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8 安らぎ

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 兄がくるまでもいつも通りに過ごしていたが、その街のギルド長に相談して長期的に休息をとる事を告げた。
 活動しないギルド員には一年に一度、登録更新料を払わないといけないらしい。兄なら代わりに払ってくれるだろうが、そこまで迷惑をかけるわけにもいくまい。

 僕は高いわけでもない更新料を先に十年分納めた。そして、それ以上の更新費は王都イクシリオンにあるデウスの神殿に請求するように伝えた。
 人間界では最高神と呼ばれているだけあってこの国でかなりの地位があるらしい。

 帝国と違い王がおさめるクリビア王国で王に次ぐ権力者だ。僕のように顕現している時は現人神として神の代弁者としてふるまっている。うまい仕組みを作ったものだ。

 兄が迎えに来た時、あまりに豪華な馬車がやってきたので街中がざわめいた。街の代表者である町長が慌てふためいて出迎えて、兄が訪れた冒険者ギルドはいつもの喧騒はどこへ行ったのか静まり返っていた。

「これは、ずいぶんと可愛らしい子に宿ったものだね。弟よ」

「兄さんは今は守られてひ弱に見えるよ。今なら僕の方が強いんじゃないかな!」

 僕たちの会話は表情が凍り付いた受付嬢とギルドマスターの前で楽しく繰り広げられた。
 途中で、袖を引かれて受付嬢に小さく「敬語を使ってください」と注意されたが僕は無視した。

「この子はローズマリー。ロベリアのウィスタリア公爵の娘だよ。僕はこの子を幸せにするためにいるんだ。『悪い』願いではないだろ?」

「ああ、調べてはついている。苦労しただろう。現在ロベリアではローズマリーの行方を捜している。悲劇の令嬢としてな」

「今さら何を調べることがあるのか分からないけれど。兄さんに頼みたいんだ。まだローズの魂はボロボロだからしばらく眠らせてあげたいんだ。しばらく居候させてよ」

「ケルヌ……今はケルゥだったな。早く神殿に行こう。つもる話は馬車で」

「やっぱり兄さんは話が早い!」

 僕は兄さんの後ろをついてあるいてギルドの外に出た。ギルドを出る時は後ろを振り返って皆に手を振った。

「じゃあね! みんなローズマリーの事を受け入れてくれてありがとう!」

 少し寂しい気もするが、この世界、文明の中で過ごすなら何よりも金が必要だ。金を稼ぐには無茶をする必要がある。
 ローズマリーの魂はボロボロでなるべく刺激を与えたくなかった。

 僕は馬車の中で兄さんに様々な話をした。ローズの母親から得た記憶、冷遇される事情。全ては誤解から始まっていた。

 本来、彼女は父母と共に幸せに暮らし、少しわがままだが可愛らしい女性になるはずだった。
 そして弟は私生児として平民として育ち、母親が無くなってから公爵家に引き取られる、そうなるはずだったらしい。
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