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封印されし魔王の鎧編
フィルセを探せ!
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外に出た俺と門番はフィルセ捜索の為に道を進むことにした。整備がされているわけではないが、多くの人間が歩くと自然にこの様な道が形成される。
「そうだ、あの時は暗くてよく見えなかったけど特徴とか分かります?」
俺が彼女と出会ったの昨夜のこと。灯りも無かったので美人さん、くらいの印象しか残っていない。見た目もぼんやりしていては探せるものも探せない。
「髪の色は栗色、結構伸ばしています。いつもは緑の地味目な服を着ています。そのくらいですかね……装備が心許ないというのもありますが……」
「だったら急がないと……」
装備が俺同様に貧弱となれば、そんなに余裕はなさそうだ。しかし肝心の俺が土地勘もなければ戦力にもならねぇフィルセをよく知るわけでもねぇときた。
「門番さんは探すのに集中してください。俺が周囲を警戒します」
「頼んだ」
そこで俺は審問官のスキルを使い、魔物の接近を見張ることにした。山で薬草摘みにきた人が遭難することが多いのだが、それは薬草探しに夢中になって周囲が見えず、道を外れたり魔物に気づかなかったりするから。門番がフィルセを探すのに集中できるように、俺は警戒を強めるのがベストだ。
「おーい、フィルセー」
「どこに行ったんですかー?」
道中、フィルセがやったのか魔物の死体が散らばっていた。それもかなりの数だ。まさに死屍累々とはこのことか。
見たことがない種類だし、とっくに死んでいると看破でレベルも分からないが、例え一桁の雑魚でもこの数を始末するのは大変だ。
「ったく、レベル上げしたいのは分かるが死んだら元の木阿弥だろ……」
「いえ、あの子レベルは低くないんですが……」
そういえばレイピアを使ってたな。ということはソルジャーから一つ上がって上位職のフェンサーやれるくらい能力はあるんだよな……。
「そうか、フェンサーですもんねぇ。フェンサーって重い防具無理でしたっけ?」
加護を受けるということは、相応の制約がある。例えば装備なのだが、ジョブによっては装備すると加護が受けられないものがある。ドルイドの金属装備不可が有名だ。そうでなくとも、極東で盛んなニンジャというジョブみたいに防具を身に着けないことで恩恵があるパターンなども存在する。うちの村にはフェンサーがいなかったからその辺よく知らん。
「いや……フェンサーは身軽さが大事だから重い防具が好まれない程度のものだが……あの子は少し特殊というか……」
門番は言葉を濁す。たしかに俺は稼ぎがないから仕方なく家畜のものをなめした革のコートでお茶を濁しているが、フェンサーに昇り詰めるほどならもっといい防具、革や布でも魔物素材だったり魔力を帯びたものが買えるはず。だが、昨夜のことを思い出すと凍結も電撃も防げていない辺り普通の布服の疑いさえあるぞあれ。
「ん? あれは……」
話をしていると、魔物の死体に光を反射するものがあった。それは金属のレイピア……つまりフィルセの武器だ。
「武器を落とすなんて……」
「いえ、あの子は使い潰した武器を捨てていくので……」
「え?」
まさかの武器使い捨て。たしかにレイピアは刃がボロボロになっており、少し曲がっている。見た目から弱っちそうに見えるが、武器なのでそう簡単に刃こぼれしたり曲がったりされては困るのでそれなりに頑丈なはず。それがここまでになるなんて……。
「いくつかレイピアを持ち歩いて、その都度新しいものに切り替えてるんですよ。鍛冶屋で直してもらう手間を省くために……」
「なんて贅沢な……拾ってこ」
木剣さえ没収された俺からは羨ましい限りだ。金属の武器使い捨てなんて。フェンサーでないからうまく扱えないが、錆びた斧よりはいいだろう。
「そういえば門番さんもバスターではないけど加護は受けているんですね」
「ああ、加護を示せ」
門番さんは手の甲を見せると、昨日俺がした様に紋章を浮かべる。紋章も数字も俺とは違う。紋章はジョブ、数字はレベルを示す。門番、というジョブがあり、加護の内容も守りに徹したものだ。がっつり金属の鎧を着こんでいても俺と変わらぬ足取りで歩けたりするのは、門番さんの能力もあるだろうが加護で重さが緩和されるからだったりする。槍と盾を持っていても機動力が落ちないってのも便利そうだ。
「結構高いっすねレベル」
「前にいたギルドが街から離れた大物ばっか狙って、周辺の街を襲うタイプをスルーしてたせいでな……。君も新人の割に詳しいじゃないですか。ベテランでも門番が加護を受けていることを知らん奴は多いんですよ?」
わー、レベルのせいで新人だと思われてる。結構長いんだけどな俺。まぁそういうことにしておこう。
「まぁ、己を知らば百戦危うからずですよ」
勉強しているのも事実だし。
「しかしこうも種類を問わず魔物を駆逐されちゃ手がかりがないな……」
俺は口が聞ける魔物から情報を得ようとも考えていたが、片っ端から倒されてしまってはどうしようもない。
「審問官のスキルで何か分かるんです?」
