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二十九話 騎士団員視点
しおりを挟む「無事だったのか、エレナ!」
俺はエレナの姿を見て安堵の息をついた。
持っている大きな紙袋を見る限り、買い物にでも行っていたようだ。
俺の心配は杞憂だったらしい。
「無事って、急にどうしたの!? ていうか、帰ってくるなんて手紙来てた?」
「手紙は出してない。急遽帰ってくる事になっだだけだから」
「お休みを貰えたってこと?」
「休みというか、辞めてきた」
「……へ?」
「騎士を辞めてきた」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
とりあえず家の中に入り、事情を説明した。
「最近魔物が街に侵入することが多くなってるから、私が心配で騎士団のルールを破ってまで帰ってきた。騎士団では恐らくお兄ちゃんは死んでる事になってると思うからもう騎士団には戻れないってこと?」
「だいたいそんなところだな」
「もう、心配しすぎだよ~、この街だって騎士はいるんだから」
笑いながらそう言ってくる妹。
前にあってから一年も経っているから急に成長したような気がする。
以前よりも髪は短くなって肩より少し長いくらいになっているし、身長も大きくなっているし、雰囲気も少し変わっているような気がする。
「それでも心配なもんは心配なんだよ」
三年前に両親が死に、たった一人の家族になってしまった。
そんなたった一人の家族なんだから心配するのは当然だ。
それに、エレナは騎士のことを心底信頼しているみたいだが、騎士団長が殺された現場を目撃してしまった俺としてはあまり信頼していない。勿論、新米騎士程度であった俺がエレナを守れる保証もないのだが、それでも「もし自分がその場にいたら」なんて後悔はしたくない。
「心配しすぎかどうかは置いといて、帰ってきてくれたことは素直に嬉しいけどね」
「そ、そうか?」
面と向かって言われると少し照れくさい。
「私がかっこいい魔法使いになりたいって言って学校に通う学費を払うために騎士になってから一度も帰ってきたことなかったから」
「騎士団の訓練に参加するだけでヘトヘトだったからな。休日ができても帰る体力も無ければ、金もなかった」
「お金が無かったのはお兄ちゃんがお給料をほとんど全部私に送るからでしょ。
もう少し少なくても大丈夫って手紙送ったと思うんだけど?」
「あぁ、そんな手紙もあったな……」
確か、結局本当にほんの少しだけ減らしたんだったな。減らしたって言っても子供のお小遣い程度だけど。
そのお小遣い程度のおかげでこの街の入市税を払えたわけだが。
「お金が送られてきすぎて、お兄ちゃんがちゃんと生活できてるのか心配だったよ」
「一応、住む場所と食事は最低限提供されるからな。一流の騎士達はそんな制度受けないらしいけど、新米の騎士には有難い制度だよ」
「ちゃんと生活できてたならよかったけど、今後の生活はどうするの?
お兄ちゃんがお給料をほとんど送ってくるから、あと二ヶ月は何の収入もなしでも生活できるくらいに貯金はあるけど……」
「学費と生活のことは心配するな。俺がなんとかするから」
エレナが心配しているのは学費のことだろう。
騎士の給料が割と高かったから払えていたけど、騎士としての収入がなくなったら払えるかどうか分からないが、何とかするしかない。
「一年間学校に通って私もある程度の魔法を使えるようになったわけだし、休日くらいなら冒険者として働けるけど」
「それはいい。勉強に専念しろ。
それにお前、一回街の外に出て死にかけてるだろ」
「でも、そのおかげで、あのかっこいい魔法使いさんに出会えたわけで……」
「とにかく、街の外に出るのは禁止だ。
金のことは俺が何とかするから」
「……分かった。ありがとう、お兄ちゃん」
今後の方針はとりあえず決まった。
エレナには勉強に専念してもらう。やりたい事をやってもらうのが一番いいからな。
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