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2 成長
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母が死に、自分の名前も知らないまま一週間が過ぎた。
使用人たちは最低限の世話しかしない。赤ん坊はどんどんと弱っていった。
このままでは本当に死んでしまうのではないか。そう思ったらしい使用人が、自身の責任逃れのために領主に報告し、早急に乳母が雇われた。
その乳母の名前がマリー。
まさかこの子の名前よりも先に乳母の名前を知ることになるとは――。
驚く僕を他所に、ようやくマリーによって普通の貴族令嬢らしい生活を手に入れることが出来た。
そしてやっとこの娘がローズマリー・フォン・ウィスタリアという名前だということが分かった。
マリーは本当の娘のようにローズマリーを可愛がってくれた。
そして父は数か月経っても一度も姿を見せなかった。
それでも成長すれば出会う機会はある。ローズマリーはどうやら公爵家の一人娘のようだった。
彼女が三才になってもお披露目のパーティは開かれることなかった。そして部屋とマリーが連れて行ってくれるお散歩だけが唯一の世界だ。
そんなお散歩の時に父に会えば、必ずローズマリーを睨みつけて、彼女を部屋に連れて行くようにマリーに命令した。
五才になった時、やっとお披露目のパーティが開かれた。やっと友達が出来るかと思いきや、親から見捨てられた子として友達など出来なかった。それを父はローズマリーが社交的でないからだと判断したようだ。
この頃からローズマリーはたびたび魔力の暴走を起こしていた。
魔力をコントロールできずに、手も触れずに窓ガラスが割れたり、部屋が揺れたりと不可解な状況に使用人たちは『呪われた子』だと彼女を避けた。
「ローズ、ゆっくりと魔力を感じてごらん」
「うん。ケルゥは何でも知ってるのね」
僕とローズマリーが魔力の操作の練習をしている時、マリーはそっと見守ってくれた。他の使用人たちは遠巻きにして、僕らに近づくこともなかった。
おかげで僕の存在は一人の少女と乳母にしか知られていなかった。
そして同時期に公爵は後妻を迎えた。
継母はとても優しかった。子供が生まれるまでは――。
ローズマリーが七才になった時、弟が生まれた。生まれて一年経ってすぐに後継者としてお披露目のパーティが開かれた。
そのパーティの間ローズマリーは一人部屋に閉じ込められていた。
「ケルゥはいっぱい名前があるのね」
「兄や姉たちもそれぞれ色んな名前があるよ」
「ねぇ、私のお母さまはどんな人だった? 優しかった?」
「とっても優しかったよ。ずっと君の幸せを願っていた」
二人で楽しく話していたが、他にはローズマリーが一人で見えない誰かと話しているようにしか見えない。
だからこそ、マリー以外の人がいる所ではおしゃべりはやめようと決めていた。
パーティの後、継母はローズマリーのためだと厳しい家庭教師をつけた。そしてマリーを解雇した。マリーは名残惜しそうにしていたが、大量の退職金と紹介状を持って屋敷を去った。
家庭教師がいくつかのテストを行い、ローズマリーに膨大な魔力があることが分かった。
それは、例えば戦場で一気に盤面をひっくり返すことが出来るほどの力だ。
僕はやっと彼女が家族に認められる、と思った。たとえ打算的な愛だったとしても、マリーが去ってしまった以上、ローズマリーには愛を与えてくれる存在が必要だった。
見えない友達などではなく、きちんとした人間が。
だが、家族はさらに厳しい教育をローズマリーに課しただけだった。それでも食事や衣服に問題はないし、避けられてはいたものの使用人たちから嫌がらせされることもなく、無事に一年が過ぎた。
ローズマリーは幼いながらも感情をあまり出さない子になってしまった。僕と二人の時は大きな声で笑っていたが、他の誰とも打ち解けることが出来なくなってしまっていた。
子供には愛が必要だろうに、『ふり』すら出来ないのか。僕はもういっそのことローズマリーを連れて旅に出ようと何度も誘った。兄や姉は何だかんだ僕には甘いから、人間に宿って同じように休暇中の所にお邪魔しても面倒は見てくれる。
