5 / 13
5 目覚め
しおりを挟む
そうして一年が過ぎて、リアムが学園を卒業する年になった。それまでも婚約者としてないがしろにされ続けてきたローズマリーも、公的な場でしっかりとパートナーとしての体面を必死に守ろうとしてきた。
卒業パーティでは、パートナーとして招待されていたはずの彼女は会場への入場を最後に壁の花となっていた。これもいつもの事で、ローズとリアムの不仲は貴族たちの嘲笑の的だった。
僕は砕け散りそうなローズの心をそっと守っていた。楽しかった幼い頃のマリーとの思い出や母との暖かい思い出。起きれば忘れてしまうと分かっていても幸せな夢を見せることだけが、見守る事しかできない僕に出来ることだった。
本当に心が潰れる時は僕がギリギリで彼女を保護できるように昼夜を問わず見守っていた。
ローズマリーにはまだ何か希望があるようで、ギリギリの所で踏みとどまっていた。それが何かは僕には理解できなかったが、そのおかげで彼女は自棄にならずひたすらに耐えることが出来ているようだった。
その卒業パーティでローズマリーが断罪されるまでは――。
「ローズマリー・フォン・ウィスタリア、この悪女め。貴様がリリー・ジギタリス令嬢に嫉妬し数々の嫌がらせをしていることは分かっている。皇子妃の位に欲が出たな」
周囲が注目する中、二人は寄り添うように立っていた。会場の真ん中で、一人孤立したローズマリーは小さく震えながらリアムの言葉を聞いていた。
皇子の後ろにはさらに数人の高位貴族の子息や令嬢たちが立っており、それぞれがありもしない証拠を持っていると主張した。
「あまつさえリリーを暴漢を雇い、彼女を襲わせようとしたことは分かっている」
一人の体格の良い少年が、ローズを睨みつけた。
「リリーさまが路地に連れ込まれる寸前で俺が友人たちと共に助け出しました」
「私はローズマリーさまがリリーさまを階段から突き落とそうとした所を目撃しました。私が駆け寄り未遂で済みましたが、これは明らかな殺人行為です!」
さらに一人の令嬢が一歩踏み出した。
僕は知っている。ローズはそんな事はしていない。
リアムは感情のこもっていない瞳でローズを見つめた。
ローズは一瞬、呆気にとられたものの、淡々と言葉を返す。
「身に覚えがありません」
罪を認めないローズの手を後ろ手にひねるようにして、騎士が彼女を床に伏せさせる。
ドレスがふわりと床に広がる。リアムはもう覚えていないだろうが、これは最後に彼がローズに送ったドレスだった。
火傷が回復して最初のパーティに義務的に送られたドレスと宝飾品。それをローズはあえて着てきたのだった。
「私は何もしておりません」
「気安く名前を呼ぶな、ウィスタリア嬢! 既に証拠は揃っている。父上にも報告した。忌々しいお前との婚約も今日この日を最後に破棄される」
婚約破棄という言葉に、ローズは俯いた。瞳が揺れ、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちる。体が震えているのは悲しみのせいなのか、ひねられた腕が痛むからか、はたまたその両方か。僕には分からなかった。
「それは……本当ですか」
「既に公爵家にも文を送っている。お前のような人間が国を支えられるなんて本気で思っていたのか?」
リアムの隣でリリーがニヤリと笑っていた。中庭で見た時からローズマリーに喧嘩を売ってきていた嫌な女だ。
涙を流すローズマリーの顔を見て、周囲の貴族たちも「そんなに皇子妃にしがみついているのか」と笑っていた。
どこにも味方はなく、家族はそもそも彼女を見向きもしない。
「……ケルゥ……」
彼女が小さく僕の名を呼んだ!
