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一章
3 輪郭
しおりを挟む架委と私は類似していた。
それは性別を超越した類似だった。
ありふれたものだった。
あるいは、体の一切影響しない次元の類似と言ってもいい。
私達は歩くことを好んだ。よく、朝に授業を詰め込んだ午後、個送電動車を使わずにあてもなく歩いた。
商店エリアを過ぎ、森林公園の整えられた芝生の上、木漏れ日の下を気の向くまま歩く間、数え切れないほど様々なことを話した。
すぐに忘れてしまうような他愛のないことも話したし(おそらく私達の会話の多くを占めていただろう)、何かしらの意味をもつ予感のあることも話した。
架委は互いの、あるいはどちらかの本質を覗き込む、深く静かで劇的なことも、深刻さを伴わずに話すきらいがあった。
彼は確かにそこに人間として居るのに、ふとした瞬間境界を失い、他の全てのものと溶け合って消えてしまいそうなほど、曖昧で透明だった。学校では生徒たちの、森では木々の波に身を任せ、自由に不規則に揺らぐ彼を、彼自身が心の底から楽しんでいた。
私の深刻さも彼自身の深刻さも、世界そのものの深刻さと同じように当然に意味を持ち、また一方ある程度の(考えても仕方ないような)必然性をもっているものとみているらしかった。
簡単に言うと、彼は真摯に、なげやりに生きていた。
「他の全てとひとつであれば、嫌われたり憎まれたりする心配はない、と思っていたこともあったけど、それはまだこの世界では正しくないと気づいた。
どうにも、全ての始まりは自分自身を愛することだね。その意味では、この世界は依然として、始まりかけだ」
森の倒木に腰かけた彼は、念入りに木の上の土を払う私の手元をぼんやりと見ながら言った。
「全ての人が、彼ら自身を愛さなくてはいけない?」
私はそう聞いた。ようやく腰掛けたが、倒木は先細りで傾いていて、どうにも塩梅がよくなかった。
「そうだね。それが始まりで、同時にすべてだ」
せわしなく向きを変えて座り直す私を見、軽く微笑んでから彼は言った。
「いこうか。休みやすいところでも探そう」
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