穏やかな日々の中で。

らむ音

文字の大きさ
上 下
14 / 16

11

しおりを挟む
「ここは……?」
「ほら、行くぞ。」
「え、ちょ、ちょっと待って!」

戸惑いながらも彼の後に続き、扉を開けると同時に鐘の音が鳴る。
中に入ると、そこには――一面の花畑が広がっていた。
赤や黄緑、白といった様々な色の花々が咲き誇っている。風に乗って花の香りが流れてくる。とても綺麗で幻想的な光景に目を奪われた。

「わぁ……すごい……!」

呟いた言葉に、ザックスは満足げに笑って言った。

「気に入ったか?」
「もちろん。でもどうしてここに連れてきてくれたの?何か思い入れがあるとか……?」

そう尋ねると、彼は懐かしむように目を細めた後で言う。

「……この景色をお前に見せたかったんだ。」
「私に?」
「ああ。前に話したことあったよな?俺には"家族がいない""故郷もない"って。この場所は、俺が初めて冒険者として認められた場所なんだ。」
「……初めて?でもSランクなんじゃ……」
「まあ、そうなんだけどな。」

ザックスは苦笑しながら続ける。

「俺の容姿を馬鹿にする奴らはどこにだっているからな。そういう連中に絡まれたり、謂れのない中傷を受けて心が疲弊した時によくここに来てたんだ。」

その言葉に胸が痛くなる。彼がどんな気持ちで過ごしてきたのか、想像するだけで苦しくなった。私が黙ったまま俯いていると、頭上から声が降ってきた。
顔を上げると、優しい眼差しと目が合う。

「そんな顔するな。今はもう平気だからさ。それに――」

「――俺には、大切な人がいるから。」

その言葉に、じんわりと心が満たされていく。嬉しくて堪らない。私もザックスさんを大切にしたい。

「だから思うんだ。お前だけは絶対に失いたくないってな。」
「ザックス……」

(私もザックスと同じ気持ち。急に異世界転移して一人ぼっちで……ザックスがいなくなるなんてことはもう考えられないくらい。今こうしているだけで、すごく幸せ!)

「ねぇザックス。あなたに出会えたことが私にとって一番の幸せだよ。だからこれからも、ずっとずっと一緒にいようね。」


想いが伝わってほしくて彼の手をぎゅっと握り返すと、「ありがとう」という言葉とともに額に優しいキスが落とされた。ふわりと抱きしめられれば、大好きな香りに包まれて胸の奥が甘く疼く。
それからしばらくの間、私達はお互いの存在を確かめ合うかのように寄り添っていた。

帰り道の途中、ふと思ったことを口にする。

「ねえ」
「ん?どうかしたか?」
「来年もその先も、またこうして此処に来ようね。」

耳元で囁くように言うと、彼は一瞬目を見開いた後、嬉しそうに笑った。



それから数年後、再びこの場所を訪れた二人は誓い通り結婚することになるのだが……それはもう少し先の話である。


再び手を繋いで歩き出す。私達の未来に向かって。
彼等の日常は続いていく。愛しい人と笑いながら過ごす、甘く、穏やかな日々の中で。







【END】
――――――――――――――――――――
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。 少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
番外編も投稿する予定なので、またお付き合いくださいませ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!

エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。 間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。  恋人を作ろう!と。  そして、お金を恵んでもらおう!と。  ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。  捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?  聞けば、王子にも事情があるみたい!  それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!  まさかの狙いは私だった⁉︎  ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。  ※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。

娼館から出てきた男に一目惚れしたので、一晩だけ娼婦になる。

sorato
恋愛
ある日、ミーナは鮮烈な一目惚れを経験した。 娼館から出てきたその男に抱いてもらうため、ミーナは娼館に駆け込み1日だけ働けないか娼館の店主へと交渉する。ミーナがその男に娼婦としてつくことになったのは、「仮面デー」と呼ばれるお互い素顔を隠して過ごす特殊な日で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 主人公のミーナは異世界転生していますが、美醜観だけ影響する程度でありそれ以外の大きな転生要素はありません。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 見なくても全く影響はありませんが、「気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。」と同じ世界観のお話です。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

処理中です...