「いや、もし話せる魔物で敵意が無ければフィルセ見てないか聞きたかったんですけど……」
「魔物と話す?」
俺は戦いを避ける為に自然と魔物と話す様になったが、やはり驚かれてしまうか。言葉が通じても話は通じない、と魔物は言われている。俺が会話でどうにか出来るのも利害が一致した時だけだし。
「まぁ嫌がられるっすよね……。故郷でも話すなって言われてたんで」
「嫌というか……後々やりにくくならないですかそれ?」
門番は話すことで倒すことに躊躇いが出ないかという心配をしていたらしい。そもそも俺の村じゃ倒せるレベルじゃなかったから考えもしなかった……。
「あー、倒せる相手じゃなかったら思いもしなかった……」
「情報を聞くなら妖精の方がいいですよ。ほらあそこ」
門番が指差す方には青い光の球に羽根が生えたものが飛んでいた。そこに近づくと、門番は話しかけた。
「やぁ、この辺りでフェンサーの女の子を見なかったかい?」
「あー、バスターさんだー。魔力ちょうだーい」
こんなの、サナトリ村にはいなかったぞ? この土地限定の何か? 看破によるとレベル3の『ガドナピクシー』というものらしいが、なんか感じが魔物とは違う様な……。
「フェンサーの子は話しかけても無視しちゃうから困っちゃう」
「そうか」
門番は手を翳して魔力を渡す。すると、妖精が何らかの魔法を唱えたのか光が門番を包む。これは初歩の防御魔法、この妖精の名前にもあるガドナか。
「魔力を貰ってバフしてもらうのか」
つまり積極的にバスターを助ける存在、ということか。フィルセはこれを知っているのか知らないのか、活用しない様だ。
「もしかしてあいつ、これ知らないんじゃ……」
「そんなことないよー。知らないっぽい人には教えてあげるもん」
ガドナピクシーは俺みたいに他所から来たりでこれを知らない人には丁寧に教えてくれるらしい。まぁ向こうも魔力貰えて得するからな。
「サナトリ村にはいないなぁ。この辺に住んでるの?」
「私達はこの辺に住んでいるけど、どこにでもいるはずだよー?」
え? どこにでもいるもんがサナトリ村にだけいない?
「あの村、妙に魔物強いしそれが関係してる?」
「わたしたち魔物には襲われないよー」
妖精は魔物に襲われることはないとのこと。んじゃあなんでサナトリ村にいないんだ?
「封印の影響か?」
そういえば封印される様な魔物は土地を汚染する能力があるっていうから、そのせいで妖精がいられない土地になっているのか? でも作物は普通に育つし……。
「魔力欲しいからサナトリってとこにもいってみようかなー」
妖精はよほど魔力が必要なのか、サナトリ村への出張を考えていた。辞めといた方がいいと思うけど。
「でも魔力って自分で練れるんじゃないのか? 妖精は違うってこと?」
「ちょっとたくさん欲しいのー。自分の魔力使っちゃうとお腹ぺこぺこー」
どうやら何か事情があって魔力を集めているらしい。他の妖精も集めているっぽいし、種族でなにかしているのか。人間に悪いことじゃなきゃいいが……。
「そうだ、フェンサーの子を探してくれたらもっと魔力を上げよう。どうかな?」
「分かった、みんなで探すー」
門番は妖精の力を借りることにした。とにかく今は妖精の手も借りたい。この辺りでもしも依頼を受けることがあるなら、妖精のことも覚えておこう。バフしてくれるのはありがたい。
「そういえば変な魔物見つけたんすよ。ストーンカだけど変な名前になってて妙に強そうなの」
俺は昨日見つけた奇妙なモンスターの話をする。互いに知っている情報は出来る限り出した方がいいだろう。
「もしかして、それって名前の前に何かついてなかったですか?」
「ああ、そうですね。雷氷のストーンカとかいってたな……」
あの一帯の主なのか、門番もそいつを知っていた。
「あれはユニークモンスターといって、成長して通常より強くなった魔物なんです。普通の魔物と思って戦うと返り討ちに遭う可能性がある危険な相手です」
「参ったな……昨日フィルセがそいつと戦っていた時にヤバかったから連れて逃げたけど……まさかリベンジに……」
そんな危険そうな魔物に手負いかつ一人で挑もうというのか。なんて奴。これは早急に探さないといけない。
「そんなのがいるというなら、ああ、これ持っていきましょう」
門番は地面を探り、何かを手にした。先ほどの妖精の様に丸いが、こちらはもこもこしており羽根ではなく小さな足が生えている。色も様々だ。
「これも妖精?」
「いえ、魔物になる前の卵的な……スダマというものです」
ここにはいろんなもんがあるんだな。村じゃ全然見なかった。
「サナトリ村にいないもんが街にはいるんだなぁ……さっすが都会」
「エンタールの街もそんなに都会じゃないですよ。まぁこれがあれば逃げるのに役立つでしょう」
そういえばあの街の名前を知らなかった。エンタールっていうのか。
「というか魔物の前段階なので見ないことはないでしょうこれ」
「ええ?」
このスダマも妖精と同じくどこにでもいるものらしい。そんなものがないサナトリ村、いよいよきな臭い。
「おーい!」
「ん? さっきと違う妖精だ」
話し込んでいると、今度は赤い妖精が飛んできた。何か見つけたのか?
