けるべきであるため烙印の話を聞くと彼女は真っ先に駆け付ける。
「あ、なんだあんたか」
「ん?」
草原の岩陰に潜んでいたのは、見知った顔。魔の加護についてより深く知る切っ掛けとなった人物、テーネである。
「わ、あわ……っ、見つかった……!」
「いいよいいよそのままで」
バスターに見つかって急いで逃げようとする彼をネアは引き留める。噂によると魔の加護を得ると不老になるらしいが、周囲から命を狙われる都合そこまで長生きした人物を見たことがない。
ネアも自分が老婆になった時、何一つ変わらない彼と再会してそれが事実だとようやく知ることになる。
「なんだ、烙印持ちあんただったんだ。もう村人に見つかってるから移動した方がいいよ」
「そ、そっかぁ……」
「ちょいと失礼」
知り合いだと分かると、状況を伝えつつネアはテーネの髪を一部切り取る。倒した証明として村人に見せるものだ。見通しの鏡で討伐暦を見られればすぐにバレてしまう工作だが、村にはそんなものはなくどうせ村人も魔の加護を持つ者の死にざまなど見たことないだろう。なので「魔物みたいに溶けてこれしか残らなかった」と言えばそれで済む。
「そういえば、見たことのない魔物見なかった?」
「それボクに聞く? 結構旅して色んな魔物見たと思うし、何が本来ここにいる魔物か分からないんだけど」
どうせなら、と彼女はテーネにもう一つの依頼の話をする。とはいえ、テーネは旅暮らし。定住しているバスターのネアより多くのものを見ている上、ここの土地勘はない。
「特徴は?」
「人型で、子供の顔がオッサンに乗った様なのだって」
「は?」
一応村人の証言を共有したが、まるで心当たりがないテーネ。この辺で見かけたことも、旅の途中に出会ったこともないタイプの魔物だ。
「それ魔物というより産怪の類では?」
「だよねー」
「でも新種の魔物を発見して論文に乗れば恩赦が……」
テーネの基本目的は死なずに平穏な暮らしを得ること。そのため、功績狙いで魔物探しを手伝ってくれることになった。
「あれかな?」
「そんな早く見つかるわけ……」
すぐに草むらでガサガサと動く音がする。もしや新種の魔物かと身構えるテーネだが、そんなすぐ見つかるわけがない。
『よ、ようやく人に会えたで……』
出て来たのは、脂ぎった髪に荒れた肌と膨らんだ顔をした、人型の存在。太った顔に反して身体はガリガリながら腹だけが出ており、背中にはこぶの様なものもある。彼らに理解出来ない言葉で、皺の寄った目をニタっと笑わせる。
「ば、化け物ぉーっ!」
そのおぞましい光景に動く骸骨とかいるのが常識のテーネですら恐慌状態になり剣をぶつける。二人の索敵スキルでも魔物判定なので尚更恐怖。
『ぎゃああああ!』
ネアは新種を発見するなら生け捕りの方が、と思ったがもう遅いので自分の目に記録して、後で見通しの鏡で調べるかと諦めた。
「あ、逃げた!」
しかしその化け物はテーネの攻撃でも傷一つ付かず、恐ろしいスピードで逃げ出した。
「何だったんだろうあれ……」
そんな不思議な出来事を、ネアは数年もするとすっかり忘れてしまうのであった。
その化け物の正体はシンジであった。極大転移魔法に巻き込まれた結果、二つの世界に分裂してしまった様だ。
「お、おでは一体どうなったんだで……ここはどこ?」
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今もこの世界、リュウガ達の生きる時代までシンジの慣れ果ては生きているだろう。しかし、何も成せなくなった存在のことなど些末なものである。
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