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それからというもの、ザックスは度々私の店先にやって来るようになった。
優しくも不器用な彼はいつも、仕事終わりの時間帯を狙って現れるのだ。
そんなある日のこと。
今日もいつも通りお客さんが捌けたところで、閉店の準備に取り掛かろうとしていると……突然扉が開いた。
―カランコロン― 入ってきた人物を見て驚く。そこには、肩で息をするザックスの姿があった。
「ザックスさん!?どうしたんですか!」
急いで駆け寄ると、よく見ると彼の服には血痕のようなものが付着していて、顔色も悪い。
明らかにただ事ではない様子だ。
「怪我してるじゃないですか!一体何があったの……!?」
「ッ……」
「ザックスさん!」
「…………た。」
「え?」
彼はぼそりと呟くと、私に何も伝えないまま、そのまま意識を失ってしまった。
***
なんとかザックスをベッドまで運ぶと、彼の身体に包帯を巻いておく。幸いにも傷はそこまで深いものではなく、しばらく安静にしていれば治せる程度のものだった。
(良かった……)
ほっとして思わずため息をつく。一先ず容態は安定したようなので、このまま寝かせておくことにしよう。
(それにしても、どうしてこんな怪我を……)
「……ん?これは……」
その時、彼の懐から見覚えのある物が落ちてきた。それは、以前私が彼にあげた手作りのハンカチだった。
(これ!ザックスさん、渡したときはなんでもないようにしてたけど、身につけてくれてたんだ。)
そっと手に取ると、微かに彼の匂いがする気がする。面映ゆさに、私は思わず笑みがこぼれた。
***
―――翌朝。
目を覚まし、寝ていたソファからベッドを見やる。既に彼は起きていたようで隣のベッドで上半身を起こしていた。
「……おはよう。昨日は迷惑かけてすまなかったな。」
彼は私を見ると、バツの悪そうな顔で挨拶をし、そしてそのまま視線を落とす。
「おはようございます。いえ、気にしないでください。それより体調の方はどうですか?」
「ああ、良くなった。問題なく動けそうだ。」
「本当ですか!よかったぁ……!」
私は安堵して胸を撫で下ろす。
「それにしても、昨日の怪我はどうしたんですか?」
(昨日何か言っていたと思うんだけど、聞き取れなかったんだよね……)
「あぁ、あれな……。実は、モンスターと戦ってて……それで、その。手子摺って……うっかりドジっちまったんだよ。」
(えぇ……?)
「……ぷっ」
あまりに下手すぎる嘘に、つい吹き出してしまった。
「おい!笑うなよ!!」
すると、彼は顔を真っ赤にしながら怒鳴った。
「ごめんなさい、だって……ふふ。」
「……全く。相変わらずアンタは能天気だな。」
「そうですか?だって、Sランク冒険者のザックスさんがドジ踏むなんて考えられませんもん。」
「はぁ……まあいい。それよりも、これ。受け取ってくれ。」
彼はポケットから小さな箱を取り出すと、こちらに差し出した。
「え?これって……」
「シノにやる。」
「!ありがとうございます。開けてみてもいいですか?」
「ああ。」
そう言われて箱を開けてみると、中には美しく輝く漆黒の石が入っていた。
透き通るそれを指先で摘んで持ち上げ、夕陽にかざしてみる。すると、内側から光が溢れ出すように反射して輝き出した。あまりの美しさに見惚れてしまう。
「綺麗……」
「これは魔石なんだが、宝石よりも美しいと評判でな。希少な分モンスターも手強かった。」
「え……さっきの本当だったんですか。」
「そうだ。誇れることじゃないけどな。……シノの瞳と同じ色を探したんだ。」
―――予想外の言葉に頬が熱くなる。私の、前の世界では在り来りで平凡だったこの色が、彼の言葉によって特別に感じられた。私を見つめ目を細める彼の瞳に惹き込まれていく。
その笑顔は今まで見た中で、一番優しい笑顔だった。
