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「世話になったな。俺はもう行く。」
そう言って立ち上がる彼の背中を慌てて呼び止める。
「待って下さい!まだ休んでないとダメですよ。せめて完治するまではここにいて?」
「いいや、これ以上シノに甘えるわけにはいかない。それに俺が居たらシノに負担がかかるだろ?だからもう帰る。……またな。」
(またこの人は……。この期に及んで何を言っているのさ。)
「……分かりました。じゃあ、これだけは約束してくださいね?必ず定期的にお店に来ること!でも無理して来ないこと!いいですね、守らなかったら許しませんからね!!」
両手で拳をつくり真剣に訴えると、彼は驚いたように目を見開いていたが、やがてふっと表情を和らげて笑った。
彼は小さく首肯して踵を返すと、扉に手をかける。そしてドアノブを握ったまま立ち止まった。
不思議に思って首を傾げると、彼は静かに口を開いた。
「ありがとうな。」
その声音は少しだけ震えているように思えた。
(あれ……?)
ふと違和感を覚えて、じっと見つめる。
「……っ」
ザックスは何かを言いかけたが、すぐに口を閉ざすと逃げるようにして部屋を出て行ってしまった。
―パタン― 扉が閉じられる音が響く。
「行っちゃった……」
途端に寂しさが込み上げてきて、彼の温もりが残るベッドに身体を沈め、そして目を閉じた。
***
(ザックスさん今日も来てくれるかな~。)
自然と心が弾む。最近は彼に会える日が待ち遠しくなっていた。
(って、いけないいけない。またザックスさんのこと考えてた。今は仕事中なんだから変なこと考えちゃダメ!)
頭をぶんぶん振って邪念を払う。
すると――
「シノ」
――名前を呼ばれ、どきりとして振り返る。そこには、いつの間にか彼が立っていた。
「ザックスさん!?」
「ああ。」
「来てくださったんですね!嬉しいです!」
私は満面の笑みで彼を出迎えた。
(ふふ、やっぱり顔見ると安心するなぁ。)
そう思うと同時に、何故か無性に彼のことが愛おしくなった。もっと近くに行きたいと思い、気付けば彼の方へ足を踏み出していた。
しかし――
――私はピタリと動きを止める。……いや、止められてしまったのだ。彼が私の身体を押し返したことによって。
「あ……す、すみません!」
ハッとして謝罪する。
(私ったら何やってるんだろう。いきなり近付きすぎたよね……。どうしよう、嫌われたかも……)
急に怖くなって恐る恐る顔を上げると、彼はとても苦しそうな顔をして私を見ていた。
「……っ、悪い。」
「いえ、悪いのは私です。もうしませんから。」
今にも泣き出しそうな自分を必死に抑えながら、精一杯の作り笑いを浮かべる。彼は何も言わずただ俯いていた。そんな姿を見ているうちに、次第に胸が痛くなり鼻の奥がツンとする。
(あ、これやばい。駄目だ。泣くな私!)
ギュッと目を瞑って涙を堪えるが、一度緩んでしまった感情はそう簡単には戻らない。……それでもなんとか耐えようと頑張ったが、とうとう限界がきてぽたりと雫が零れ落ちた。
すると――
ふわりと温もりに包まれた。突然の出来事に驚いて固まっていると、耳元で囁かれる。
「泣かないでくれ。頼むから……」
切実な響きを持ったその言葉に、ますます胸が締め付けられた。彼の熱いくらいの体温を感じて、トクントクンと規則正しく刻む鼓動を聞いて、徐々に落ち着きを取り戻す。
……どのくらいそうしていただろうか。しばらくしてようやく離れると、彼は照れたように視線を落とした。
(うわ、なんか凄い恥ずかしいんだけど!?)
