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【自宅編】
5・見下ろす存在
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母親がいなくなってから怖い夢を見て夜中に起きたときや、いつまで経っても眠れないときは、自分の布団を抜け出して、
「眠れない」
と、父と一緒に寝ることが度々あった。
今、思い返せば。同じ部屋に姉と兄がいて、父は頭上のカーテンを挟んで頭を向き合わせて眠っていたというのに、まぁ、ちいさいころからの慣例だったので、『そういう家だったのか』くらいに思ってほしい。
それで、この日は確かなんだか眠れず、もぞもぞと自分の布団を抜け出し、父のもとへ行ったんだと思う。兄がまだ家にいたので、私は小学生の低学年くらいだ。
いつもなら、これで私は充分安心して、ぐっすりと眠り朝を迎える。けれど、この日はそれでも寝つけなかった。
そうして、ふと、なにかの視線を感じた。じっと我慢したが、その視線がどうしても気になってしまい、我慢できなくなった。
私はすっかりイビキをかいて眠っている父からすこし離れ、部屋を見渡した。部屋には、前述しているように兄や姉や私の幼いころの写真が、壁の上部にズラリと貼られている。当時の私にしてみれば、『いつもの光景』だ。
ふと、アイドルのポスターと視線が合った気がした。私も大好きなアイドルだ。だから、怖くなかったものの、視線はこれかと思った。
そのときだった。視界の端に気になるモノがある気がした。私は、百度ほど首を右側に回す。
私を見下ろす存在があった。──そこは私が教科書などを入れていたカラーボックスの前。布団の真ん前だ。
そこに、赤く光る人物が立ち、じっと私を見降ろしていた。
声なんて、出やしない。しばらく目を離せなかった私だが、父がすぐそこにいると思い出し、恐怖に震えながら布団に潜り込んだ。震えながら、父にしがみつく。
じっと耐え、何分が経っただろうか。危害は特になく、私もすこし冷静になった。そうして幻でも見たのかな? という気持ちになった。
もし、幻を見たのであれば、もうあの赤く光る人はないだろう。私は安心したくて、消えているかを確認したくなった。確認をして、誰もいなければ単に見間違いだったと安心できる。そうすれば、眠れると思った。
私は意を決し、確認しようと布団から頭を出す。そうして、いないと思いながらカラーボックスの方を見た。
私は、もう一度なんて思わなければよかったのにと心底思う。
幼い私が勇気を振り絞ったその行動は、ほめられたものではなかった。なぜなら、寝転んでいる私を、赤く光る人物がじっと見ていたのだから。
不思議なほどに私は、その人物をまじまじと見た。すごい度胸だなと思う。
手には買い物カゴを持っていた。その買い物カゴも、人物と同じように赤く光っていた。
誰だろうと疑問が沸いて、私は顔をまじまじと見た。
――それは、兄だった。
兄はとなりの部屋で眠っているはずだ。──そう思ったら、まじまじと見ていたことも恐ろしくなった。
私は必死に父を起こそうとした。すごく、ゆさゆさと揺すぶった。
しかし、父はまったく起きない。私は背後で光るその存在が脳裏にこびりついていて、どんどん恐ろしくなり布団を被った。
どうやら、私はそのあと無事に眠れたようで、翌朝を迎えていた。父がいたから、日曜日の朝だったのかもしれない。私は父に昨夜の出来事を話した。
「あのね……」
しかし、父は、
「夢でも見たんだろ」
と、私に返した。
その後、私は『生霊』という存在を知り、あれは兄の生霊だったのではないかと思った。
まじまじと見たお陰か、今でも鮮明に覚えている。今、思い出してもゾッとするが、あれは、私には今でも兄の生霊にしか思えない。
兄は幼いころ、よく買い物に行かされていた。──と、祖母はいつだったか、私に話した。
兄と私は仲がよかった。けれど、兄には、私が母親にも父にも甘やかされていると、憎く思ったことがあったのかもしれない。
あれは、兄の私への思いだったのではないか。私にはそう思えてならない。