「あっちで仲間がフェンサーの子見つけたって! ついてきて!」
「でかした!」
妖精たちのネットワークは優れているのか、思いの外早くフィルセと思わしき人物が見つかった。俺達は妖精について行き、山を走っていく。
「もしかすると例のストーンカがいるかも……。強そうな魔物はいなかったか?」
「いたよ! なんかすっごい黒いの!」
妖精にストーンカがいるかどうか聞いたが、どうも別の魔物っぽい。あの時は暗くて色までははっきりわからなかったが、ストーンカって黒というより赤っぽいよな?
「牛か?」
「ううん。アンデッド!」
「おいおい……そんなにバンバン強い魔物に出られても困るぞ……」
話を聞くに例のストーンカとは違うものらしい。アンデッドなら俺の魔法も多少聞くだろうが……。
「ここここ!」
妖精が示した場所は、滅んだ村らしき場所であった。なんだか周囲と空気が違う。ここだけ死の匂いが漂っているのか、妙に暗い。散乱している骸骨なんか今にも動き出しそうだ。
「ダンジョン……気を付けてください」
「ええ? ダンジョンに入っちまったのか?」
こういう魔力が濃い魔物の巣窟をダンジョンと呼ぶ。向こうのホームだけに、いつもより注意が必要だ。
「こっちだよー」
「行きましょう。ダンジョンに一人で入ったとなると危ないです」
「ああ」
妖精がフィルセの居場所まで案内してくれる。いくらレベルが高くてもダンジョンとなれば事故が起きる危険だって多い。ましてやあいつは負傷している。急ぐ必要がある。
「敵のレベルは大体20前後か」
看破スキルによって遠くでうろついている敵の情報を得る。これ俺は全く歯が立たない奴だな……。とか思っていたら武器を持った骸骨達が道を阻む。レベル13、スケルトンか。
「くっ、急いでるってのに!」
看破スキルは壁を貫通して見えるわけではないので、こう物陰から飛び出してこられてはどうしようもない。森なら木の陰から多少姿が見えるおかげで一方的に看破も出来なくないが……。
このダンジョンは元が村なだけに道から外れようにも建物が邪魔。逃げ回っているといつまでもフィルセの元には辿り着かないだろう。
「倒します! 援護を!」
「あ、ああ」
門番が槍を手に前へ出る。倒せないレベルではないんだろうが、俺が足手まといにならないか心配だ。
「ゼナシバ!」
サナトリ村近辺の骸骨には効いたがこいつにはどうだ? 効きはしたが時間が問題だ。
「ふん!」
門番がしっかり力を入れて槍でスケルトンを貫く。確実に一体を撃破し、残る敵に向き直る。まだ骸骨は金縛りに遭ったままだ。
「いつもより時間が長い……?」
そういえばこいつら、スケルトンナイトよりレベル低い方だな。それが関係しているのか?
「これでラスト!」
結局全員倒すまで金縛りは継続したままだった。理由はともかくこのまま突き進むまでだ。
「なかなか魔法の熟練度高いじゃないですか」
「あれしか使えないもので……」
あんな一部の敵にしか効かない魔法が熟練しても何の意味もないと思ったが、今回ばかりは助かった。スケルトンやゾンビなどの雑魚アンデッドは俺がゼナシバして門番に倒してもらいながら先へ進む。
「アンデッドだらけなのは助かるやら面倒やら……」
魔物が多くて鬱陶しいが、全員アンデッドなおかげで俺の魔法が生きる。幸か不幸かって奴だ。
「もう少しだよ!」
「よっしゃ!」
俺達はついにフィルセを見つけることが出来た。だが、三体も黒い靄を纏った不気味なローブ野郎が彼女を囲んでいる。看破によると魔物であることが分かった。
「ぐっ……」
フィルセは敵に妙な状態異常を喰らったのか、手にした斧から伸びる茨が身体に巻き付いて動けなくなっていた。服の下から血がにじむほど、鋭い棘が身体に食い込んでいる。それだけでなく、戦闘のダメージもあって意識が朦朧としていた。
「フィルセちゃん!」
「お前……余計な……」
門番はフィルセと敵の間に割って入る。
「悔恨の処刑人……? なんだこの魔物……」
「気を付けて! 多分完全ユニークです!」
一体は死体になって転がっているが、残り三体。レベルは28か……。
「ダンジョンの中じゃ魔力が邪魔して帰り羽根は使えません……。どうにか外へ出なければ」
「よし、ならばゼナシバ!」
俺はいつもの様に敵全体を金縛りにして逃亡を図る。効きはしたがいつまで持つかだ。俺と門番はフィルセを抱えて逃走した。
「完全ユニークってなんです?」
「他に類を見ない強力な魔物です! レベル以上に厄介なので逃げるが勝ちです!」
動けなくなった彼女を抱えてえっちらおっちら逃げるしかない俺達にそんな強そうな魔物を倒す余裕はない。だが、敵はすぐに回り込んでくる。
「くっそ、金縛りでも時間が稼ぎ切れねぇ!」
「このままだと他の魔物も寄ってくるかも……」
敵のしつこさは異常で、こいつらに追われながら他の魔物に出くわしたら処理し切れないだろう。
「倒すしかないですね」
「行けるんですか?」
「やらなきゃならんでしょ!」
門番は敵を倒すという選択をした。この人がいくら強くても負傷したフィルセと足手まといの俺を連れてどこまでやれるか。
「ゼナシバ!」
「行きます!」
俺が金縛りをかけ、妖精がバフをしかけ門番が攻撃する。槍で突かれてもこの敵は多少後退するだけであまり効いていない様に見える。
「アンデッド特有の無痛か……」
「私など……置いていけ……」
フィルセが馬鹿なことを言っているが、んなわけにはいかん。
「そういうわけにゃならんのだよ!」
俺も援護がてら腹部へ斧を突き立てる。すると、何故か門番の攻撃よりも痛打になったのか片膝を付いて蹲る。
「なんだ?」
不審な動きなので深追いはせずに一旦下がる。傷口を手で抑え、明らかにダメージを自覚している……?
