上 下
6 / 16
【自宅編】

5・見下ろす存在

しおりを挟む
 母親がいなくなってから怖い夢を見て夜中に起きたときや、いつまで経っても眠れないときは、自分の布団を抜け出して、
「眠れない」
 と、父と一緒に寝ることが度々あった。
 今、思い返せば。同じ部屋に姉と兄がいて、父は頭上のカーテンを挟んで頭を向き合わせて眠っていたというのに、まぁ、ちいさいころからの慣例だったので、『そういう家だったのか』くらいに思ってほしい。

 それで、この日は確かなんだか眠れず、もぞもぞと自分の布団を抜け出し、父のもとへ行ったんだと思う。兄がまだ家にいたので、私は小学生の低学年くらいだ。
 いつもなら、これで私は充分安心して、ぐっすりと眠り朝を迎える。けれど、この日はそれでも寝つけなかった。

 そうして、ふと、なにかの視線を感じた。じっと我慢したが、その視線がどうしても気になってしまい、我慢できなくなった。
 私はすっかりイビキをかいて眠っている父からすこし離れ、部屋を見渡した。部屋には、前述しているように兄や姉や私の幼いころの写真が、壁の上部にズラリと貼られている。当時の私にしてみれば、『いつもの光景』だ。
 ふと、アイドルのポスターと視線が合った気がした。私も大好きなアイドルだ。だから、怖くなかったものの、視線はこれかと思った。
 そのときだった。視界の端に気になるモノがある気がした。私は、百度ほど首を右側に回す。

 私を見下ろす存在があった。──そこは私が教科書などを入れていたカラーボックスの前。布団の真ん前だ。
 そこに、赤く光る人物が立ち、じっと私を見降ろしていた。

 声なんて、出やしない。しばらく目を離せなかった私だが、父がすぐそこにいると思い出し、恐怖に震えながら布団に潜り込んだ。震えながら、父にしがみつく。

 じっと耐え、何分が経っただろうか。危害は特になく、私もすこし冷静になった。そうして幻でも見たのかな? という気持ちになった。
 もし、幻を見たのであれば、もうあの赤く光る人はないだろう。私は安心したくて、消えているかを確認したくなった。確認をして、誰もいなければ単に見間違いだったと安心できる。そうすれば、眠れると思った。
 私は意を決し、確認しようと布団から頭を出す。そうして、いないと思いながらカラーボックスの方を見た。

 私は、もう一度なんて思わなければよかったのにと心底思う。
 幼い私が勇気を振り絞ったその行動は、ほめられたものではなかった。なぜなら、寝転んでいる私を、赤く光る人物がじっと見ていたのだから。
 不思議なほどに私は、その人物をまじまじと見た。すごい度胸だなと思う。

 手には買い物カゴを持っていた。その買い物カゴも、人物と同じように赤く光っていた。
 誰だろうと疑問が沸いて、私は顔をまじまじと見た。

 ――それは、兄だった。

 兄はとなりの部屋で眠っているはずだ。──そう思ったら、まじまじと見ていたことも恐ろしくなった。
 私は必死に父を起こそうとした。すごく、ゆさゆさと揺すぶった。

 しかし、父はまったく起きない。私は背後で光るその存在が脳裏にこびりついていて、どんどん恐ろしくなり布団を被った。


 どうやら、私はそのあと無事に眠れたようで、翌朝を迎えていた。父がいたから、日曜日の朝だったのかもしれない。私は父に昨夜の出来事を話した。
「あのね……」
 しかし、父は、
「夢でも見たんだろ」
 と、私に返した。


 その後、私は『生霊』という存在を知り、あれは兄の生霊だったのではないかと思った。

 まじまじと見たお陰か、今でも鮮明に覚えている。今、思い出してもゾッとするが、あれは、私には今でも兄の生霊にしか思えない。
 兄は幼いころ、よく買い物に行かされていた。──と、祖母はいつだったか、私に話した。
 兄と私は仲がよかった。けれど、兄には、私が母親にも父にも甘やかされていると、憎く思ったことがあったのかもしれない。
 あれは、兄の私への思いだったのではないか。私にはそう思えてならない。

 私の幼少期の記憶は第三者からの視点になっているものも多いが、多分、そういうことだろうと、今となっては思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

カクヨムでアカウント抹消されました。

たかつき
エッセイ・ノンフィクション
カクヨムでアカウント抹消された話。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

合宿先での恐怖体験

紫苑
ホラー
本当にあった怖い話です…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

機織姫

ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり

アルファポリスの禁止事項追加の件

黒いテレキャス
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスガイドライン禁止事項が追加されるんでガクブル

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

処理中です...