――ローズ、大丈夫。これは悪い夢だよ。
僕の声にローズがはっとしたのを感じ取り、僕は彼女を眠らせた。起きていてもローズが傷つくだけだ。
まず、僕はローズを押さえている騎士を魔法で弾き飛ばした。大人の男性を弾き飛ばした非力な少女に、周囲の視線は一気に困惑へと変わった。
卒業パーティでは、パートナーとして招待されていたはずの彼女は会場への入場を最後に壁の花となっていた。これもいつもの事で、ローズとリアムの不仲は貴族たちの嘲笑の的だった。
僕は砕け散りそうなローズの心をそっと守っていた。楽しかった幼い頃のマリーとの思い出や母との暖かい思い出。起きれば忘れてしまうと分かっていても幸せな夢を見せることだけが、見守る事しかできない僕に出来ることだった。
本当に心が潰れる時は僕がギリギリで彼女を保護できるように昼夜を問わず見守っていた。
ローズマリーにはまだ何か希望があるようで、ギリギリの所で踏みとどまっていた。それが何かは僕には理解できなかったが、そのおかげで彼女は自棄にならずひたすらに耐えることが出来ているようだった。
その卒業パーティでローズマリーが断罪されるまでは――。
「ローズマリー・フォン・ウィスタリア、この悪女め。貴様がリリー・ジギタリス令嬢に嫉妬し数々の嫌がらせをしていることは分かっている。皇子妃の位に欲が出たな」
周囲が注目する中、二人は寄り添うように立っていた。会場の真ん中で、一人孤立したローズマリーは小さく震えながらリアムの言葉を聞いていた。
皇子の後ろにはさらに数人の高位貴族の子息や令嬢たちが立っており、それぞれがありもしない証拠を持っていると主張した。
「あまつさえリリーを暴漢を雇い、彼女を襲わせようとしたことは分かっている」
一人の体格の良い少年が、ローズを睨みつけた。
「リリーさまが路地に連れ込まれる寸前で俺が友人たちと共に助け出しました」
「私はローズマリーさまがリリーさまを階段から突き落とそうとした所を目撃しました。私が駆け寄り未遂で済みましたが、これは明らかな殺人行為です!」
さらに一人の令嬢が一歩踏み出した。
僕は知っている。ローズはそんな事はしていない。
リアムは感情のこもっていない瞳でローズを見つめた。
ローズは一瞬、呆気にとられたものの、淡々と言葉を返す。
「身に覚えがありません」
罪を認めないローズの手を後ろ手にひねるようにして、騎士が彼女を床に伏せさせる。
ドレスがふわりと床に広がる。リアムはもう覚えていないだろうが、これは最後に彼がローズに送ったドレスだった。
火傷が回復して最初のパーティに義務的に送られたドレスと宝飾品。それをローズはあえて着てきたのだった。
「私は何もしておりません」
「気安く名前を呼ぶな、ウィスタリア嬢! 既に証拠は揃っている。父上にも報告した。忌々しいお前との婚約も今日この日を最後に破棄される」
婚約破棄という言葉に、ローズは俯いた。瞳が揺れ、ぽたぽたと涙がこぼれ落ちる。体が震えているのは悲しみのせいなのか、ひねられた腕が痛むからか、はたまたその両方か。僕には分からなかった。
「それは……本当ですか」
「既に公爵家にも文を送っている。お前のような人間が国を支えられるなんて本気で思っていたのか?」
リアムの隣でリリーがニヤリと笑っていた。中庭で見た時からローズマリーに喧嘩を売ってきていた嫌な女だ。
涙を流すローズマリーの顔を見て、周囲の貴族たちも「そんなに皇子妃にしがみついているのか」と笑っていた。
どこにも味方はなく、家族はそもそも彼女を見向きもしない。
「……ケルゥ……」
彼女が小さく僕の名を呼んだ!
――ローズ、大丈夫。これは悪い夢だよ。
僕の声にローズがはっとしたのを感じ取り、僕は彼女を眠らせた。起きていてもローズが傷つくだけだ。
まず、僕はローズを押さえている騎士を魔法で弾き飛ばした。大人の男性を弾き飛ばした非力な少女に、周囲の視線は一気に困惑へと変わった。
1
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~
たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!!
猫刄 紅羽
年齢:18
性別:男
身長:146cm
容姿:幼女
声変わり:まだ
利き手:左
死因:神のミス
神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。
しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。
更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!?
そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか...
的な感じです。
転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる