本当に体験した怖い話と不思議な話

【学校編】

2・ないもの

　これも、中学校での話だ。

　私の通っていた中学校は大きかった。
　棟がふたつかみっつあった。
　渡り廊下は、なぜか四階はなかった。

　二年生になり、初めて行く移動教室があった。
　友人が、
「よくわからない」
　と言って、
「じゃ、探検に行こう！」
　と地図片手にふたりで行った。

　初めて入った棟。そこは、なんだか暗く感じた。
「階段、奥みたいだよ」
　私が地図を見ながら言うと、友人が驚くことを言う。

「ここにもある……」

　私は友人の指す先を見て、言葉を失った。
　確かに、目の前には階段があった。

「こっちから行ってみる？」
　友人は私に問いかける。
　けれど、私は……その階段は、不気味な雰囲気を放って行ってみる気にはなれなかった。

「とりあえず、地図の通りに行ってみようよ。それで、他の友達も誘って、もう一回来てみよう」
「そうだね」
　友人も同意してくれた。

　もし、友人の言うように、登っていたら今の私はいなかったかもしれないと思う。
　この先の人生でも、多分、この時に感じた感覚で回避しているから、今も私は『普通に生きて』いられるんだろう。


　そうして私たちは探検し、帰り道も地図を見て、
「先生に、ここに階段があるってクレーム言わなきゃね」
　なんて、はしゃぎながらクラスに戻った。

　ところが。

　クラスに戻ってから、他の友人にその階段のことを話してみると、
「え、そこに階段はない」
　と頑なに言う。
　私と一緒に見た友人も私も疑問符。だから、
「みんなで行こう」
　となって、数人で再び同じところに行った。


　そうしたら。

　地図の通りだった。
　そこに階段はなかった。



　あの場所に階段を見たのは、後にも先にもあのとき以外にはない。だから、上に行ってみなくてよかったなと思う。