[完結]挫折

夏伐

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 思えばそれは何度もみた光景だった。
 人は誰しも自分の横に幼い自分がいる。私にはそう見えている。

 リレーで一番になれなかった時、テストの点が悪い時、友達と喧嘩した時、うまくいかない時なんかに幼い自分はステーンと転ぶ。そしてそのうち、立ち上がって少し成長する。
 しかし、中にはボロボロと削れていってしまう人や、立ち上がれずに何かに押しつぶされてしまう人もいる。会話をするたびに肉をこそぎ落とされていく人もいたし、今にも消えてしまいそうな人もいた。

 大人になって、ほとんどの人は年相応、もしくは少し前後した自分が横にいる。
 でも中には幼い子供のままの人や、ずっと年老いている人がいた。子供だったが、何かアクシデントがあった時に大きく成長していた人もいる。年老いている人は、周りをキョロキョロ見るだけで精一杯なようだった。そういう人はすぐに辞めてしまう。

 私の横には学生の時の私がいる。
 生意気に微笑んでいるが、体はズタボロだ。
「ごめんね……」
 私は彼女に呟いた。
 彼女はどんなにボロボロになっても私に向かって微笑んでくれている。
 どんなに助けられたことか。
「でも、もう無理なの」
 私は彼女に言った。
「もう、動きたくない。頑張りたくないの」
 そう吐き出すと彼女はガラスが砕けるようにして消えてしまった。


 でも、月曜日になれば会社に行かなければならないし、お腹が空いたらご飯も食べる。一か月ほどしたら、別の私が隣にいてくれるかもしれない。


 町でふと、すぐに会社に来なくなった老人の人に出会った。
 気まずくなり、お互いに気づくか気づかないかの会釈だけした。その人の横には中年くらいに若返った人がいた。元気そうだった。  
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