自分の行動を思い返して、羞恥で死にそうになる。穴があったら入りたいとはこのことだ。でも、嫌な気持ちは全くなくて……むしろ心地良いとさえ感じていた自分に戸惑っていた。
***
そう言って立ち上がる彼の背中を慌てて呼び止める。
「待って下さい!まだ休んでないとダメですよ。せめて完治するまではここにいて?」
「いいや、これ以上シノに甘えるわけにはいかない。それに俺が居たらシノに負担がかかるだろ?だからもう帰る。……またな。」
(またこの人は……。この期に及んで何を言っているのさ。)
「……分かりました。じゃあ、これだけは約束してくださいね?必ず定期的にお店に来ること!でも無理して来ないこと!いいですね、守らなかったら許しませんからね!!」
両手で拳をつくり真剣に訴えると、彼は驚いたように目を見開いていたが、やがてふっと表情を和らげて笑った。
彼は小さく首肯して踵を返すと、扉に手をかける。そしてドアノブを握ったまま立ち止まった。
不思議に思って首を傾げると、彼は静かに口を開いた。
「ありがとうな。」
その声音は少しだけ震えているように思えた。
(あれ……?)
ふと違和感を覚えて、じっと見つめる。
「……っ」
ザックスは何かを言いかけたが、すぐに口を閉ざすと逃げるようにして部屋を出て行ってしまった。
―パタン― 扉が閉じられる音が響く。
「行っちゃった……」
途端に寂しさが込み上げてきて、彼の温もりが残るベッドに身体を沈め、そして目を閉じた。
***
(ザックスさん今日も来てくれるかな~。)
自然と心が弾む。最近は彼に会える日が待ち遠しくなっていた。
(って、いけないいけない。またザックスさんのこと考えてた。今は仕事中なんだから変なこと考えちゃダメ!)
頭をぶんぶん振って邪念を払う。
すると――
「シノ」
――名前を呼ばれ、どきりとして振り返る。そこには、いつの間にか彼が立っていた。
「ザックスさん!?」
「ああ。」
「来てくださったんですね!嬉しいです!」
私は満面の笑みで彼を出迎えた。
(ふふ、やっぱり顔見ると安心するなぁ。)
そう思うと同時に、何故か無性に彼のことが愛おしくなった。もっと近くに行きたいと思い、気付けば彼の方へ足を踏み出していた。
しかし――
――私はピタリと動きを止める。……いや、止められてしまったのだ。彼が私の身体を押し返したことによって。
「あ……す、すみません!」
ハッとして謝罪する。
(私ったら何やってるんだろう。いきなり近付きすぎたよね……。どうしよう、嫌われたかも……)
急に怖くなって恐る恐る顔を上げると、彼はとても苦しそうな顔をして私を見ていた。
「……っ、悪い。」
「いえ、悪いのは私です。もうしませんから。」
今にも泣き出しそうな自分を必死に抑えながら、精一杯の作り笑いを浮かべる。彼は何も言わずただ俯いていた。そんな姿を見ているうちに、次第に胸が痛くなり鼻の奥がツンとする。
(あ、これやばい。駄目だ。泣くな私!)
ギュッと目を瞑って涙を堪えるが、一度緩んでしまった感情はそう簡単には戻らない。……それでもなんとか耐えようと頑張ったが、とうとう限界がきてぽたりと雫が零れ落ちた。
すると――
ふわりと温もりに包まれた。突然の出来事に驚いて固まっていると、耳元で囁かれる。
「泣かないでくれ。頼むから……」
切実な響きを持ったその言葉に、ますます胸が締め付けられた。彼の熱いくらいの体温を感じて、トクントクンと規則正しく刻む鼓動を聞いて、徐々に落ち着きを取り戻す。
……どのくらいそうしていただろうか。しばらくしてようやく離れると、彼は照れたように視線を落とした。
(うわ、なんか凄い恥ずかしいんだけど!?)
自分の行動を思い返して、羞恥で死にそうになる。穴があったら入りたいとはこのことだ。でも、嫌な気持ちは全くなくて……むしろ心地良いとさえ感じていた自分に戸惑っていた。
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