それからしばらくの間、寄り添い、2人で静かに輝く魔石を眺めていた。
優しくも不器用な彼はいつも、仕事終わりの時間帯を狙って現れるのだ。
そんなある日のこと。
今日もいつも通りお客さんが捌けたところで、閉店の準備に取り掛かろうとしていると……突然扉が開いた。
―カランコロン― 入ってきた人物を見て驚く。そこには、肩で息をするザックスの姿があった。
「ザックスさん!?どうしたんですか!」
急いで駆け寄ると、よく見ると彼の服には血痕のようなものが付着していて、顔色も悪い。
明らかにただ事ではない様子だ。
「怪我してるじゃないですか!一体何があったの……!?」
「ッ……」
「ザックスさん!」
「…………た。」
「え?」
彼はぼそりと呟くと、私に何も伝えないまま、そのまま意識を失ってしまった。
***
なんとかザックスをベッドまで運ぶと、彼の身体に包帯を巻いておく。幸いにも傷はそこまで深いものではなく、しばらく安静にしていれば治せる程度のものだった。
(良かった……)
ほっとして思わずため息をつく。一先ず容態は安定したようなので、このまま寝かせておくことにしよう。
(それにしても、どうしてこんな怪我を……)
「……ん?これは……」
その時、彼の懐から見覚えのある物が落ちてきた。それは、以前私が彼にあげた手作りのハンカチだった。
(これ!ザックスさん、渡したときはなんでもないようにしてたけど、身につけてくれてたんだ。)
そっと手に取ると、微かに彼の匂いがする気がする。面映ゆさに、私は思わず笑みがこぼれた。
***
―――翌朝。
目を覚まし、寝ていたソファからベッドを見やる。既に彼は起きていたようで隣のベッドで上半身を起こしていた。
「……おはよう。昨日は迷惑かけてすまなかったな。」
彼は私を見ると、バツの悪そうな顔で挨拶をし、そしてそのまま視線を落とす。
「おはようございます。いえ、気にしないでください。それより体調の方はどうですか?」
「ああ、良くなった。問題なく動けそうだ。」
「本当ですか!よかったぁ……!」
私は安堵して胸を撫で下ろす。
「それにしても、昨日の怪我はどうしたんですか?」
(昨日何か言っていたと思うんだけど、聞き取れなかったんだよね……)
「あぁ、あれな……。実は、モンスターと戦ってて……それで、その。手子摺って……うっかりドジっちまったんだよ。」
(えぇ……?)
「……ぷっ」
あまりに下手すぎる嘘に、つい吹き出してしまった。
「おい!笑うなよ!!」
すると、彼は顔を真っ赤にしながら怒鳴った。
「ごめんなさい、だって……ふふ。」
「……全く。相変わらずアンタは能天気だな。」
「そうですか?だって、Sランク冒険者のザックスさんがドジ踏むなんて考えられませんもん。」
「はぁ……まあいい。それよりも、これ。受け取ってくれ。」
彼はポケットから小さな箱を取り出すと、こちらに差し出した。
「え?これって……」
「シノにやる。」
「!ありがとうございます。開けてみてもいいですか?」
「ああ。」
そう言われて箱を開けてみると、中には美しく輝く漆黒の石が入っていた。
透き通るそれを指先で摘んで持ち上げ、夕陽にかざしてみる。すると、内側から光が溢れ出すように反射して輝き出した。あまりの美しさに見惚れてしまう。
「綺麗……」
「これは魔石なんだが、宝石よりも美しいと評判でな。希少な分モンスターも手強かった。」
「え……さっきの本当だったんですか。」
「そうだ。誇れることじゃないけどな。……シノの瞳と同じ色を探したんだ。」
―――予想外の言葉に頬が熱くなる。私の、前の世界では在り来りで平凡だったこの色が、彼の言葉によって特別に感じられた。私を見つめ目を細める彼の瞳に惹き込まれていく。
その笑顔は今まで見た中で、一番優しい笑顔だった。
それからしばらくの間、寄り添い、2人で静かに輝く魔石を眺めていた。
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