神殿はどの町でもあるから、僕が連絡すればすぐに誰かがとんできてくる。そう言ったがローズマリーは頑なにこの家族にしがみついていた。
使用人たちは最低限の世話しかしない。赤ん坊はどんどんと弱っていった。
このままでは本当に死んでしまうのではないか。そう思ったらしい使用人が、自身の責任逃れのために領主に報告し、早急に乳母が雇われた。
その乳母の名前がマリー。
まさかこの子の名前よりも先に乳母の名前を知ることになるとは――。
驚く僕を他所に、ようやくマリーによって普通の貴族令嬢らしい生活を手に入れることが出来た。
そしてやっとこの娘がローズマリー・フォン・ウィスタリアという名前だということが分かった。
マリーは本当の娘のようにローズマリーを可愛がってくれた。
そして父は数か月経っても一度も姿を見せなかった。
それでも成長すれば出会う機会はある。ローズマリーはどうやら公爵家の一人娘のようだった。
彼女が三才になってもお披露目のパーティは開かれることなかった。そして部屋とマリーが連れて行ってくれるお散歩だけが唯一の世界だ。
そんなお散歩の時に父に会えば、必ずローズマリーを睨みつけて、彼女を部屋に連れて行くようにマリーに命令した。
五才になった時、やっとお披露目のパーティが開かれた。やっと友達が出来るかと思いきや、親から見捨てられた子として友達など出来なかった。それを父はローズマリーが社交的でないからだと判断したようだ。
この頃からローズマリーはたびたび魔力の暴走を起こしていた。
魔力をコントロールできずに、手も触れずに窓ガラスが割れたり、部屋が揺れたりと不可解な状況に使用人たちは『呪われた子』だと彼女を避けた。
「ローズ、ゆっくりと魔力を感じてごらん」
「うん。ケルゥは何でも知ってるのね」
僕とローズマリーが魔力の操作の練習をしている時、マリーはそっと見守ってくれた。他の使用人たちは遠巻きにして、僕らに近づくこともなかった。
おかげで僕の存在は一人の少女と乳母にしか知られていなかった。
そして同時期に公爵は後妻を迎えた。
継母はとても優しかった。子供が生まれるまでは――。
ローズマリーが七才になった時、弟が生まれた。生まれて一年経ってすぐに後継者としてお披露目のパーティが開かれた。
そのパーティの間ローズマリーは一人部屋に閉じ込められていた。
「ケルゥはいっぱい名前があるのね」
「兄や姉たちもそれぞれ色んな名前があるよ」
「ねぇ、私のお母さまはどんな人だった? 優しかった?」
「とっても優しかったよ。ずっと君の幸せを願っていた」
二人で楽しく話していたが、他にはローズマリーが一人で見えない誰かと話しているようにしか見えない。
だからこそ、マリー以外の人がいる所ではおしゃべりはやめようと決めていた。
パーティの後、継母はローズマリーのためだと厳しい家庭教師をつけた。そしてマリーを解雇した。マリーは名残惜しそうにしていたが、大量の退職金と紹介状を持って屋敷を去った。
家庭教師がいくつかのテストを行い、ローズマリーに膨大な魔力があることが分かった。
それは、例えば戦場で一気に盤面をひっくり返すことが出来るほどの力だ。
僕はやっと彼女が家族に認められる、と思った。たとえ打算的な愛だったとしても、マリーが去ってしまった以上、ローズマリーには愛を与えてくれる存在が必要だった。
見えない友達などではなく、きちんとした人間が。
だが、家族はさらに厳しい教育をローズマリーに課しただけだった。それでも食事や衣服に問題はないし、避けられてはいたものの使用人たちから嫌がらせされることもなく、無事に一年が過ぎた。
ローズマリーは幼いながらも感情をあまり出さない子になってしまった。僕と二人の時は大きな声で笑っていたが、他の誰とも打ち解けることが出来なくなってしまっていた。
子供には愛が必要だろうに、『ふり』すら出来ないのか。僕はもういっそのことローズマリーを連れて旅に出ようと何度も誘った。兄や姉は何だかんだ僕には甘いから、人間に宿って同じように休暇中の所にお邪魔しても面倒は見てくれる。
神殿はどの町でもあるから、僕が連絡すればすぐに誰かがとんできてくる。そう言ったがローズマリーは頑なにこの家族にしがみついていた。
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