「そうか、審問官の人型特攻とアンデッド特攻の加護!」
「え? でもそんなもんあったら今までももっと楽に……」
門番によると審問官のスキルらしいが、そんなんあったらスケルトンナイト倒して稼げたんだよなぁ……。
「加護を示して! レベルが上がっているはず!」
「本当だ……4倍くらい増えてる」
門番の言う通りに加護を示してみると、数字が3から12になっている。劇的過ぎるレベルアップだ。その影響で審問官のスキルが新たに解禁されたのか。
「こんなエリアでそんなにレベルアップ……? どんだけ弱かったっていうの?」
「ええい余計なお世話だ!」
フィルセの言う通りなんだが今回はそれで助かったんだからいいだろ別に。
「一気に畳み掛けましょう! これなら倒せる!」
そしてあろうことか門番は俺を軸に戦術を組み立て始めた。責任重大だ。
「こうならとことん! ゼナシバ!」
再び敵を金縛りにして攻撃開始。俺が腹を打ち据えた奴に集中して叩き込む。まずは頭数を減らすのだ。
「おおお!」
門番が盾を構えて体当たりをする。シールドバッシュだ。これを受けた敵は大きく体勢を崩す。倒れるまではいかないが、隙が出来た。
「当たれ!」
俺は門番が引いたのを見て、敵の頸筋に斧を叩き込む。知り合いの爺さんに死ぬほど薪割りやらされたおかげで、斧の間合いや振り方は身体が覚えている。斧は首の骨に食い込んで止まる。このままでは敵の反撃を受けるが、抜くには時間が掛かりそうだ。
「これだ!」
だが、斧は叩くだけではない。こういう風に挟まった時は、捻って切り開け!
「しゃおらああ!」
斧をねじり、俺は敵の頭を飛ばした。だが、その代償に斧の柄が腐っていたのか折れてしまった。
「ああ!」
「一体は倒せたましたが……」
まだ残り二体もいる上、ダンジョンから脱出するまでに強力な魔物に出くわす可能性さえある。これはどうしようか……。
「あ、おいその斧貸せ!」
俺はフィルセが持っている斧を貰うことにした。もうこれしか頼れるものはない。
「手放せたらとっくにこんなもん捨ててる!」
「どういう……」
だが、斧は彼女の手に張り付いて動かない。なんだこれは?
「敵が動き出した!」
そうこうしているうちに金縛りが解けたらしく、敵が攻撃体勢に入る。そこで門番はさっき拾ったスダマを投げつける。
「あ、何してんだ!」
スダマは粉々になって光と消えた。代わりに敵が燃え始める。
「え? スダマはこうやって敵に投げて使うもの……」
「なんてかわいそうなことを……」
「一応放っておくと魔物になってしまうので」
なんてカルチャーギャップに戦慄している場合では無かった。武器も失い、ピンチは続行中だった。
「ええい、ゼナシバ!」
再度金縛りを行うが、何も起きない。まさかここに来て魔力切れか!」
「マズイ……」
「私を置いて逃げろ……そうすれば助かる」
「んなこと言ってもなぁ!」
フィルセの言う通りにすればまぁ助かるだろうが、それじゃまるで馬鹿みたい。何のためにここまで来たのやら。門番はお休み潰してきてくれてんだぞ。
「おーい!」
「あ、妖精だ……え?」
声が聞こえたのでそちらを見ると、妖精がわっさわさと沢山飛んできた。いくら単体では可愛らしいものといえ、こう群れになられるとキツイ。
「気持ち悪いな! どうしたこれ!」
「妖精王様が話を聞きたいって」
「悠長にお茶のお誘いか! 今生きるか死ぬかの鉄火場なんだよ!」
妖精王とやらは何か俺らに用事があるらしいが、それまでに生きているかは微妙なところだ。妖精はそんな状況もお構いなしに俺達を群れで囲むと、光輝いた。
「これは、上位の転移魔法!」
「なんだって?」
「まさかダンジョンから出してくれるんです?」
門番によると、こいつらは俺達を逃がしてくれるらしい。妖精の光が収まり、視界を塞いでいた群れが捌けていくとそこは滅びた村ではなく森の中、泉のある場所であった。
「な、なんだ?」
「ようこそおいでました。封印の地、サナトリのバスター」
目の前にはブロンドの髪を伸ばした美しい女性がいた。彼女が妖精王、なのか? 俺達は一難去ってなんとやら、また厄介なことに巻き込まれた様だ。
「そうだ、あの時は暗くてよく見えなかったけど特徴とか分かります?」
俺が彼女と出会ったの昨夜のこと。灯りも無かったので美人さん、くらいの印象しか残っていない。見た目もぼんやりしていては探せるものも探せない。
「髪の色は栗色、結構伸ばしています。いつもは緑の地味目な服を着ています。そのくらいですかね……装備が心許ないというのもありますが……」
「だったら急がないと……」
装備が俺同様に貧弱となれば、そんなに余裕はなさそうだ。しかし肝心の俺が土地勘もなければ戦力にもならねぇフィルセをよく知るわけでもねぇときた。
「門番さんは探すのに集中してください。俺が周囲を警戒します」
「頼んだ」
そこで俺は審問官のスキルを使い、魔物の接近を見張ることにした。山で薬草摘みにきた人が遭難することが多いのだが、それは薬草探しに夢中になって周囲が見えず、道を外れたり魔物に気づかなかったりするから。門番がフィルセを探すのに集中できるように、俺は警戒を強めるのがベストだ。
「おーい、フィルセー」
「どこに行ったんですかー?」
道中、フィルセがやったのか魔物の死体が散らばっていた。それもかなりの数だ。まさに死屍累々とはこのことか。
見たことがない種類だし、とっくに死んでいると看破でレベルも分からないが、例え一桁の雑魚でもこの数を始末するのは大変だ。
「ったく、レベル上げしたいのは分かるが死んだら元の木阿弥だろ……」
「いえ、あの子レベルは低くないんですが……」
そういえばレイピアを使ってたな。ということはソルジャーから一つ上がって上位職のフェンサーやれるくらい能力はあるんだよな……。
「そうか、フェンサーですもんねぇ。フェンサーって重い防具無理でしたっけ?」
加護を受けるということは、相応の制約がある。例えば装備なのだが、ジョブによっては装備すると加護が受けられないものがある。ドルイドの金属装備不可が有名だ。そうでなくとも、極東で盛んなニンジャというジョブみたいに防具を身に着けないことで恩恵があるパターンなども存在する。うちの村にはフェンサーがいなかったからその辺よく知らん。
「いや……フェンサーは身軽さが大事だから重い防具が好まれない程度のものだが……あの子は少し特殊というか……」
門番は言葉を濁す。たしかに俺は稼ぎがないから仕方なく家畜のものをなめした革のコートでお茶を濁しているが、フェンサーに昇り詰めるほどならもっといい防具、革や布でも魔物素材だったり魔力を帯びたものが買えるはず。だが、昨夜のことを思い出すと凍結も電撃も防げていない辺り普通の布服の疑いさえあるぞあれ。
「ん? あれは……」
話をしていると、魔物の死体に光を反射するものがあった。それは金属のレイピア……つまりフィルセの武器だ。
「武器を落とすなんて……」
「いえ、あの子は使い潰した武器を捨てていくので……」
「え?」
まさかの武器使い捨て。たしかにレイピアは刃がボロボロになっており、少し曲がっている。見た目から弱っちそうに見えるが、武器なのでそう簡単に刃こぼれしたり曲がったりされては困るのでそれなりに頑丈なはず。それがここまでになるなんて……。
「いくつかレイピアを持ち歩いて、その都度新しいものに切り替えてるんですよ。鍛冶屋で直してもらう手間を省くために……」
「なんて贅沢な……拾ってこ」
木剣さえ没収された俺からは羨ましい限りだ。金属の武器使い捨てなんて。フェンサーでないからうまく扱えないが、錆びた斧よりはいいだろう。
「そういえば門番さんもバスターではないけど加護は受けているんですね」
「ああ、加護を示せ」
門番さんは手の甲を見せると、昨日俺がした様に紋章を浮かべる。紋章も数字も俺とは違う。紋章はジョブ、数字はレベルを示す。門番、というジョブがあり、加護の内容も守りに徹したものだ。がっつり金属の鎧を着こんでいても俺と変わらぬ足取りで歩けたりするのは、門番さんの能力もあるだろうが加護で重さが緩和されるからだったりする。槍と盾を持っていても機動力が落ちないってのも便利そうだ。
「結構高いっすねレベル」
「前にいたギルドが街から離れた大物ばっか狙って、周辺の街を襲うタイプをスルーしてたせいでな……。君も新人の割に詳しいじゃないですか。ベテランでも門番が加護を受けていることを知らん奴は多いんですよ?」
わー、レベルのせいで新人だと思われてる。結構長いんだけどな俺。まぁそういうことにしておこう。
「まぁ、己を知らば百戦危うからずですよ」
勉強しているのも事実だし。
「しかしこうも種類を問わず魔物を駆逐されちゃ手がかりがないな……」
俺は口が聞ける魔物から情報を得ようとも考えていたが、片っ端から倒されてしまってはどうしようもない。
「審問官のスキルで何か分かるんです?」
「いや、もし話せる魔物で敵意が無ければフィルセ見てないか聞きたかったんですけど……」
「魔物と話す?」
俺は戦いを避ける為に自然と魔物と話す様になったが、やはり驚かれてしまうか。言葉が通じても話は通じない、と魔物は言われている。俺が会話でどうにか出来るのも利害が一致した時だけだし。
「まぁ嫌がられるっすよね……。故郷でも話すなって言われてたんで」
「嫌というか……後々やりにくくならないですかそれ?」
門番は話すことで倒すことに躊躇いが出ないかという心配をしていたらしい。そもそも俺の村じゃ倒せるレベルじゃなかったから考えもしなかった……。
「あー、倒せる相手じゃなかったら思いもしなかった……」
「情報を聞くなら妖精の方がいいですよ。ほらあそこ」
門番が指差す方には青い光の球に羽根が生えたものが飛んでいた。そこに近づくと、門番は話しかけた。
「やぁ、この辺りでフェンサーの女の子を見なかったかい?」
「あー、バスターさんだー。魔力ちょうだーい」
こんなの、サナトリ村にはいなかったぞ? この土地限定の何か? 看破によるとレベル3の『ガドナピクシー』というものらしいが、なんか感じが魔物とは違う様な……。
「フェンサーの子は話しかけても無視しちゃうから困っちゃう」
「そうか」
門番は手を翳して魔力を渡す。すると、妖精が何らかの魔法を唱えたのか光が門番を包む。これは初歩の防御魔法、この妖精の名前にもあるガドナか。
「魔力を貰ってバフしてもらうのか」
つまり積極的にバスターを助ける存在、ということか。フィルセはこれを知っているのか知らないのか、活用しない様だ。
「もしかしてあいつ、これ知らないんじゃ……」
「そんなことないよー。知らないっぽい人には教えてあげるもん」
ガドナピクシーは俺みたいに他所から来たりでこれを知らない人には丁寧に教えてくれるらしい。まぁ向こうも魔力貰えて得するからな。
「サナトリ村にはいないなぁ。この辺に住んでるの?」
「私達はこの辺に住んでいるけど、どこにでもいるはずだよー?」
え? どこにでもいるもんがサナトリ村にだけいない?
「あの村、妙に魔物強いしそれが関係してる?」
「わたしたち魔物には襲われないよー」
妖精は魔物に襲われることはないとのこと。んじゃあなんでサナトリ村にいないんだ?
「封印の影響か?」
そういえば封印される様な魔物は土地を汚染する能力があるっていうから、そのせいで妖精がいられない土地になっているのか? でも作物は普通に育つし……。
「魔力欲しいからサナトリってとこにもいってみようかなー」
妖精はよほど魔力が必要なのか、サナトリ村への出張を考えていた。辞めといた方がいいと思うけど。
「でも魔力って自分で練れるんじゃないのか? 妖精は違うってこと?」
「ちょっとたくさん欲しいのー。自分の魔力使っちゃうとお腹ぺこぺこー」
どうやら何か事情があって魔力を集めているらしい。他の妖精も集めているっぽいし、種族でなにかしているのか。人間に悪いことじゃなきゃいいが……。
「そうだ、フェンサーの子を探してくれたらもっと魔力を上げよう。どうかな?」
「分かった、みんなで探すー」
門番は妖精の力を借りることにした。とにかく今は妖精の手も借りたい。この辺りでもしも依頼を受けることがあるなら、妖精のことも覚えておこう。バフしてくれるのはありがたい。
「そういえば変な魔物見つけたんすよ。ストーンカだけど変な名前になってて妙に強そうなの」
俺は昨日見つけた奇妙なモンスターの話をする。互いに知っている情報は出来る限り出した方がいいだろう。
「もしかして、それって名前の前に何かついてなかったですか?」
「ああ、そうですね。雷氷のストーンカとかいってたな……」
あの一帯の主なのか、門番もそいつを知っていた。
「あれはユニークモンスターといって、成長して通常より強くなった魔物なんです。普通の魔物と思って戦うと返り討ちに遭う可能性がある危険な相手です」
「参ったな……昨日フィルセがそいつと戦っていた時にヤバかったから連れて逃げたけど……まさかリベンジに……」
そんな危険そうな魔物に手負いかつ一人で挑もうというのか。なんて奴。これは早急に探さないといけない。
「そんなのがいるというなら、ああ、これ持っていきましょう」
門番は地面を探り、何かを手にした。先ほどの妖精の様に丸いが、こちらはもこもこしており羽根ではなく小さな足が生えている。色も様々だ。
「これも妖精?」
「いえ、魔物になる前の卵的な……スダマというものです」
ここにはいろんなもんがあるんだな。村じゃ全然見なかった。
「サナトリ村にいないもんが街にはいるんだなぁ……さっすが都会」
「エンタールの街もそんなに都会じゃないですよ。まぁこれがあれば逃げるのに役立つでしょう」
そういえばあの街の名前を知らなかった。エンタールっていうのか。
「というか魔物の前段階なので見ないことはないでしょうこれ」
「ええ?」
このスダマも妖精と同じくどこにでもいるものらしい。そんなものがないサナトリ村、いよいよきな臭い。
「おーい!」
「ん? さっきと違う妖精だ」
話し込んでいると、今度は赤い妖精が飛んできた。何か見つけたのか?
