【完結】伝えてください

夏伐

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2 商人

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☆商会の個室にて

 ええ、わたくしどもはたくさんの秘密を抱えております。
 しかしそれはあなたさまも同じでございましょう?

 ライバルだとしても商会には横のつながりがあるのですよ。あなたさまがお持ちでいらっしゃるその音声を記録する魔道具についてもね。

 ええ、ええ。身分を盾にされたら、わたしくしどもは従うほかございません。ここはうちの商会でも尊きお方しかお通ししない部屋でございます。

 それで、何をお聞きしたいのですか?

 ――剣を持たぬわたくしどもにとっては笑顔が最大の武器でございますから。

 ご安心ください。あの紹介状は本物でございましたから。
 それに、わたくしどもの商会ももう隣国へ拠点を移す予定でございます。

 反逆? そんなことはいたしませんよ。あの方はどうか分かりませんがね。

 わたくしどもは泥船から逃げ出すだけでございます。

 見捨てるだなんて、人聞きの悪い。私はヘスティアさまを信じています。

 ほら、この部屋の炉をご覧ください。あれはヘスティアさまにあやかっているのでございますよ。あの方に出会い、王の器というものを感じました。

 この国の貴族さま方は確かにお得意さまではございましたが、それだけではありませんか。

 それで、あなたさまはどうして今さらこんなことを?
 ここは確かに防音の結界をほどこしておりますが、ネズミはどこに潜んでいるか分かりません。実は私が密告者の変装なのかもしれませんよ?

 ははは、ジョークです。先生、どうか怖い顔をなさらないでください。
 知っています。あの方が亡くなられたのは。

 あなたさまがずっと秘密にしておられたことも感謝しておりますよ。

 紹介状が遺書だという事も理解しております。それで、ここに書いてあることは本当でございましょうか?

 ええ、隣国でも我が商会は貴族さま方に重宝されております。扱う品物は絶対の自信をもってご紹介しておりますから。

 ――お任せください。うちは運送業務も取り扱っております。どんなものでもお運びいたしますよ。

☆お茶会にて

 あらあら。急なお客さまで驚きましたわ。

 いえ、懐かしい顔を見れてとても嬉しいです。歓迎いたしますわ。
 夫人にはとてもよくしていただいて……。

 今日は小さなお茶会をしているのですよ。どうぞいらしてください。

 みなさん、ご紹介いたします。こちらはグレイ前伯爵ですわ。
 ええ、あの噂の。

 心配なさらないで。誤解されやすいだけですわ。

 ああ、先生、甘いものはお好きではないですか? ――良かった! 最近流行っているお菓子ですのよ。
 ふふ、もう足は大丈夫ですか?

 そうですね、老人に鞭打ちだなんて無知が知れますわ。つまらない? 先生の授業もつまらないのでおあいこです。

 ところで先生、そんな話をされに来たのですか?

 ええ……禁忌だとか、そういうわけではありませんけれど。確かに、忌避される話題ではありますわね。

 やめてください。先生、それ以上はやめて。

 誰か、先生をお部屋に案内して。
 お話はお聞きしますから、どうか今は静かにしてください。

 ――誰が聞いているか分かりませんわ。

 ……ここでなら、庭園よりはマシでしょう。

 確かに、そんな話はございますね。でもそれはただの噂でございましょう? 私と王が実の兄妹だなんて、ただの良くない噂です。

 低俗なゴシップです。

 確かに父は騎士として王太后の護衛を務めておりました。でもこの国に金の髪を持つものはたくさんおりますわ。

 血、ですか?

 新しい魔道具? 商会に登録されてないのなら、ないのと一緒ですよ。

 そんな話は聞いた事がありませんよ。血や髪で親子かどうかが分かるだなんて。

 大体、何を証明する必要があるのですか?

 ヘスティアに誓いを捧げて結婚したら、不貞なんてできませんでしょう? 血が絶える呪いにかかるのですから。

 女神の怒りを買うのは男だけって。そんな話は聞いたことがありません。先生、大丈夫ですか?

 もう御年なのですから、屋敷で療養なさってください。聞きましたか、来月には王子の一歳の誕生日に大きなサーカスがやってくるという話ですよ。

 話を逸らすだなんて。先生、私は本当に心配しているのです。

 王族は私たちが思っているより、髪の色を気にしております。先ほどの庭園でのお話ですが、誰に反逆者に仕立てられるか分かりませんわ。

 気を付けてお帰りください。
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