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10 魔女

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 ローズが夢から覚めた時、眠り続けるローズの体を世話していた神官見習いが急いで兄を呼びに行った。

 驚いた顔、そして嬉しそうな顔。

 外では十五年が経っていた。

「ここは……?」

 ローズが不思議そうに周りを見渡す。真っ白な部屋、真っ白なベッドで眠っていた彼女は状況が理解できなかったらしい。

 無理もない、最後は広間で断罪された記憶だ。

「ローズ、記憶を辿ってごらん」

「ケルゥ?」

 ローズはゆっくりと記憶を遡る。彼女が夢に見ていた『体験していない記憶』。その記憶を頼りに亜空間を呼び出した。

 亜空間から母の遺品のアクセサリーを取り出した。

 小さな箱から取り出して、ぼうっと眺める。

 年を取り優しそうな中年になっていた兄がやってきた。数人の神官を引きつれている。

「はじめまして、ローズマリー。まずはここでの生活に慣れることからはじめよう」

 それからローズは色々な人に支えられて王国での生活に慣れていった。

 一年後、十九才になる頃には神殿の紹介で城で働けることになった。はじめは神殿からの回し者だと遠巻きにされていたが、真面目に働いているうちに打ち解けられるようになった。

 そして小さな充足感の毎日を過ごしているうちにローズは恋をして、騎士として城に努めていた貴族家の次男と結ばれた。
 二人は幸せに暮らし、僕は彼女たちをそっと見守った。見えない友達はいない方が良いからね。

 ローズに子供が生まれて少しした頃、働きぶりが認められ、生まれたばかりの王女の乳母になった。
 彼女は二人の子供を育て、愛し愛される毎日を送った。二人の女の子は順調に成長して、かわいらしく素直に成長した。

 僕がストレスでもためていると思っているのか、年に数回体を貸してくれることがあった。ごくまれにしか活動していないにも関わらず、高難易度の依頼をこなすことから僕らには『魔女』とあだ名がついてしまった。

 魔法の力に優れた女性、という意味らしい。

 王女と娘が十才になる頃にはローズはさらに二人の子に恵まれていた。
 その十才の誕生日。城では隣国からの貴賓を招いて盛大なパーティが開かれた。
 国中がお祭り状態で、僕もなんだか嬉しかった。

 王女への教育が始まることになったが、魔女として名高いローズは魔法の実戦教育の係に任命された。
 ここでも王女や彼女の子供たちは一生懸命に学んだ。僕も少しアドバイスをした。

 魔法にも勉学でも優秀な王女は、パーティでひっきりなしに合図をされていた。彼女の好意でローズは王女を支えるようにして後ろに控えていた。

 何人かの来賓が王女に挨拶をする。誕生日プレゼントとして豪華な品物を献上していく。

「……ローズ……?」

 何人目かで、こちらを見て驚く男性がいた。その場で立ち尽くし、王女を無視してローズを凝視する。
 それはかつてのローズの婚約者リアムだった。

「どうしたの、ローズ」

 王女が心配そうにローズに声を掛けた。その場は王女や周囲の貴族たちの視線に気づいたリアムが、たどたどしく王女の誕生日を祝い事なきを得た。

 ローズの心がひどく揺らいでいるのを感じた。
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