私の幼少期の記憶は第三者からの視点になっているものも多いが、多分、そういうことだろうと、今となっては思う。
「眠れない」
と、父と一緒に寝ることが度々あった。
今、思い返せば。同じ部屋に姉と兄がいて、父は頭上のカーテンを挟んで頭を向き合わせて眠っていたというのに、まぁ、ちいさいころからの慣例だったので、『そういう家だったのか』くらいに思ってほしい。
それで、この日は確かなんだか眠れず、もぞもぞと自分の布団を抜け出し、父のもとへ行ったんだと思う。兄がまだ家にいたので、私は小学生の低学年くらいだ。
いつもなら、これで私は充分安心して、ぐっすりと眠り朝を迎える。けれど、この日はそれでも寝つけなかった。
そうして、ふと、なにかの視線を感じた。じっと我慢したが、その視線がどうしても気になってしまい、我慢できなくなった。
私はすっかりイビキをかいて眠っている父からすこし離れ、部屋を見渡した。部屋には、前述しているように兄や姉や私の幼いころの写真が、壁の上部にズラリと貼られている。当時の私にしてみれば、『いつもの光景』だ。
ふと、アイドルのポスターと視線が合った気がした。私も大好きなアイドルだ。だから、怖くなかったものの、視線はこれかと思った。
そのときだった。視界の端に気になるモノがある気がした。私は、百度ほど首を右側に回す。
私を見下ろす存在があった。──そこは私が教科書などを入れていたカラーボックスの前。布団の真ん前だ。
そこに、赤く光る人物が立ち、じっと私を見降ろしていた。
声なんて、出やしない。しばらく目を離せなかった私だが、父がすぐそこにいると思い出し、恐怖に震えながら布団に潜り込んだ。震えながら、父にしがみつく。
じっと耐え、何分が経っただろうか。危害は特になく、私もすこし冷静になった。そうして幻でも見たのかな? という気持ちになった。
もし、幻を見たのであれば、もうあの赤く光る人はないだろう。私は安心したくて、消えているかを確認したくなった。確認をして、誰もいなければ単に見間違いだったと安心できる。そうすれば、眠れると思った。
私は意を決し、確認しようと布団から頭を出す。そうして、いないと思いながらカラーボックスの方を見た。
私は、もう一度なんて思わなければよかったのにと心底思う。
幼い私が勇気を振り絞ったその行動は、ほめられたものではなかった。なぜなら、寝転んでいる私を、赤く光る人物がじっと見ていたのだから。
不思議なほどに私は、その人物をまじまじと見た。すごい度胸だなと思う。
手には買い物カゴを持っていた。その買い物カゴも、人物と同じように赤く光っていた。
誰だろうと疑問が沸いて、私は顔をまじまじと見た。
――それは、兄だった。
兄はとなりの部屋で眠っているはずだ。──そう思ったら、まじまじと見ていたことも恐ろしくなった。
私は必死に父を起こそうとした。すごく、ゆさゆさと揺すぶった。
しかし、父はまったく起きない。私は背後で光るその存在が脳裏にこびりついていて、どんどん恐ろしくなり布団を被った。
どうやら、私はそのあと無事に眠れたようで、翌朝を迎えていた。父がいたから、日曜日の朝だったのかもしれない。私は父に昨夜の出来事を話した。
「あのね……」
しかし、父は、
「夢でも見たんだろ」
と、私に返した。
その後、私は『生霊』という存在を知り、あれは兄の生霊だったのではないかと思った。
まじまじと見たお陰か、今でも鮮明に覚えている。今、思い出してもゾッとするが、あれは、私には今でも兄の生霊にしか思えない。
兄は幼いころ、よく買い物に行かされていた。──と、祖母はいつだったか、私に話した。
兄と私は仲がよかった。けれど、兄には、私が母親にも父にも甘やかされていると、憎く思ったことがあったのかもしれない。
あれは、兄の私への思いだったのではないか。私にはそう思えてならない。
私の幼少期の記憶は第三者からの視点になっているものも多いが、多分、そういうことだろうと、今となっては思う。
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