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親子のような

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 この日授業が終わり、使用人室で執事長にイージニアの様子を聞かれた。
「イージニア様の様子は?」
「またです。教育係として不甲斐ない」
「あなたは何も悪くありません」
 執事長はそう言った。このやり取りももう何度も繰り返している。
「実はイージニアは昨夜にはあの状態になっていたようで……。昨日メイドが確認しました」
「ここ最近はああいった事はなかったのに……」
目を閉じ、じっと考えるカタリットに執事長は思い切ったように口を開いた。
「実は、貴方にも協力していただきたい事があるのです。」
「何でしょう?」
「実はイージニア様がああなると宝飾品やドレスなどがいくつか消えるのです」
「誰かが盗んでいるということですか?」
 カタリットのその言葉に執事長はふるふると頭を振る。
「今までも調べてみました。この屋敷の人間ではないようです」
「それは……誰かが忍び込んでいるということですか?」
「いえ、ただ陛下に報告しました所、明日一度実際に自分の目で確かめてみる、と」
「それで私は何をすれば?」
「陛下とイージニア様がお話をしている間、その様子を見ていてもらいたいのです」
 カタリットは小さく頷いた。今、言われたことはお願いではなく命令だと知っていたからだ。


 翌日、授業の途中に王が来訪した。
 応接室でイージニアと王が向き合い、それぞれの椅子の後ろでカタリットと宰相が立っている。
「イージニア、久しいな」
「は、はい!半年ぶりです」
 その瞬間、カタリットは自分の授業が何も活かされてないことに愕然とした。
 久々のお客様に少しはしゃいだ様子が見えるイージニアはまるで少女のようだ。
「前に私が送ったものはどうした?」
 単刀直入に王がイージニアに問いただす。だが、この無邪気な子供のような姿に合わせて優しく声をかけている。
「どれのことでしょう」
「たくさんの宝石がついたネックレスの事だ」
「ああ、それなら!」
 スカートの上に両手を乗せて、ぱっと手を離す動作。スカートの上には件のネックレスが出現していた。
「なんだ、手品か? 見せてみろ」
 王がネックレスに手を伸ばすと、イージニアはネックレスに手を乗せてパッと消してしまった。
 おかしい。
 いつも刺繍も何もできないイージニアにできることではない。
 練習している様子もなかったし、これは魔法なのではないか。カタリットを疑問を持った。
「ダメです!これは私がもらったんです」
「見るだけだ」
「私がもらったからダメなんです!」
 もうどこにもネックレスは見当たらない。埒が明かない様子に、宰相が王に何か進言した。
「そうだ。イージニア、また贈り物を持ってきたのだ」
「イージニアに贈り物ですか!」
「そうだ。たくさんあるぞ」
 宰相が部屋の外で待ち構えていたメイドたちを部屋に入れた。
「ドレスにリボンに宝石、珍しい鳥なんかもいるぞ」
わぁーと子どものように喜ぶイージニアの様子を見て、王はまた優しく「ネックレスを見せてくれ」と言った。
「だめです。これは私のです」
「ちゃんと返す。見せてくれたらプレゼントをやるが、見せてくれないならこのまま帰るぞ」
「プレゼントはイージニアので私のじゃないです。でもこれは私のなのでだめです」
やはり二重人格だったのだ。カタリットは確信した。
 王は面白いものを見るように、顎をさすりイージニアを見つめる。
「このプレゼントはイージニアのための物だが……。そうだな、見せてくれたらその中から気に入ったものを目の前にいるお前に渡そう」
「イージニアじゃなくて?」
 きょとんとするイージニアに王は「ああ」と頷いた。
 イージニアは嬉しそうに笑った。
「ほんとに返してくださいね」
 イージニアは両手で何かを包むように王の前に差し出した。
 王の手が下に来ると手を開いてネックレスを渡した。
 ネックレスも特別に何かあるわけではない。
 すぐにイージニアの手にネックレスが戻った。ネックレスはすぐイージニアが消してしまった。
「さぁ何でも選んで良いぞ」
 王に言われた瞬間、タタタとメイドたちの間をくるくる走りちょこちょこと見回っている。まるで子供のようだ。
「私はこれが良いです!」
 宝石でキラキラした短剣だ。実用性などあったものではないが、キラキラとした装飾は見事だ。
 イージニアはその短剣を両手でかかえて、王を伺うようにじっと見つめる。
「ではそれをやろう」
 王が大仰に頷くと、イージニアはぴょんぴょんと跳ねる。
 夫婦というより親子のようなやり取りにカタリットはまた頭が痛くなった。

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