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三十九話
しおりを挟む「あ、あの、ありがとうございます! 二年前に妹を助けてくれたことも、今回助けてくださったことも!」
私が少し過去を思い出していると、少女の近くにいた少年が頭を下げきました。
見た感じだとこの子のお兄さんでしょうか。
「いえ、気にしないでください」
二年前の時は叫び声を聞いて駆けつけたら偶々、間に合っただけですし、今回のは仕事に近いですから。
「出来れば何かお礼でも……」
少年の声は尻すぼみに小さくなっていく。
どうやら今の状況を考えていなかったらしい。
周りを見渡せば、ほとんどの家は全壊か半壊状態。二年前の時両親に供える花を取りに来ていたのならそんなに裕福でも無いはず。
とてもお礼なんて受け取ることはできません。
「お礼は結構です。でも、どうしてもというのなら、元気に生きてください」
「元気に、ですか……?」
何を言っていているんだろう? そんな表情で言ってくる。
「せっかく助けた貴方達が今後の人生を元気に生きてくれたら、私も助けて良かったって思えますから。それが私の欲しいお礼の形です」
「わ、分かりました! そんな事でいいなら」
「私も! 私も元気に生きます!」
少年の後に続いて少女の方も元気よく宣言する。
もし、この先この兄妹と会うことがあって、その時に元気な姿を見られたらきっと助けて良かったと思える。
街を見る限り、この辺の家は魔物の攻撃でボロボロになっている。この兄妹が街の中心を目指して逃げていたから、恐らくこの辺に住んでいて、魔物が街に入り込んだから逃げ出したんだろう。
家が半壊や全壊状態だと今後大変だと思うけど強く生きて欲しいと思う。
「マリア、王都に向かいましょう。王都の戦力では対処できない変異種がいるので、急がないといけません」
アティスが私たちの話が終わったのを確認してから言ってくる。
私達の目的地は王都だ。
最初はネケラスの魔物の大群は素通りして王都に向かう予定だった。変異種が出現している王都の方が事態が重いと判断したし、ここの街より王都の方が重要だ。
だが、予想以上にネケラスの横を通った際に魔物に押されていることが分かったことと、広範囲を攻撃できる魔法を持っている私がいるという事で今こうしてネケラスに来ている。
街に入る前に魔物の大群の半数以上は蹴散らしておいたので後は冒険者になんとかしてもらう。
的が大きければ魔法で蹴散らす事も容易だけど、魔物が少なくなって的が散開していると全滅させるには時間がかかってしまう。
ここで時間をかけていれば王都が危ない。
「はい、分かりました」
私たちは近くまで乗ってきた馬車まで走り乗り込む。
「魔法使いのお姉さん! ありがとう!!」
馬車が走り始めると後ろから少女の声が聞こえた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
馬車を走らせてから少し時間が経った頃。
明らかに貴族が乗るような、金持ちの商人が乗りそうな一目で高価だと分かる馬車だ。
だけど、その馬車はぐちゃぐちゃにに荒らさせている。
「恐らく、ネケラスから逃げようとして馬車で街を出たもののネケラスを素通りして走ってきた魔物に襲われたんでしょう」
馬車の近くには二人ほどの食い荒らされて原型を留めていない死体がある。
中を覗くと、そこにも一つの遺体があった。
「誰も生きていません。早く王都にいきましょう。こんなところで時間をとっている暇はありませんから」
「そうですね。急ぎましょう」
馬車の中に生存者はいなかった。だけど一つだけ見覚えのある服の残骸が落ちていた。
馬車もぐちゃぐちゃになっていたけど見覚えのあるものだった。そして、馬車の一部に家紋が施されていた。
傷だらけで、ほぼ何か分からなくなっていてアティスには分からなかったようだけど、あれは……
昔よく見た家紋のような気がする。
中に高級そうなよくあの人が着ていた服に似ている残骸があった。
だけど、仮にさっきの死体があの人だったとしても私には関係ない。今後関わるつもりなんて無かったし、この世からいなくなったとしてもあまり変わらない。
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