[完結]何か誰か

夏伐

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誰そ彼

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 大学のサークル仲間だった彼女の実家は結構な山奥の村だという。
 あの日山に行かなければよかった、それは彼女の口癖だ。

 夏休み明けから彼女は大学に来なくなったし、退学してしまった。それを追いかけて、友達から聞き出して彼女の実家までたどり着いた。

 彼女が山に行くと、樹液が光る木があったらしい。
 良い香りに誘われるようにして近寄った。
 そこまでしか覚えていないらしい。

 そして響くサイレンで意識を取り戻した。
 はっと周りを見渡すとあたりは血にまみれていた。
 彼女は殺人をおかしていたそうだ。

 彼女が覚えているのは、どこか遠くから心地の良い歌声が聞こえることだけ。

 彼女は罪には問われず、事件は隠ぺいされた。彼女は実家の蔵に幽閉されている。

 蔵の扉が開くたび、彼女はまた意識が遠くなる感覚を覚えているという。
 彼女に会いに行くとひまだからか嬉しそうな顔をしてくれる。それが嬉しいのだが、彼女の顔が外の光を浴びると一瞬、とてつもなく美しく見える。

 彼女の中にいる別の何かに魅せられてしまったからか、大学を卒業して何年経っていてもずっと彼女に会いに山奥の村へ訪れている。不思議と彼女は年老いることがないように見える。

 あれは彼女なのか、それとも既に別の何かになってしまったのだろうか。
 そういえば、あの口癖を聞くこともなくなって久しい。
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