「あっちで仲間がフェンサーの子見つけたって! ついてきて!」
「でかした!」
妖精たちのネットワークは優れているのか、思いの外早くフィルセと思わしき人物が見つかった。俺達は妖精について行き、山を走っていく。
「もしかすると例のストーンカがいるかも……。強そうな魔物はいなかったか?」
「いたよ! なんかすっごい黒いの!」
妖精にストーンカがいるかどうか聞いたが、どうも別の魔物っぽい。あの時は暗くて色までははっきりわからなかったが、ストーンカって黒というより赤っぽいよな?
「牛か?」
「ううん。アンデッド!」
「おいおい……そんなにバンバン強い魔物に出られても困るぞ……」
話を聞くに例のストーンカとは違うものらしい。アンデッドなら俺の魔法も多少聞くだろうが……。
「ここここ!」
妖精が示した場所は、滅んだ村らしき場所であった。なんだか周囲と空気が違う。ここだけ死の匂いが漂っているのか、妙に暗い。散乱している骸骨なんか今にも動き出しそうだ。
「ダンジョン……気を付けてください」
「ええ? ダンジョンに入っちまったのか?」
こういう魔力が濃い魔物の巣窟をダンジョンと呼ぶ。向こうのホームだけに、いつもより注意が必要だ。
「こっちだよー」
「行きましょう。ダンジョンに一人で入ったとなると危ないです」
「ああ」
妖精がフィルセの居場所まで案内してくれる。いくらレベルが高くてもダンジョンとなれば事故が起きる危険だって多い。ましてやあいつは負傷している。急ぐ必要がある。
「敵のレベルは大体20前後か」
看破スキルによって遠くでうろついている敵の情報を得る。これ俺は全く歯が立たない奴だな……。とか思っていたら武器を持った骸骨達が道を阻む。レベル13、スケルトンか。
「くっ、急いでるってのに!」
看破スキルは壁を貫通して見えるわけではないので、こう物陰から飛び出してこられてはどうしようもない。森なら木の陰から多少姿が見えるおかげで一方的に看破も出来なくないが……。
このダンジョンは元が村なだけに道から外れようにも建物が邪魔。逃げ回っているといつまでもフィルセの元には辿り着かないだろう。
「倒します! 援護を!」
「あ、ああ」
門番が槍を手に前へ出る。倒せないレベルではないんだろうが、俺が足手まといにならないか心配だ。
「ゼナシバ!」
サナトリ村近辺の骸骨には効いたがこいつにはどうだ? 効きはしたが時間が問題だ。
「ふん!」
門番がしっかり力を入れて槍でスケルトンを貫く。確実に一体を撃破し、残る敵に向き直る。まだ骸骨は金縛りに遭ったままだ。
「いつもより時間が長い……?」
そういえばこいつら、スケルトンナイトよりレベル低い方だな。それが関係しているのか?
「これでラスト!」
結局全員倒すまで金縛りは継続したままだった。理由はともかくこのまま突き進むまでだ。
「なかなか魔法の熟練度高いじゃないですか」
「あれしか使えないもので……」
あんな一部の敵にしか効かない魔法が熟練しても何の意味もないと思ったが、今回ばかりは助かった。スケルトンやゾンビなどの雑魚アンデッドは俺がゼナシバして門番に倒してもらいながら先へ進む。
「アンデッドだらけなのは助かるやら面倒やら……」
魔物が多くて鬱陶しいが、全員アンデッドなおかげで俺の魔法が生きる。幸か不幸かって奴だ。
「もう少しだよ!」
「よっしゃ!」
俺達はついにフィルセを見つけることが出来た。だが、三体も黒い靄を纏った不気味なローブ野郎が彼女を囲んでいる。看破によると魔物であることが分かった。
「ぐっ……」
フィルセは敵に妙な状態異常を喰らったのか、手にした斧から伸びる茨が身体に巻き付いて動けなくなっていた。服の下から血がにじむほど、鋭い棘が身体に食い込んでいる。それだけでなく、戦闘のダメージもあって意識が朦朧としていた。
「フィルセちゃん!」
「お前……余計な……」
門番はフィルセと敵の間に割って入る。
「悔恨の処刑人……? なんだこの魔物……」
「気を付けて! 多分完全ユニークです!」
一体は死体になって転がっているが、残り三体。レベルは28か……。
「ダンジョンの中じゃ魔力が邪魔して帰り羽根は使えません……。どうにか外へ出なければ」
「よし、ならばゼナシバ!」
俺はいつもの様に敵全体を金縛りにして逃亡を図る。効きはしたがいつまで持つかだ。俺と門番はフィルセを抱えて逃走した。
「完全ユニークってなんです?」
「他に類を見ない強力な魔物です! レベル以上に厄介なので逃げるが勝ちです!」
動けなくなった彼女を抱えてえっちらおっちら逃げるしかない俺達にそんな強そうな魔物を倒す余裕はない。だが、敵はすぐに回り込んでくる。
「くっそ、金縛りでも時間が稼ぎ切れねぇ!」
「このままだと他の魔物も寄ってくるかも……」
敵のしつこさは異常で、こいつらに追われながら他の魔物に出くわしたら処理し切れないだろう。
「倒すしかないですね」
「行けるんですか?」
「やらなきゃならんでしょ!」
門番は敵を倒すという選択をした。この人がいくら強くても負傷したフィルセと足手まといの俺を連れてどこまでやれるか。
「ゼナシバ!」
「行きます!」
俺が金縛りをかけ、妖精がバフをしかけ門番が攻撃する。槍で突かれてもこの敵は多少後退するだけであまり効いていない様に見える。
「アンデッド特有の無痛か……」
「私など……置いていけ……」
フィルセが馬鹿なことを言っているが、んなわけにはいかん。
「そういうわけにゃならんのだよ!」
俺も援護がてら腹部へ斧を突き立てる。すると、何故か門番の攻撃よりも痛打になったのか片膝を付いて蹲る。
「なんだ?」
不審な動きなので深追いはせずに一旦下がる。傷口を手で抑え、明らかにダメージを自覚している……?
「そうか、審問官の人型特攻とアンデッド特攻の加護!」
「え? でもそんなもんあったら今までももっと楽に……」
門番によると審問官のスキルらしいが、そんなんあったらスケルトンナイト倒して稼げたんだよなぁ……。
「加護を示して! レベルが上がっているはず!」
「本当だ……4倍くらい増えてる」
門番の言う通りに加護を示してみると、数字が3から12になっている。劇的過ぎるレベルアップだ。その影響で審問官のスキルが新たに解禁されたのか。
「こんなエリアでそんなにレベルアップ……? どんだけ弱かったっていうの?」
「ええい余計なお世話だ!」
フィルセの言う通りなんだが今回はそれで助かったんだからいいだろ別に。
「一気に畳み掛けましょう! これなら倒せる!」
そしてあろうことか門番は俺を軸に戦術を組み立て始めた。責任重大だ。
「こうならとことん! ゼナシバ!」
再び敵を金縛りにして攻撃開始。俺が腹を打ち据えた奴に集中して叩き込む。まずは頭数を減らすのだ。
「おおお!」
門番が盾を構えて体当たりをする。シールドバッシュだ。これを受けた敵は大きく体勢を崩す。倒れるまではいかないが、隙が出来た。
「当たれ!」
俺は門番が引いたのを見て、敵の頸筋に斧を叩き込む。知り合いの爺さんに死ぬほど薪割りやらされたおかげで、斧の間合いや振り方は身体が覚えている。斧は首の骨に食い込んで止まる。このままでは敵の反撃を受けるが、抜くには時間が掛かりそうだ。
「これだ!」
だが、斧は叩くだけではない。こういう風に挟まった時は、捻って切り開け!
「しゃおらああ!」
斧をねじり、俺は敵の頭を飛ばした。だが、その代償に斧の柄が腐っていたのか折れてしまった。
「ああ!」
「一体は倒せたましたが……」
まだ残り二体もいる上、ダンジョンから脱出するまでに強力な魔物に出くわす可能性さえある。これはどうしようか……。
「あ、おいその斧貸せ!」
俺はフィルセが持っている斧を貰うことにした。もうこれしか頼れるものはない。
「手放せたらとっくにこんなもん捨ててる!」
「どういう……」
だが、斧は彼女の手に張り付いて動かない。なんだこれは?
「敵が動き出した!」
そうこうしているうちに金縛りが解けたらしく、敵が攻撃体勢に入る。そこで門番はさっき拾ったスダマを投げつける。
「あ、何してんだ!」
スダマは粉々になって光と消えた。代わりに敵が燃え始める。
「え? スダマはこうやって敵に投げて使うもの……」
「なんてかわいそうなことを……」
「一応放っておくと魔物になってしまうので」
なんてカルチャーギャップに戦慄している場合では無かった。武器も失い、ピンチは続行中だった。
「ええい、ゼナシバ!」
再度金縛りを行うが、何も起きない。まさかここに来て魔力切れか!」
「マズイ……」
「私を置いて逃げろ……そうすれば助かる」
「んなこと言ってもなぁ!」
フィルセの言う通りにすればまぁ助かるだろうが、それじゃまるで馬鹿みたい。何のためにここまで来たのやら。門番はお休み潰してきてくれてんだぞ。
「おーい!」
「あ、妖精だ……え?」
声が聞こえたのでそちらを見ると、妖精がわっさわさと沢山飛んできた。いくら単体では可愛らしいものといえ、こう群れになられるとキツイ。
「気持ち悪いな! どうしたこれ!」
「妖精王様が話を聞きたいって」
「悠長にお茶のお誘いか! 今生きるか死ぬかの鉄火場なんだよ!」
妖精王とやらは何か俺らに用事があるらしいが、それまでに生きているかは微妙なところだ。妖精はそんな状況もお構いなしに俺達を群れで囲むと、光輝いた。
「これは、上位の転移魔法!」
「なんだって?」
「まさかダンジョンから出してくれるんです?」
門番によると、こいつらは俺達を逃がしてくれるらしい。妖精の光が収まり、視界を塞いでいた群れが捌けていくとそこは滅びた村ではなく森の中、泉のある場所であった。
「な、なんだ?」
「ようこそおいでました。封印の地、サナトリのバスター」
目の前にはブロンドの髪を伸ばした美しい女性がいた。彼女が妖精王、なのか? 俺達は一難去ってなんとやら、また厄介なことに巻き込まれた様だ。
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